尋問官、未経験
そういうわけでディットさんと一緒にヴィンセントさんとやらの案内で尋問してほしい人物がいるという牢までやってきたのであった。
……おかしいな。私ギルドでは怪我人を治したりするお手伝いする役割というか役目であって、決して犯罪者を痛めつけて情報を聞き出すとかそういう仕事に就いてるわけじゃないんだけどな。
ちなみに牢に来るまでの間で、ヴィンセントさんからその男の情報を聞いた。
花祭りの時に酔って大暴れしただけだから、罪状としてはそこまでではないんだけどそれ以前にやらかした犯罪の事もあってすぐに牢から出すわけにはいかないのだとか。
酔って暴れた、程度なら一日頭冷やしておけ、で済むのかもしれないけど、花祭り終わってからもう何日経過してると思ってるんだ。
その一件だけで牢に引き留めてるのもしかして……?
他の事件とやらの件で引き留めてるにしても、本人が黙秘貫いてたらそろそろ釈放しないといけないのでは?
いかんせんこの国っていうか世界の法律どうなってるのかよくわかってないけど、前世だったら不当逮捕とか言われたりしない? 大丈夫これ?
まぁ盗賊とかアジトに乗り込んだ時に全員生け捕りじゃなくて場合によってはその場で殺し殺され、って感じだからそこら辺緩いのか?
この手の疑問が出るたびにあんま考えないようにしよう、とか思ってもつい考えてしまうのは悪い癖かもしれない。
ちなみに他の事件に関して、のそっちはあまり私には詳しく教えられなかった。大雑把には言われたけど、なんていうか肝心な部分がふわっと濁されてるというか……
とりあえずお薬関連の犯罪、というのは理解した。
って事はあれかな、麻薬とかそっち系かな。
普通に売るだけならまぁ、よくある話ではあるけど中毒者とか作ったりそれによる薬欲しさの犯行とか前世でも刑事ドラマとかサスペンスとかで出てくる展開に近いやつなのかもしれない。
若い女の子中毒者にして薬欲しさによる仕事の斡旋――まぁよくあるのは売春とかか。
女の子だけじゃなくて場合によっては男の子もその犠牲になるやつですね。
一応まだ私こっちじゃ未成年だから、そこら辺ぼかされたのは配慮もあるのかな……? いや多分配慮違うなと思うけど。配慮するくらいならまず私に尋問という名の拷問とか頼むはずがない。
ディットさんはその事件に関しての内容を私よりは把握しているようで、ギルドを出たあたりからずっと表情が固い。
なまじ顔が整ってるので、不機嫌そうな表情もとても麗しいですねとか言えそうなんだけど同時に不機嫌オーラ漂ってます、みたいな感じなんで下手にそんな事を言えるはずもなかった。
事件の内容が胸糞だからそうなのか、それともそういった相手と私を合わせる事に対してそうなのか……うーん、両方かな。
ちなみに案内された牢には壁から出てる手錠で拘束された状態の男が一人。
ギルド長も筋骨隆々とした感じではあったけど、ギルド長に勝るとも劣らない体格。腕とかぶっといもん。いや私の何倍これ。何かうっかり殴られたら普通に骨折れそう。私の。
鍛えてるギルダーとかはまぁ、一撃は耐えると思うけどそういう荒事とかに無関係な街の人……例えば年端もいかない子とかなら一撃ぶん殴られただけで死ぬんじゃないかな? って感じがする。死ななくても確実に骨は折れるだろうし内臓も破裂してる可能性が高い。
捕まって数日が経過してるから、多少体力とか落ちてるとは思うけどそれでもそれだけで安全だとは到底言えそうにない。
じゃらりと鎖が鳴る音がした。
見れば既に何度か殴られた様子。でもこの程度じゃこの人には全然効果がないのだろう。
っていうか、この人殴り殴られが慣れきってる感じするんですが。
いやあの、普段殴られた事のないような人とかだとほら、暴力に怯えて屈する事もあるとは思うんですが、暴力が日常に普通に存在してるタイプってそれを脅威と思ってるかどうかは別の話じゃないですか。
そりゃ殴られたら痛ぇなちくしょう、とか言うかもだけど、次の瞬間には自分も殴り返してるとかじゃないですか。
殴られた痕以外だと鞭か何かでひっ叩かれたっぽいのもあるけど……貴重な情報源を死なせるつもりもないのか手加減されただろう事はなんとなくわかる。
え、これ……私が結界でぶん殴って回復、みたいなこの前の盗賊たちと同じ手法だと無理でしょ。
あいつらは殴られる事は多少慣れてたっぽいけど多分仲間内の殴り合いとかが普通で、それ以外の敵対勢力とは恐らく刃物持っての殺し合いとかだと思うのよね。だから殴られる痛みって慣れてなかったか、はたまた仲間と一緒に脅されて最悪一人だけ残して殺されるっていう展開は今までなかったからこそ上手くいった感もある。
でもこの人一人だけだから、貴方が喋らないなら仲間のこの人も酷い目に遭います、はできない。
え、ちょ……どうしたものかな。考えろ、ってか前世の記憶から何かいい感じのものがないだろうか。思い出そうとしても正直そういった物騒知識はあまり豊富じゃないんだけどな……
ホラーとかは割と平気だったけどスプラッタは苦手だったんだよね。あの、実際の血じゃないってわかってても何かこう、血まみれになってる俳優さんとか女優さんとか見てるとですね、見てるこっちがいたたたた……ってなるんですよ。
怪我してる部分と同じ部分が痛く感じるとかでもなくて、何か足に力入らなくなる感じで「うわぁ」ってなってたんだよね。前世だと。
今はそういうのないんだけど。
大人になってからはそれなりに平気になってたけど、小学生の頃にみた昔の映画とかで危うくトラウマになりかけたもの。
映画の内容全然覚えてないくせにその一連のシーンだけ覚えてるもの。映画のタイトルも覚えてないから何かの拍子にうっかりまた見るかもしれない可能性を考えて、ホラーかサスペンスかわからないけどそれっぽい作品で海外のやつはおかげで見るの控えてた。
さて、私がそんな風にえー、どうしよーと悩んでいる間に、どうやらヴィンセントさんやディットさんが彼との会話を始めていたし、早々に煽り返されてヴィンセントさんの額には青スジが浮かんでいたし、ディットさんの表情は完全に抜け落ちて『無』であった。
顔が整ってるから余計に怖い。
とてもよくできた人形ですって言われたら信じてしまう人しかいない。
むしろとてもよくできた人形に魂が宿りました、とか言われても信じる人続出だと思う。
とりあえず意識が若干別方向に向いてたけど私だって聞いてなかったわけじゃない。
要約するとお前らに情報なんて吐くわけがないし、むしろ騙される方が悪いんだよ、との事。
お薬関係の事件だって話だったし、つまりは薬物中毒にされた人とかを言ってるのだろうか。
詳細がわからないから私の想像全部間違ってる可能性も否定できない。
けど、まぁ、この人こっちの事完全に舐めてるな、ってのはよくわかった。
でもその態度もこのメンバー見れば仕方ないかなって思わなくもない。
だって向こうは今現在拘束されてるとはいえ筋骨隆々な大男。
こっちは細身の男性であるヴィンセントさん。多分筋肉はあると思うけど、ゴリマッチョとかではなく細マッチョレベル。
そしてディットさん。彼も細身タイプ。なんていうか、お話の中に出てくる線の細い美青年とかそういう系統。
そして私。外見に関して今更言う必要ある? って感じの三名だ。
私がこの大男だったら間違いなく鼻で嗤って馬鹿にするわ。どう見たって強そうに見えないもの。ディットさんはそれなりに強いらしいけれども、でも大男のぶっとい丸太みたいな腕から繰り出される拳とかもろに食らったら骨とか当たり前のように折れそうだし。
いくらこっちの数が多くても強そうなのが一人もいないんじゃ、この男だってそりゃ口を割るはずがない。
なんて思ってたら早々にブチ切れたらしいディットさんが剣を抜いて男の腕に突き刺した。ぐぅ、と男も呻いたけれど叫んだりはしていない。
「ふざけるなよ、あの一件でどれだけの犠牲者が出たと思っている」
ディットさんが突き刺したのは男の左腕、手首と肘の中間点くらいの場所だ。手枷から伸びた鎖で壁側に固定されているとはいえ、ディットさんの剣も男の腕を貫いてその先の壁にぶつかる勢いだったのか、結構な音がした。それこそ腕を壁に縫い付ける勢い。
目は口程に物を言うとはいうけれど、その時のディットさんの視線の冷ややかさといったら。
自分があんな目向けられたら恐怖でひぇっ、てなってる自信しかない。
対する大男もディットさんを睨みつけていた。
まぁそうね。痛めつけられてにこやかにできるかって話よね。
でも、正直悪手である事に変わりはない。
これでますます大男が口を割ろうなんて思うはずもないからだ。
えー、これどうしたらいいんだろ……前世でプレイしたゲームでこういう感じのイベントあったとかならそれ参考にできるけど、生憎拷問するゲームとかやった事ないんだわ。
いっそ自白剤に頼った方が早い気がしてきた。手続きが面倒だけど。




