後方どころか拠点待機
討伐戦当日。
起きて身支度を整えて、ご飯を食べたらすぐさまギルドへと向かう。
どうやら既にギルダーの皆さんは出発したらしい。
というか、日の出前に出発する事になってた、とギルド長に聞かされてだから朝一で待機しておけって事だったのかと納得した。
下手したら早々に怪我をして引き返してきた人がギルドにいてもおかしくなかった。
流石にそういう事にはなってなかったけど。
三日前、話を聞いた時は待ってる間暇だろうから本でも持ってこようかな、とか思ってたけど結局持ってくるどころじゃなかった。
何ていうか、起きて身支度整えてさぁ行くぞ! ってなった時点でそうだ本も持って行こう、とはならなかったので。
とはいえ、一応応急手当の仕方とか改めて再確認したりしたし、本は持ってこなかったけどポーションとかは持って来た。回復魔法で治すほどでもないやつとか、万一魔法での回復が追いつかない場合はこれを使う事になるかもしれない。
ただ待ってるだけなのも不安しか出てこないから、ギルド長に今回の討伐戦に関しての話を聞いてた。
具体的にどこに行ったのか、とかどういう魔物を相手にするのか、とか。
場所としては以前マトハルさんと一緒に薬草を採りに行ったところの近くらしい。
とはいえマトハルさんとは既に何度か薬草採取に付き合ってもらってるから、ギルド長から話を聞いてもすぐにあぁそこか、ってならなかったんだけどね。
私がマトハルさんと薬草採りに行ったところまではまだ安全だったみたいだけど、そこから更に進んだところにどうやら魔物が巣を展開していたらしい。
とはいえ、ギルド長に言われた場所って洞窟とかそういうのあったかな? ってなったのでもうちょっと詳しく聞いてみれば、どうやら木の上に巣を作るタイプの魔物らしい。
コフ、という魔物なのだ、とギルド長は言った。
手先が器用で、単独でも群れでもそれなりにやっていくタイプの魔物。洞窟だとか森の中だとか、割とどこででも暮らせるらしきその魔物は時として木の上に巣を作る事もあるのだとか。
本来ならそこまで凶暴というわけでもないし、単独ならそこまで脅威にもならない……が、群れを形成した場合は一転早々に倒さないと危険な魔物である。
という事をとても真面目な顔で語ってくれた。
単独ならそこまで脅威にならない、というのは単純に餌とするものが幅広いから、との事らしい。
植物の実や花の蜜、時として木の根などを齧る事もあるそうだが、場合によっては牧場などで育てている家畜などを襲って食べる事もあるのだとか。
雑食性なので必ずこれしか食べないというわけでもないので、単独でその個体の性質が穏やかかつ餌も草食系に寄っていれば放置していても特に問題はないらしいのだが、しかし群れを形成し始めるとそういった食料が足りなくなりやがては人里へ進出。人から食料を奪う程度ならまだ可愛いものだが、それも度を過ぎれば最終的に人を襲って食べるようになるのだとか。
うーん、人の味を覚えた熊みたいなものかな。
脳内で熊っぽい魔物を想像していたが、手先が器用という部分がどうにも当てはまらない気がする。
どんな見た目なんです? と聞けばギルド長は身振り手振りを用いて教えてくれたけど……
どう聞いても猿だった。
あー、そりゃね、うん。
猿か。
そりゃ厄介なものになっててもおかしくないわな。
前世だと割と馴染みがあるっていうか動物園の人気者みたいなイメージだけど、実際害獣となると厄介なんてもんじゃない。いや、害獣って呼ばれるタイプの動物はどれも厄介なんだけども。
知能が高い害獣は他にもいるけど、手先が器用っていうのはそう一杯いる感じでもない。人の生活を見てそこから真似して、時として武器になり得る物を使い始めるようなのとか出てくると対処も一筋縄ではいかなくなってくる。
単なる獣ならまだしも、知恵をつけるタイプはホント一網打尽にしないと生き延びた仲間がより厄介な感じにレベルアップしてくるから……
実際少し前に襲われた旅人から武器が奪われたなんて話もあって、成程そりゃ危険だわとしか思えない。
ギルド長曰く、魔物の中でも毛並みが赤みがかったやつならまだしも、真っ黒個体は危険なのだとか。
最初からそういった色合いの毛並みであればまだしも、本来は違う色なのにそうなった場合、そいつらは強化された個体である事が多いのだとか。
赤狼とか黒狼とかも本来の色はちょっと違うらしいけど、あれも強化個体なのだとか。ほーん。
というか本来の狼の毛色から赤とか黒とかに変化するとかどうとか。赤化とか黒化とか呼ばれるらしい。元の色が赤とか黒だと見分けがつきにいのでは……?
今回の魔物、コフは数が多いだけで赤化とか黒化とかした個体は発見されてないらしいので、討伐にしてもそこまで苦戦するものではない、とは言われた。苦戦するものではない、と言っても怪我をしないというわけじゃないからこそ、私がこうして待機しているというわけか。
……なるほど、下手に知能が高いタイプの魔物は敵とみなした人間の集団で、後方に回復役がいるとか理解したら確実にそっち狙ってくるだろうからこうして私は一緒に行くのではなくギルド待機なのか……と同時に理解もできた。
そうだよね、ヒーラーとか普通は真っ先に仕留めるわ。ゲームで敵になった場合後回しにしたら絶対戦闘長引くもんね。下手したら折角倒したやつ復活させてきたりするし。
私は無音詠唱どころか無詠唱で魔法を発動できるから後方で待機しないで皆の中に紛れてしまえばこいつがヒーラーです! みたいにすぐにバレたりはしないかもしれないけど、それはそれで危険だろうしなぁ……
私がもうちょい強くて戦えるタイプだったらそういう作戦も可能だったかもしれないけど。
ギルド長と話をしつつ待機していたら、昼前くらいに第一陣と思しきギルダーの面々が戻ってきた。見た所そこまで大きな怪我はしていないけれど、それでも小さな傷はたくさんついてた。
姿を確認するなりすぐさま回復魔法を発動する。
「そっちはどんな感じだ?」
「思った以上に数が多い。というか、巣が樹上だから破壊するのに苦労する」
「魔法で撃ち落とすにしても火魔法だと木ごと燃えかねないしな」
「数が多すぎて自警団が今交通整備入った」
怪我が治ったのですぐさま引き返していく彼らにギルド長が声をかけて、簡単にではあるけど一応様子はなんとなく聞けた。
この後何名かに分かれて引き返して怪我の手当てしにくると言われたので、私の方も一応気を引き締める。
彼らの話から小さな怪我こそしているものの、今のところは順調らしい。
「自警団が交通整理入った、って言ってましたけど、それは?」
「あぁ、討伐戦に出てる事はあらかじめ連絡されて街の連中は知ってると思うけど、もう終わっただろうと思って外に出る行商人だとかがうっかりそっちに入り込む可能性もあるし、他の町からこっちに来る連中だっているわけだ。必ずしもこっちに誰かが来ているとは限らないが、こういう時に限って、ってのはあるだろ?
だからそういった事故が起きないように、街道の方で人の動きを確認したりってやつだな」
言われて納得する。
討伐戦がある、という話をウルガモットでされていたとしても、確かにいつ終わったかどうか、なんてのはギルドで問い合わせたりしないとわからないよな、とは思う。
何時から何時まで戦います、とかそんな予定時間内に終わるものでもないだろうしね。
時間がきたら残党がいても戦いません、じゃ意味がないわけだし。
ギルドで一応終わったかどうか確認してくれればいいけど、そうしないでもう終わっただろう、と安易に決めつけてそれじゃあそろそろ出発しようかな、とか外に出る人がいないとも限らない。今は終わってなくても自分がそこを通る頃には終わっているだろう、とか考える人とか。
そういうのが無防備に通りがかってコフが「あっ、あいつなら倒せそう」とか思って襲い掛かる可能性だってあるわけだし、そうならないために自警団が追加で派遣されたという事か。
ウルガモットから出て行く人だけじゃなくて、本当にたまたま今日この日にウルガモットに来る事にした、なんて人だっていないとも限らないし。どこからくるかにもよるけど、場合によっては討伐戦真っ只中に巻き込まれたりしないとも限らない。
そうこうしているうちに、軽傷ではあるものの怪我をしたギルダーが何組かに分かれて戻ってくる。
けれどもすぐさま怪我を治せば休む間もなく引き返していく。
「……今回の討伐戦は長引きそうだな……」
ギルド長も彼らの様子から怪我そのものは大したことではなさそうだけど、でもまだまだ時間がかかりそうだな、というのは感じ取ったらしい。
うーん、もしかしたら私今日ギルドに泊まる可能性でてきてたりするかな……?
一応ギルドには仮眠室というか休憩室というかな部屋があるから、その場合はそこの部屋借りる事になるとは思うんだけど……
とはいえ宿泊施設ってわけじゃないから、本当に寝る以外何もする事のない部屋、って感じなんだよね。
どっちかっていうと怪我をした人とかがちょっと安静に休んである程度落ち着いたら出てく、とかそういう感じで使われたりする部屋だ。
学校の保健室、みたいな感じが少し近いかもしれない。寝る事は可能だけど、快適かっていうとちょっと微妙……みたいな。
「食事とかはとれてるんですかね?」
「一応携帯食料とか持ってってるから飲まず食わずってわけじゃないだろ。とはいえ、戦闘中は流石に無理だろうけどな。こっちに引き返してる時か、ここから出て向こうに着くまでの間で多少の補給はしてるはずだ」
携帯食料ってあの何か小麦粉練って焼いた感じのあれかな。カ〇リーメイトっぽいけどぶっちゃけ味はカロ〇ーメイトの方が圧倒的にマシだった。というか、味が思った以上についてなくて食べるの凄いつらかったんだよね。もっとこう、味をつけろと言いたい。
チーズとかチョコとかさぁ。フルーツ味の再現は個人的に難しい気がするけど、チーズとチョコならどうにかなるのでは、と思っているだけに余計に残念さが際立っているやつだ。
えっ、魔物と戦って怪我までしてるのに途中の食事がそれなの……?
いやでもあまり美味しそうなの食べてたら魔物がそれ狙って奪う可能性もあるよな……干し肉とかもじゃあ無理か。下手に途中で食料狙われて奪われた挙句巣にこもってる仲間の魔物が食べたりする事を考えると、奪われてもあまり困らないものを持ってった、という事なんだろうか。
食料奪うのがわかりきってるなら事前に毒を仕込んだりもできたかもしれないけど、大抵ああいうのってそういうのには敏感だからな……
私はギルドに待機してるので携帯食料などではなく、ギルド長が用意してくれたご飯を頂いている。
というか、もうお昼なのか……って感じでご飯出されてそこでギルダーの人たち食事どうしてるんだろ、って思ったわけで。
安全圏でのんびり待機してる私だけマトモな食事にありついてて申し訳ないな、という気持ちは勿論あるけど、だからってここで携帯食料を食べるという選択肢は無い。
いや、あれ、食べたらお腹は確かにそれなりに膨れるんだけど、気力がごっそり減るんだよね。
ゲームだったらきっとHPは回復してもMPとか減るやつ。絶対そう。
ご飯を食べ終わった後にも、何度かこちらに戻って来て怪我の治療をしていったギルダーはいた。
というか、最初に比べて怪我の度合いが大きくなっている。
昼前に来てた人はかすり傷がいっぱい、とかそんな感じだったけど、今はあきらかに爪か何かで切り裂かれたみたいな傷を負ってる人もいる。むしろそんな怪我人が増えつつあった。
「おい、大丈夫か?」
「えぇまぁなんとか……ただ、少しだけど赤化個体が出てきたもので」
「なんだと!?」
「とはいえまだ対処できる範囲です。じゃ、あとちょっとなんでパパっといって片付けてきますよ!」
回復魔法で怪我が治ったばかりのギルダーにギルド長が声をかけると、彼はこちらを安心させるつもりなのかにぱっと笑みを浮かべてギルドから出ていった。
「赤化個体っていうと、通常のやつより強いやつですよね」
「あぁそうだ。しかし……少しとはいえ厄介だな……」
何事もなく終わればいいんだが……なんて重々しく呟くギルド長に、何かイヤなフラグが立った気がして思わず二の腕を擦った。言いようのない悪寒がした気がしたもので……
強い、と一言で言っても強さにだって種類がある。
純粋に腕力が強化されました、とかならまだわかりやすいけど、コフはどっちかっていうと手先の器用さだとか知恵の回し方だとか、そういう方面が強化されたりしないだろうか。
もし、もしそうだとしたら……
なんというか、嫌な予感がした。




