ちょっとした雑談
棘を丁寧に抜いた後の花がテーブルに追加される。
あっ、これも編めって事ね、なるほど。
ところでこの編んだ花、飾るとは言われてるけど具体的にどうやって飾るんだろう?
そう思って正面で作業をしているディットさんに問いかければ、色々と返された。
いろいろ……とは……?
「花冠として使う人も出るだろうし、あとは建物に飾り付けたりかな。花冠は基本的に自分たちで調達した花で編んで各自で、って感じだから今わたしたちが作っている大半は建物の方に使われる」
「建物に……?」
と言われてもあまりよく想像できないが、それでもどうにか想像してみる。
確かに一部の柱部分だとか、そういうところに引っかけたりはできると思う。あとは建物の外壁に張り付けたりだとか。
うーん、うん、まぁ、あれか。お誕生日に折り紙とかで作る輪っかのやつの花バージョンって考えればまぁ、うん。発想がしょぼいのは前世庶民だからだよ。仕方ないね。
っていうか、花冠として頭に乗せるにはこれ色々と付け足してるから重たいと思うんだけどなぁ。
「あの、じゃあもう一つ。こっちの花は編んでるけど、向こうの、小さく切り分けてるやつは……?」
「あれは降らすんだよ。普通サイズの花だと上から降らせるにしてもただ落ちるだけになるからね。あとは……そうだな、比較的綺麗な花びらなんかもそういう用途に使われるかな」
「はぁ」
なるほどね。理解できた。
アジサイみたいなちっさい花がいっぱい集まった感じのやつとかちまちま切り分けてるけどあれどうするんだろ、って思ってたけど、そういう用途か。
確かにあの花一つだけで上から、ってなるとふわって舞うどころかぼとって落ちるわな。そりゃ切り分けるわ。というか、切り分けた後のやつ見ると元の花とはまた違った印象だなぁ……
あとは綺麗な花びら、って言われて納得した。
切り花とかは長持ちさせるにしても花の状態だとか、ちょっとしたコツとかいるって聞いたけど花びらならまぁ、うん。降らせる手前であまりにもひどいのはパッと見でわかりそうだしね。
とはいえ、ナマモノなのであまり事前に準備もできないからこうしてあちこちで準備に奔走してる人がいる、と。
去年の私とどっちがマシだったんだろう。
去年の私花とはあまり関わらなかったけど、薬草ゴリゴリ乳鉢ですり潰したり、延々刻んで鍋に入れては煮込んだりしてたもんな。
準備の度合いとしては薬の方が最終的に誰かの役に立つ、とは思うけどお祭りの準備は後の楽しさが待ち構えてるわけだし……どっちが凄い、とかではないのよね。
個人的には去年のうちにリタさんと一緒にお祭り体験してみたかった、とは思うけど、今にして思えばリタさん多分自分の死期悟ってたかもしれないんだよね。だからあの時お祭りの事なんて知らせないで自分が知る限りの薬の事を教えてたんだと思うし……
「去年は参加してなかったんでしたね。この時期全く外には?」
「あー、はい。家の中の事はしてましたけど、買い物とかはリタさんが」
そう、私もそこ全然おかしいとは思わなかったんだよね。いや、元がインドア派だから、と言ってしまえばそれまでなのかもしれないけど、それ以前にだ。
前世ならさ、ちょっとした用事で外に出るとかしたよ?
コンビニで新発売のお菓子買うとか、気分転換に何か面白そうな本ないかなって本屋巡りするとか、ちょっと美味しい物食べたいなってなってカフェとか個人経営のパン屋さんとかパティスリーとか足運んだりだとか。
……こうして考えるとインドア派とか嘘だろ? って思うかもしれないけど、実際はインドア派です。
しっかりお家にこもるために適度に健康のため歩いたりする事もあるしそのついでにあちこち色んなお店開拓してたけどインドア派ったらインドア派です。
でもこっちの世界っていうか、ウルガモットの街だとコンビニがあるわけでもないし、お店はそれなりにあるけどそれだって多分本気出してあちこち見て回ったら一週間あれば見終わる感じなんだよね。
流石にそれは楽しくないっていうか楽しみが減るっていうか……なんでゆっくりと時間に余裕がある時にまったり見て回ろうかな、くらいの認識なのよ今。
去年はどっちかっていうとリタさんから色々教わるのに忙しかったから、外を見る事はあんまりなかったというか、どっちかっていうと外行くってなるとウルガモットの外で薬草採取とかだったし。
ゲームだったらさ、最初の町とか村からとにかく出て世界中回りたいとかあるけど現実だとなぁ……
仮に今この世界に魔王とか出て来て勇者募集とかそんな感じで旅に出るような展開になったら私は全力で引きこもるぞ。ヒーラー的ポジションになれるかもしれないが、ぶっちゃけヒーラーって危険すぎない?
私が敵なら真っ先にヒーラーから狙うけど。ゲームだとこう、先頭にいるキャラが狙われやすいとか前衛後衛で隊列組んでる場合前衛が狙われやすいとかあるけど、ゲームじゃない現実だったら基本的に回復要員から倒すと思うんだよね。だってその方が確実に早く終わるもの。
私の知る知識の範囲内でのゲーム内容であればまだしも不確定要素多すぎて下手に冒険の旅とかに出たいとも思わないんだわ……というかマトハルさんとかいうイレギュラーとかね、考えるとね……波乱万丈な人生は望んでないのでできるだけ平穏に過ごしたい。
「家の中……リタさんからは薬について教わってたんでしたっけ? 魔法は?」
「……簡単な知識程度ですね。あくまでも薬メインで」
ディットさんはそういや私が無詠唱魔法使う事に食いついてたな、と今更のように思い出す。
あれ以来あまり顔を合わせる事もなかったし、合わせてもその時はお互い用事があったからかぐいぐい来る事もなかったしですっかりもう興味とかなくしたものだと思ってたわ。
実際リタさんから魔法に関して教わった事はそう多いわけじゃない。
というか、私が使える魔法とリタさんが使う魔法の範囲が割と異なってたんで教えてもらってもあまり有効活用できなかった、が正しい。
リタさんは場合によっては風の魔法で材料をスパッと切断していたこともあったけど、私はそういうのできないしな。精々そよ風くらいしか起こせないし。
中には葉っぱは必要なんだけど切り刻んだ時に出る汁は逆に要らない、みたいなのとかリタさんは水の魔法で洗い流しながら風の魔法で細切れにする、なんてのもしてたけど、私にその芸当は真似できなかった。複数の魔法を同時発動できないわけじゃないけど、リタさんと全く同じことをやれってなると無理。
「教わった中で一番使えたのは精々薬を作る時にちょっとだけ魔力を混ぜると効果が上がるとかそういうやつくらいでしょうか」
「それ、かなり難しいやつでは……混ぜる量を間違えると薬としての効能がなくなるとか、そもそもの薬効が変質するとかいうやつ」
「そうですね。おかげで最初の頃はいくつか失敗しました」
花を編みながらの会話ではあるが、ディットさんの手は速度が緩む事もない。花を編む達人か?
薬を作る時に魔力をちょっとだけ込める、というのは一応世間でも知られたものだ。
けれどもこれが、とても難しい。
何となくイメージ的にいっぱい混ぜた方が効果も高まりそうだけど、実際は違う。
むしろ混ぜすぎると薬の効果が変質したりするので本当にちょっとだけ、それこそ料理の隠し味よりも少ないくらいだ。それだって薬の種類によって混ぜる量が異なるから、見極めができないうちは失敗作がずらりと並ぶことにもなり得る。
とはいえ、必ずしも魔力を混ぜる必要はない。混ぜなくても普通の薬としての効果はある。ただ、うまい具合に混ぜたらもっと効能とか品質とか色んなものが上がるってだけで。
だから大抵の薬屋さんだと魔力混ぜたりしてないやつが普通に売られてる。
うちは魔力込めて売る事もあるけど。
リタさんからはその魔力をこめる量の調整とかそこら辺色々と叩き込まれた。量りもないのに正確に量を計量しろ、みたいな無茶振りは職人にでもならないと無理では? と何度も思ったものだ。
ちなみに。
あくまでも作る時に魔力を込めるのであって、出来上がった後で込めるのは意味がない。
なので市販の薬を購入してそこに自分で魔力を込めて効能をアップ! とか思っても全く無意味。製造過程でやらないと意味がないというものなので、魔力を込めた薬を売る事ができる人間は割と限られてる。
魔力の後入れが可能であれば、今頃薬屋業界は作る側と込める側で分かれて協力体制とってる。でも実際は無理なのでそんな事にはなってない、と。
「その、やはり魔力を込めるコツとか覚えたら魔法使う時にもそれなりに有効活用できたり……?」
「んぇ? あ、いや、正直魔力を使うって点では同じに見えますけど実際は違うからあんまり……
魔法を使う時は魔力の流れを淀ませないのが重要で、薬に魔力を込めるのは多少滞ってもいいから確実に正確な量を込めろって感じなんで」
上手い例え話がみつからないけど、それでも無理矢理例えるなら魔法を使う時はなんていうかこう……ドライヤーの風みたいな感じで常に一定の魔力を消費する感じなんだよね。最初から威力強めに、とか弱めに、とかやる場合は多少魔力量も変動するかもだけど。
でも薬に込める時はどっちかっていうと一定量流しちゃうと勢い余り過ぎて失敗する事もあるから、ガスコンロの火力調整みたいな感じで薬によっては強火弱火みたいに変更する必要が出る。スポイトとかで一滴ずつ垂らす、みたいなのでもまぁどうにか。
でもそれと同じ要領で魔法を使おうとすると、途中で力の流れが滞るから暴発したり失敗して発動しないなんて事になる。
魔法関連の事を教えてもらった時は大体魔力の流れを把握しろ、が常だったからな。そんなとても感覚的なものをどうやって理解しろと、と最初の頃は思ったものです。
いやまぁ、私の場合は何か昔から普通に使いこなせてたから実際そこまでギャンギャン言われたりはしてないんだけれども。
とはいえほぼ無意識で使ってるようなものなので、いざ意識して使えとなると逆に難しく感じるかな。
自分で使う分には問題ないけど、だからこそ人様に教えてあげろとなるとどう説明していいのか困る。理解はしているけれど、その理解はあくまでも自分の内だけで通じるものでしかない。
そうやって考えると私先生とかは向いてないな。
だからこそ、ディットさんがちょっと魔法について教えていただきたい事が……なんて言い出した時はいや無理、ってなったよね。
っていうか、私に聞く必要ある? ディットさん身近に他に魔法使える人いるだろうし、あえて私に聞く必要性ないと思うんだけどなぁ。というのが本音だった。
花を編みながらの作業中の雑談程度に思っていたものが、だんだん人生相談かな? と思えるような重たい話題に変わりそうな気配を察知したのでどうにか上手い事言って席を立ちたいな、なんて思っていたら。
「お前はいい加減にしろディット」
「いった!? ちょっと何するんですかルーウェン!」
外から戻ってきたらしきルーウェンさんがディットさんの後頭部をひっぱたいた。
話を聞いていた、というわけではなさそうだけど何となく雰囲気から察したのだろう。
手元が狂った! とか言ってちょっと形が歪んでしまった部分をどうにか誤魔化しつつもやっぱり手を止めないディットさんは、後ろを振り返ってルーウェンさんを睨みつけている。
その間も手は動いてるのだから大したものだ。
「悪いな。こいつの話は面倒になったら適当にあしらってくれて構わない」
「そこまで言う!? こっちとしては割と切実な悩みだったりするかもしれないのに!?」
「切実な悩みとか言いつつ内容ふわっふわじゃないか。あまり周囲を巻き込むな」
「巻き込んでません相談相手を選んだだけです」
「それを巻き込むというのだ」
一見すると険悪そうに見えるけれど、言葉の端々に棘めいたものは感じられない。
うん、なんだかんだ仲の良い兄弟なんだな……って思う事にした。
ついでにこの後ルーウェンさんも座って花を編む作業を手伝ってくれたんだけど……ディットさんと比べるとあまり上手とは言えなかった事だけを記しておきます。




