前世だとまずアウト
花祭りが終わって数日後。
この頃にはすっかり気温も春らしくなってぽかぽかした日差しが暖かくて、なんていうかですね、お昼寝とかとても捗るわけなんですよ。
ぶっちゃけ朝起きた時も二度寝とか至福の極み。
まぁ二度寝したところで元々朝早い時間に起きてたから、二度寝して起きてもまだ世間一般では朝、くらいの時間に起きてるんだけどさ。
でも多分学校の授業とかは確実に遅刻する時間までは寝てる。
その上でお昼寝とかもとても気持ちいい。
というか二度寝といいお昼寝といい、なんていうかこう……精神的なブーストというかバフ? かかってる気がするよね。
二度寝とか本当だったら起きなきゃいけないのにでも寝ちゃうという背徳感たっぷりだし、お昼寝に至ってはなんていうか今世間の大半は一生懸命働いてたり勉強してるはずなのに自分はそんな中寝ちゃうとかさ、窓から見える空の色がこれまた綺麗な青とかだと更にいや~こんな中寝ちゃっていいのかしら、みたいな気持ちになったりとかね。
お子様なら昼寝してても何もおかしくない感じだけど、お子様はお昼寝しても別に何も思わないじゃないですか。でもいい歳した大人がってなると途端になんていうか……なんかすっごい時間を贅沢に使ってる気がするわけで。
一応私まだこの世界では未成年なんだけども。
でも前世の記憶のせいで成人した意識もあるからなぁ。
お昼寝とかとても心地よいけど、だからって外では寝ないよ流石に。
街の中にある公園とかのベンチに寝そべって寝るとか気持ちよさそうではあるんだけど、治安がそこまでいいわけでもないからな……表向きそこまで悪くはないけど、それでも金目の物盗もうとする奴とか、いないとは言わないからね。
昼間のうちに身ぐるみはがされるような事にはならないと思うけど。
けど夜のうちに酔っぱらってそこらの路地裏で寝ちゃう人とかは大体身ぐるみはがされてるらしいよ。
起きてる分には大丈夫だと思うんだけど、寝てたら何されても文句は言えない……そんなところなのかな?
前世だと地下鉄とかバスとか列車の中で座ってうたた寝しちゃう人とかいたけど、こっちの世界だとそのノリでその辺で寝ちゃったら財布スられる覚悟はしておかないとかな。
そんなわけなんで最近は午前中にお店やってお昼寝してからギルドに行く事もしばしば。
そこまでお腹空いてない時はお昼ご飯食べないままちょっと昼寝して、起きてからギルドへ、って感じかな。まぁ昼寝っていってもガッツリ寝てるわけじゃないからね。昼のうちにガッツリ寝るような事になったら夜眠れなくてそのうち昼夜逆転生活になりかねないので、流石にそれは不味いと自覚してはいる。
どのみち夏になる前にはこの習慣もやめるんじゃないだろうか。
夏は夏で暑さで眠れないとかありそうだし。
というか去年はそんな感じだったし。
で、ギルドに行ってみれば何とも小難しい顔をしたギルド長と……騎士団の人がいた。
騎士団の人は制服がいかにも、って感じだから見たらわかる。自警団の人は場合によっては私服の時もあってわからない事もあるけど、騎士団の人大体制服。
「あっ、丁度いいところに!」
そう言ったのは騎士団の人だった。
……うん? 今私見て言った? 丁度いいところに? え、何。
「実はお願いがあって来ました」
「え、ボクに……?」
「はい。以前貴方の尋問の手腕を見て、今回も是非に、と」
「ん……?」
尋問?
んん?
あ、よく見るとこの人前にルーウェンさんと一緒に盗賊の仲間から情報聞きだす時にいた人だな。ルーウェンさんの知り合いだ。多分自分の今後の人生に関わる事もないだろうなと思ってたから忘れてたけど、よく見れば見覚えのあるお顔。
「あれ尋問の範疇に収まるんだ。てっきり拷問って言われるかと思ってた」
「え? でも、怪我してませんよね。無傷だったじゃないですか」
にこりと微笑む彼は、皮肉でそう言っているわけでもないらしい。
えっ、いや、自分でも言われたらそう言って開き直るくらいの事はする事もあるけど、それ、貴方が言っちゃうんです……? ってなるよね。
結界でボコボコに殴り続けたけど、回復魔法も間に挟んでたから確かにあの時の盗賊たちは無傷だった。最終的には。
あの後例え外に出たとして、尋問通り越して拷問された! なんて彼らが言いふらしたとしても、拷問された様子は全くないわけで。
いやね? これが本当に拷問されたんだな、ってわかるくらい目に見える傷とか怪我があればさ、まぁ酷いって感じで同情票もぐんぐん上がるとは思うけど、無傷の男がそんな事言ってもさ。
何言ってんだ? ってなるよね。
心に多大なる傷を負った! とか言われてもさ、心の傷なんて目に見えるものじゃないから中でお説教されただけなのに大袈裟な事言ってる、とか思われる可能性もあるよね。だって無傷。五体満足ぴんしゃんしてる奴が何言ったところで信憑性はどこにもないわけで。
だってその理論が罷り通るならお子様がお母さんから嫌いなピーマン食べろって言われた! も拷問扱いになっちゃうわけじゃん?
そういうセリフはマジの拷問受けてから言えってなるやつじゃん? 仮にあの野郎どもが拷問を受けていたとしても。
回復魔法というアフターケアがある以上拷問とは言えないのでは? というのが私の見解です。
てか、拷問する時だって多少の怪我の手当てして末永く苦痛与えて、とかあるかもだけど、そういうのの手当てって最低限が止血だけとかそういうやつじゃん。
しかもその止血だって丁寧に傷口を消毒して包帯を巻く、とかではなく場合によっては焼けた鉄製の何かを押し付けての止血だったりする事もあるじゃん。
しかも場合によってはその焼けた部分を冷やすのに塩水とか使って更なるダメージ与えるやつじゃん。
前世表紙に騙されて買った漫画がまさしくそういったリョナ? とかグロとかそういう系統ジャンルだったからな。作者名も特に調べず本当にただ表紙絵だけで買っちゃった結果トラウマになりかけたからな。まぁ割とすぐ慣れたけど。
そういったジャンルから得てしまった無駄知識のせいもあるけど、だからこそ私がしたのはまだ尋問の範疇だと言い張れる。
でも私はきちんと客観的な視点も持ち合わせてるから、下手したら拷問の可能性もあるなって思ってたんだけど……まぁ騎士団の人が尋問っていうならもうそれでいいや。
とりあえず話を聞いてみれば、先日捕まえた犯罪者の中でちょっと他の事件で追ってた奴もいたらしく、そっちの情報を聞き出したいんだけど口を割るつもりがこれっぽっちもなさそうで難儀しているのだとか。
……ご禁制ではあるけど、やっぱ自白剤系統のお薬作っておいた方がいいんじゃないかな。
でもあれ作るの面倒だしな。数まとめて作って納品したとして、それちゃんと全部正しく使ってくれるかどうかもわからんし。
純粋無垢とは程遠いんで騎士団内部で不正腐敗が罷り通ってても驚かない自信しかない。もしそうだとその手のお薬作れる私は何か不都合な事があれば容赦なく冤罪けしかけられて処分されるだろうなとも思ってるから、ご禁制のお薬関連は自分から口にするつもりはない。ルーウェンさんは私が作れるっていうの知ってるけど、彼もわざわざそれを口に出したりはしないだろう。
ともあれその人を尋問しろって事か……え、それギルドのお仕事じゃないよねどう考えても。
いや、情報聞きだすっていうのは大事だとは思うけど、でもそれ、私がやるべき事ではないよね?
明らか乗り気じゃない顔をギルド長へ向ければ、彼もまたとても難しい顔をしていた。
だってこれ、最悪何かあった場合その情報持ってる人を痛めつけたのは私だし、責任問題発生したらギルドにくるよね。そもそもの原因が騎士団にあったとしても。
この人ルーウェンさんの知り合いって話だったけど、どこまで信用していいかも私にはわからないし。
二つ返事でいいですよーって言うにはちょっとな、としか思えない。かといって断るにしても断り方次第では何か面倒な事になりそうな気もしてるし……
と思ってギルド長に視線でヘルプを訴えていたら、とりあえず応えてくれた。
「なぁヴィンセント。そいつうちの補佐役でな。そういった荒事は元々関わらせるつもりはないんだ」
「ですが……貴方だってご存じでしょう。あの事件のこと。牢に入れるにしてもずっとは無理ですし、今のうちに情報を聞きださないとまたあの事件は起きますよ」
「む、むぅ……」
おっとギルド長の旗色が悪い。そこで言い負かされるっていうか口ごもるって事はもしかしてかなり面倒な事だな?
ギルド長としては私は一応ここの怪我人を治したりする手伝い、って認識だからあまり荒事に巻き込むつもりはないってのはそうなんだろう。でも、その事件とやらが何かはわからないけれど見過ごすには問題があるレベルのものだってのは何となくギルド長の反応からも窺い知れる。
「そいつ一人で行かせるのは流石にな……せめてうちからもう一人、付き添いをつけたい」
行かせない、という選択肢はギルド長の中で消えてしまったようだ。
けど私一人で行かせた場合何かあった時に困る、って事なんだろう。
苦渋の決断です、みたいな顔してるけど、付き添いったって……今ここ他に誰かいる?
普段はそこら辺で集まって何かの情報交換してたりする人もいるけど、今結構静かだし人ほとんど出払ってるよね。え、誰か戻ってくるまでここで待機? 騎士団の人――ヴィンセントさんだっけ――が、そこまで悠長に待ってくれるかな?
「ただいま戻りました」
なんて思ってたら、何らかの依頼を終えて戻ってきたであろう人物が扉を開けてやってきた。なんというタイミング。ギルド長もそう思ったのだろう。天の助けとばかりに声を上げた。
「ディット! 大至急頼みがある」




