表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい
21/267

絵面はとても微妙



 薬屋の方はそれなりに客が来るとはいえ、来ない時は来ない。

 まぁ、薬が必要ないっていうのはいい事なんだと思うよ。薬が必要な時は健康状態に問題があるって事だからね。

 最近は基本的に午前中だけ店開けて、午後からはギルドの手伝いに行くのが一日の生活パターンといってもいい。そもそも午前中からギルドに行ってもその時点ではあんま怪我人とかいないからね。


 基本的には朝早い時間に依頼こなしに行ったギルダーが戻って来るにしても昼とかもっと遅い時間だからさ……午前中に張り切って行っても正直やる事がない。


 午前中に行く時は店を休んで薬草の調達に行く時に一応顔出しておこうかな、って時だ。

 薬草も生えてる所は何となく把握してるけど、必ずそこにあるってわけでもないからね。

 時として他の人に採取された後だったりだとか、はたまた草食動物が食べちゃった、とかで今までそこに生えてたと思ったのに無いなぁ、なんて事だってあったりする。


 案外採取に長引きそうだなと思った時は事前にギルドに顔出しておいて、今日午後から行けないかもしれませんーとか連絡も入れておく。来ると思ったのに待ってても一向に来ない……なんてなるとそれはそれで……ねぇ?


 あと場合によっては暇してるギルダーが採取手伝ってくれることもあるから顔出すのはもう暗黙の了解みたいになりつつある。

 本当だったら依頼としてこっちが報酬出さなきゃいけないのでは? と思う事もあるけど、怪我を治したりする手伝いのせいかそこら辺はなんだろう……社員割引みたいな? 何か違うか。

 一応同じギルドのよしみとかそういうやつなんだと思う。


 よっぽど危険そうな場所に素材採りに行かなきゃって時は流石に私から依頼を出さなきゃなとは思ってるけど。


 とはいえ今日は特に素材を採りに行かなきゃいけないってわけでもないし、午後から普通にギルドに顔を出したわけなんだけど……


「やぁ、丁度良かった。手伝ってくれないかい?」

 建物に入った途端出くわしたのはディットさんだった。

 そこらのお嬢さんがきゃーきゃー言いそうな顔面偏差値の高さよ……そしてその美貌にプラスして笑みなんぞ浮かべられたら大抵のお嬢さんは内容を把握する前にあっさり頷いてしまいそうなんだわ……

 いや私は流石にそこでホイホイされたりしないけど。


 しかしディットさんを見る限り、なんていうかどこかに出かけるのに一緒に来てほしいという感じではない。何せその手には花が握られていた。というか、今日のギルドはなんというか……随分とカラフルですね? と言いたくなる感じで。


「あの、これ何ですか……いえ、花なのは見ればわかるんですが」

 花なのはわかるけど、何の花で花言葉とか聞かれたら流石にわからんぞ……女の子が皆花が好きだと思ったら大間違いだ。いや、確かに見たら綺麗とか思うよ? でもだからってその花の名前とか、更には花言葉だとか全部が全部わかるはずもない。

 っていうかこの世界の植物事情どうなんだろ……一応前世と同じ名前で同じ見た目の花はあるけど、ジャンル的にファンタジーだからか現実世界にはないだろ、って感じのやつとかもちらほらあるからなぁ……


 私の問いに、ディットさんは驚いたように目を軽くではあるが見開いた。


「おや、花祭りも近いけど知らないのかな?」

「あー、えっと、去年花祭りの時期外出てなかったんで……ある意味今年が初めてです」


 そう、去年の今頃はひたすら家の中にいて薬の調合のあれこれを手伝ったりだとか、家事をしていて外に出る事はなかった。食料の買い出しとかに出る事があれば違ったのかもしれないけれど、そういった外へ行く用事はリタさんが気分転換にとか言って自分で済ませてたからなぁ……

 だから余計に私が外に出る機会はなかった。


「そうか……えぇと、明後日が花祭りなんだけどそれは知ってる?」

「えぇ、なんだかんだでもうそんななんですね。確かに最近少しずつ暖かくなってきたし、外に出ても草木の芽吹きっぷりから春だなとは思ってました」

「うん、そうだね。外に出てちらほらと花が咲いてたりするのを見る機会も増えてきたね」


 穏やかな笑みを浮かべているディットさんは、それなりに植物に対する興味とか関心があるんだろうか。確かに花って見る分にはうわー綺麗だなーとか言えるものもあるけど、男性の大半は食べられるわけでもないし、みたいな感じで興味なかったりするよね。いや、全部が全部そうってわけじゃないけど。

 そして女性であっても花に興味が無い人はそれなりにいるから男性だけどうこう言えるわけでもない。


 私も正直ただの花だとあまり興味ないからなぁ……食べられるとか、薬草の材料になるだとかであれば名前とか覚えるし何なら育てられそうなら育てようかなとか考えたりしたことあるけど、そうじゃない花を育てようとは思わないし。

 というか、例えば花束を渡されたとしても、正直困る。

 花瓶とかうちにないからね……いや、探せばあるかもしれないけど、リタさんが生きてる時に見た覚えがない。リタさんの場合は薬草の保管とかそっちは気を使ったかもしれないけど、ただの花だったらどうしたかな。


 ドライフラワーにするにしても、乾燥させてその後どうすんのって話だし。飾るにしたってさぁ……見た目微妙だなとしか思わないしそれなら普通に薬草乾燥させるわってなるし、瓶の中にオイルだかを入れて保存させる方法もあったような気がするけど、それだってただの花でやるよりは薬草でやるわって話だし……


 ここまで考えて世間が思うだろう一般女性の感性からはずれてるんじゃないかなって思わなくもない。


 人から貰うにしても、そのくれた誰かが自分にとってとても大切な人とかだとまた違うのかもしれないな……とは思うけど、実際そうなってみないとわからないのでそれ以上考えても意味がない。


 とりあえずディットさんよりは私、花を愛でるとかそういう感性死んでるなってのだけ理解できたからそれでいいや。


「花祭りっていうくらいだから、街の中はそれこそ花で飾りつけたりするんだけど……」

「あ、もしかしてそれが?」

「そう。花自体は元々ここで育てた物だったり外で採取してきたやつだったりするけど、とにかく飾りつけに使うやつをこうしてせっせと編んでるってわけ」

「生花だから事前にやるにしてもあまり前にやっちゃうと枯れたりするから今やってる、って事で合ってますか?」

「合ってるよ。今街の人たちもかなりの数が祭りの準備してるけど、飾りは多くても困る事はないからね。手先の器用なの集めてギルドでもこうして作ってるってわけ」

「へぇ……それでボクも手伝えって事なんですか。わかりました。ディットさんが今やってるみたいに編めばいいですか?」

「できるなら是非お願いするよ。他にもやる事はあるけど、いかんせん普段荒事ばかりやってる連中しかいないせいか、こういった細々とした作業は苦手らしくてね……」


 ちら、とディットさんが視線を向けた先には、ディットさんと同じくギルドで手伝う事にしたらしい人がいたけれど、彼らは中々に苦戦しているようだった。

 武器振り回して魔物を退治するのが普段だと、確かにこういったちまちまとした作業とは縁遠い感じがする。


 とはいえ、ちょっと見たけど全員が花を編んだりしているわけでもないようで、花を切るための鋏でちまちまとカットしている人だとか――これはアジサイの花みたいな小さな花がいっぱいくっついてるやつを一つ一つ外しているだけで、別にフラワーアレンジをしているとかではない――棘のある花の茎から丁寧に棘を取り除いていたりだとか、編む以外の作業をしている人もいる。

 どっちにしても見てるだけで肩が凝りそうだ。


「花冠とか作った事はあるかな?」

「えぇ、まぁ……随分昔に」

 前世の話ですが。

 生憎転生してからお花で冠作るとかいう事はそもそもする機会がなかったな。そういう意味では本当に遥か彼方昔の話だけど、まぁやってやれなくもないだろう。


「それなら話は早い。そういう感じでいくつか作ってくれればあとはこっちで更に追加で編み込んだりするからとにかくひたすら作ってほしい」

「わ……かりました」

 ディットさんが座っている所は普段であれば丸テーブル一つ置かれているはずなのに、今日に限っては丸テーブルが二つ並んでいた。

 そして片方にはこんもりと花が置かれている。ディットさんが座っている側にあるテーブルには飾りとして完成したものが置かれていたが、こちらはまだそこまでの数はない。

 どこからこれだけの花を調達してきたんだろう……と思えるくらいに片方のテーブルにはこんもりとあるので、どうやらこれを全部使わなければ片付ける事もままならない、というのは理解できた。

 他のテーブルもいつもは一つだけあるはずなのに、今日に限っては恐らく倉庫から引っ張り出したんだろう。二つ並んだテーブルの片方にはこれでもかと花が積まれている。

 そう、それは言われずともこれがノルマだと宣言されているようで。


 どこ手伝うにしても大変そうなのは変わらないので、素直にディットさんのいるテーブル席に座って花を編んでいく事にする。

 明確にこの花とこの花をこういった順番で並べて、みたいなガッチガチなオーダーではないようなので、とにかく見栄えがよくなるような感じでいくつか異なる花を手にとって作っていく。

 とはいえ花冠なんて作ったのは前世のまだまだ幼い頃の話だ。何十年前の話よっていうね?

 そのせいで思い出すのに時間かかりそうだったので、正面に座っているディットさんの手元を注目する。

 すいすいと動きが淀む事もない状態で作っているので、完全に初心者だったら見てもわからないだろう。むしろディットさんの手で一部隠れた部分とかは「え? そこどうやったの?」みたいになりそう。

 でもまぁ、見ているうちに何となくあぁこういう感じだったな、と思い出したのでそこで私も作業に移った。


 転生してからは一度も花冠作るなんてしたことないけど、それでも指は普通に動いた。うーん、この身体はそういった経験してないのに不思議。前世の自分だったらまだわからないでもないんだけどね。

 ほら、自転車とかもしばらく乗ってなくても昔乗れてたら久々に乗った時とかちゃんと乗れるとかいうあれと同じやつでさ、身体が覚えてるっていうのならわかるんだけど。

 この身体はそういう記憶ないからさ。脳内でそういう記憶が前世でありますってなってるだけだと、いざ実行しようとしても上手くできない、なんて事もあるかと思ったんだよね。


 とりあえずそういう事もなくディットさん程ではないけど私もそれなりの速度で花を編み始めた。

 ……もしかしなくても今世の私って地味にハイスペックなのでは? とか今更のように思い始めたよね。

 そう思うのがこういった場面で、ってのもどうなんだろうとは思ったけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ