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一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい

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一つ屋根の下



 嫌な予感がした、とはいえだからどうしたという話だ。

 嫌な予感がするから気を付けて、とわざわざ言うためだけにギルドを出るわけにもいかない。むしろそんな事をしている間にギルドに戻ってきた人の治療ができなくなる。

 明確にどういう感じでよくない事が起きますよ、とかわかってるならともかくそうじゃない。それなのに持ち場を離れるわけにもいかないなんてのは、考えなくてもわかる事だ。


 何が変わったわけじゃない。

 けれどもギルドの中も何とも言えないイヤ~な空気が流れだしてる気がして、どうにも落ち着かなかった。

 ギルド長もそう考えたのだろうか。何とも居心地の悪そうな感じだ。ついさっきまでとギルドの中は何も変わっちゃいないのに。

 むしろ、私よりもギルド長の方が今にも飛び出していきそうな雰囲気すらある。


 まぁ、私と違ってギルド長は戦えるっぽいから出ていったとしても足手まといにはならないと思うんだけれども。


 そうやって何とも落ち着かない雰囲気の中時間だけが刻々と過ぎていって。


 もうそろそろ討伐戦も終わってたっていいんじゃないか……? と思える程度には時間が経過している。

 いや、数が多いって話だから下手したらまだ続く可能性もあるんだけど、でも朝早くから行ったわけだしもうそれなりに戦いも終盤に入った、と考えたっておかしくはないだろう。

 向こうの状況がわからないのが余計にジリジリ焦る感じに拍車をかけてるんだろうな、とは思う。

 怪我の手当てをするべく戻ってきたギルダーから一言二言でも状況を聞けたりはしてたけど、それでもその程度だ。あまり長々と引き留めるわけにもいかなかった。


 ただ、戻ってきたのが私としてはそこまで馴染みのある顔ぶれじゃないってのもあって、一度も戻ってきてないルーウェンさんやディットさん、カイルさんにマトハルさんあたり大丈夫なんだろうか……? と思ってしまうのも仕方のない話だ。

 あの人たちの強さはわかってるけど、だからこそ、というのもあり得るわけで。


 こう……ゲームのイベント戦で主人公を守るために先輩の立ち位置にいる強キャラがその身を犠牲に……って展開はありがちすぎて想像余裕ってくらいだし。

 私の知らないうちに実はギルドに期待の新人とかいてその人が主人公ポジションでした、なんて事だって無いとは言い切れない。

 あとは……魔物の討伐は終わったけどその一件を裏で手を引いてた黒幕的なやつが出て来て連戦、負け確定イベントみたいなやつからの犠牲者が出るパターンとか。


 ここが私の知ってるゲームの世界観とほぼ同じ、というのがなければこういう考えもいや考えすぎかなアハハ、で済むんだけど、そうじゃないからな~もー!

 ゲームだったら、ついでに私がその登場人物だったら多分なんらかの選択肢とかで行動決められたとは思うんだけど、生憎そういうメッセージウインドウとか出るわけでもないし、ましてや選択肢が表示されるわけでもないから何かのフラグを踏み損ねたりして取り返しのつかない事態になってもどうにもできないっていうのがあり得ますよっていう今のこの状況よ……!


 現場は今どうなってるんだ……と気ばかりが焦るような状況が続く事しばし。


「お」

 とギルド長が何かに気付いたように声を上げたのは、そろそろ日没になろうかという頃合いだった。

「帰ってきたようだぞ」

「えっ」

 ギルド長の言葉に思わず私も声を上げた。

 私にはまだわからないけど、気配とかそういうあれかな……? とか思ってるうちに、複数の足音や話し声が近づいてきているのがわかる。ほんとだ帰ってきた。


 けれども、徐々に聞こえてくる音からしてどうにも不穏なものが混じる。

 戦って、普通に勝利しただけであればもうちょっとこう……聞こえてくる話し声なんかが和気藹々としていてもおかしくはないはず。けれどもなんていうか……救〇病棟24時、みたいな雰囲気すら漂ってる気がするんですが……そりゃ途中で怪我をした人とか引き返してきたりしてたけど、まさかここにきて重傷者が多発したとかかな……


 不安になって思わず椅子から立ち上がったのと同時に。


「治療を頼む!!」


 ギルドの扉が勢いよく開け放たれてそんな声が聞こえてきた。

 最初に入ってきたギルダーはそこまで酷い怪我をしているわけじゃない。かすり傷がいくつかと、あとはちょっと見ていて痛々しいなと思える感じの切り傷があったが、既に血は止まっているようだし本人も割と元気が有り余っている感すらある。

 その後に続いて入ってきたギルダーたちも怪我こそそれなりにしているようだが、今にも死にそう、という感じではない。

 けれどもそれは最初の方だけだった。後から入って来る人を見ると、なんというかこれは確かに治療が必要だな、と思えるような人たちばかりで。かろうじて己の足で帰ってきてはいるけれど、もし帰る場所もロクにありません、みたいな状態だったら途中で野垂れ死んでてもおかしくないぞ。


 とりあえずギルドの中に入ってきた人たちへ片っ端から回復魔法を発動させていく。軽傷だった人は早々に治ったけれど、そうじゃない人たちの治りはやや遅い。


「エルテ! すまないがこいつ治せるか!?」


 怪我が治った数名がギルド長に報告しようとしていたのを横目に見て、もう一度回復魔法を……と思っていたら勢いよくマトハルさんが駆け込んできた。

 普段そんな声を荒げるタイプじゃないマトハルさんがそこまで慌てている、となるとこれは相当な一大事では……?

 と思っていれば、ギルドの中に入ってきた人たちは早々にこちらに道を譲るようにして壁際へと寄った。


 駆け込んできたマトハルさん自身、結構な怪我をしているのがわかったけれど、その後に入ってきた人たちはもっと酷かった。

 まずカイルさんは身に着けてた革の軽鎧がボロボロに壊れてたし、上半身に裂傷のようなものが複数存在していた。血も完全に止まってないのか、じわじわと滲んでいる。

 ルーウェンさんは応急処置だと思うけど、頭に布が巻かれていてそこから血が滲んでいる。手足にもいくつかの切り傷のようなものが見えたが、そちらはまだ比較的軽傷と言えなくもない。

 問題はディットさんだ。


 まず意識がないらしく、ディットさんはルーウェンさんに背負われていた。

 こちらも一つ一つの傷の具合はそこまで酷いように見えないだろうけれど、ただ一つだけ、誰よりも重傷だと思える傷がそこにあった。


 腕が、とれかけている。


 なるべく刺激を与えたり振動を与えたりしないようにとても注意深く進んできたらしいけれど、ディットさんの意識は既になく、どころか見れば普段はその高すぎる顔面偏差値の輝かんばかりなかんばせは意識を失っていて苦悶の表情を浮かべついでに脂汗も滲んでいる。

 ちなみにとれかけてる腕は左だ。利き腕じゃないだけマシ、とは到底言えない感じだった。かろうじてくっついてるけど、骨の部分はとっくに切断されていてこれ神経とかアウトでは? と大して医学に詳しくない人が見てもアウト判定下すような状態。


 なんでそんなプラプラした状態のまま背負ってきちゃったの……とは思ったけど、これはあれだな。下手に布で巻いて固定化させようとしてもそんな事ができる状況になかったか、下手に動かしたらそのちょっとの衝撃で……とか考えた結果だろうか。血が思った程出ていないのは、恐らくルーウェンさんが氷の魔法で傷口を冷やしているから……と考えるべきなのかな?


 そんな酷い怪我してる人いるならもっと事前に言ってほしい。心の準備も何もない状態でいきなりそんな重傷見せられてみろ。びっくりしたわ。


 思わず驚いた結果私は反射的に回復魔法を威力強めで発動させていた。

 駆け込んできて治せるか!? とか聞く前にもっとこう、こっちの心の準備に配慮して!? と何とも言えない無茶振りを心の中でのたまいながらも発動させた回復魔法は、ディットさんだけを癒したわけでもなくギルドに足を踏み入れた全員に発動する事となった。

 とりあえず普段の顔馴染みなメンバー以外の、そこまで重傷じゃないギルダーの面々はこの時点で治っている。


 顔馴染みの面々も、とりあえずマトハルさんとカイルさん、ルーウェンさんの怪我は大体治っていると思われる。

 問題はディットさんだ。細かい傷は治ったと思うけど、いかんせんとれかけていた腕がまだちょっと怪しい。一応くっついてはいるけれど、くっついたから完治、とかいうわけでもない。


「そっちのベッドのある部屋に一度ディットさん寝かせて」

 私のその言葉にルーウェンさんは速やかに仮眠するのに使ったりする部屋へ移動していく。

 流石に他の皆が部屋に集まる、という事はなかったけれどそれでも身内でもある以上ルーウェンさんは部屋から出る様子もなく私が回復魔法をかけている光景をじっと見ていた。


 正直な話、回復魔法だって万能ってわけじゃない。

 術者の腕前次第で治せないものは勿論ある。

 一応腕はくっついたけど、これ神経とかちゃんとくっついてる? 大丈夫?

 生憎確認しようにもディットさんの意識は未だ沈んだ状態で、試しに動かしてみてください、とかそういうのを頼める状況でもない。

 腕そのものはくっついたけど、動かそうとしても動かない、なんて可能性だってあるのだ。

 外側の修復は終わっているけど、念には念をとばかりに内側をメインにして治すべく改めて回復魔法を発動させてみたけれど……うぅん、本当に大丈夫かなこれ……

 正直ここまで酷い怪我を治す事って今までの人生においてなかったから、ぶっちゃけ自信がない。


 ディットさんの意識が戻ったらすぐに確認してほしいところだ。

 その上でまだ治りが甘いなと思ったらその時点で調整は可能なはずだし。

 ただ、治したあとであまりにも時間が経過してると改めて回復魔法をかけても効果が薄い場合があるからな……


 ギルドの受付があるフロアからは、何やら話し声がしていたけれどそれも今では聞こえなくなっている。

 恐らくは大体の報告を済ませたのだろう。帰ってきた直後は騒々しいくらいだったけれど、今は隣からはほとんど音がしなくなってる。

 まぁギルドは仮眠室のようなものがあるとはいえ、ここで生活してるギルダーはまずいないからね。

 宿を長期で確保してる人もいるけど、他はギルドで借りてる建物を使用だとか、自宅を持ってる人もいるわけで。

 一応ギルドで寝泊まりしてるのってギルド長だけじゃなかったかな。仕事、というか書類関係家に持ち帰ってやるの面倒でこっちに私室用意してそこで書類片付けてるって前に言ってたし。

 自宅も一応持ってるらしいけど、そっちに戻るのとギルドで寝泊まりするのとは一月で半々……とか言ってたはず。一月の半分は家に帰れないのか……もしかして地味にブラックなのでは? とか思ったけど、そもそもこの世界労働基準法とかあるのかどうかも疑わしいからな……

 というかギルド長の場合は帰りたくても帰れないんじゃなくて、帰るの面倒だからこっちで寝泊まりするって感じだから私の思うブラックとは何か違う気もする。


 いや帰るの面倒になるレベルで仕事あるのもどうなんだろう。うーん、でもそれだけギルドに依頼が舞い込んでるって事で、つまりそれだけ世間は物騒で満ちている……なんてこった。


 自警団の方も地味に仕事は多いらしいし、騎士団とかも場合によっては犯罪者の尋問とかあるし……しかもそっちは最近私がメス堕ちとかいう手段を提案しちゃったからな……精神的にキツイ何かが爆誕してるようにしか思えない。


 ……お仕事って、大変なんだな……


「おぉい、どうなってる?」


 ひょっこりとギルド長がドアを開けてそこから顔を覗かせる。


「腕はくっつきました。ただ」

「ただ……?」

「表面的には治ったように見えてもいかんせん取れかけてたじゃないですか。なので、ディットさんの意識が戻り次第ちゃんと動くかどうか確認しないとなんとも言えないですね」

「ほう、見た目だけなら完全に治ってるように見えるな」

「見た目だけなら、えぇ。

 とりあえずディットさんが起きるまではボクも待機していようと思うんですけど」

「そうか、わかった。寝るならそっちのベッド使っていいぞ」

「あ、はい」


 ギルド長は自分で魔法を使えるというわけではないけれど、それでも多くのギルダーと接してきたわけだし魔法に関して多少の造詣はある。だからこそ私の言いたい事も理解してくれたようだ。


 一度家に帰ってまた明日来ます、とかだとその間にディットさんがギルドから自宅へ戻る可能性もあるわけだし、そうなると私は流石に貴族の家に単独で突入とかできないからね。

 いや、貴族の家ならもしかして私じゃなくても回復魔法使える相手いるんじゃないかな? とか思うんだけども、ルーウェンさんがこっちに連れてきたって事はその可能性は低い、か……?


「ルーウェンは? どうする?」

「俺は一度戻る。エルテ、すまないがディットを頼む」

「わかりました」

 ギルド長に問いかけられたルーウェンさんはほんの一瞬だけ迷うそぶりを見せたけれど、自分がいても特に何かの役に立つわけでもないと思ったのか帰る事にしたようだ。


「それじゃあ明日一度こっちに顔見せてくれ。他の連中からも聞いたけど、それぞれの視点でみた話を確認しておきたい」

「わかった。ではな」


 ギルド長にそう言われてルーウェンさんはこくりと頷くと、ほとんど音を立てずに部屋を出ていった。


「エルテ、悪いが今日は自宅に戻る。明日の朝一で戻るから、それまでここを頼めるか?」

「わかりました。って言っても戸締りしておくだけですよね?」

「そうだな。もし途中でディットの意識が戻るようなら軽く話を聞いておいてくれ」

「はい」

「一応向こうの部屋に多少の備蓄があるから腹が減ったらそこから適当に何か食べてくれていいからな」

「あ、はい」

「じゃあ、ディットの事、頼んだぞ」

「任されました」


 なんていうか初めてのお留守番でもする子供に向けるかのような言い方だったな、とは思ったけど流石にそれを口に出すつもりはない。



 しかし……うん。

 ディットさんの意識が戻ったらすぐに気付けるように一緒の部屋にいるとはいえ、男性と一晩同じ部屋とか冷静に考えるとどうなんだろうなって気がしてきた。

 私が男だと思われてるからギルド長もルーウェンさんも一緒の部屋にいる事に対して何も言わないとはいえ……まぁ、怪我して意識なくしてるディットさんが仮に起きたからって私に対してどうこうするような事もないだろうから、別にそこは気にしなくてもいいか。

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