漆話 虫干ししてたら大変な物を発見してしまった!どうしよう?
お待たせして申し訳ございません。<(_ _)>
蔵の中の本を出して虫干しをしていく。字面にすると簡単なようだが本の数が莫大すぎる。
「なんでこんなに本があるんだ!」
御文庫と呼ばれた江戸城にある紅葉山文庫には規模的には遥かに及ばないが我が家の蔵の中身はそのほとんどが本である。本棚に並べてあるのではなく本箱という箱に入れられて棚に並べられている。その箱を一つずつ持ち出して日陰に並べて行く手間の掛かる作業である。
「でも凄いですね、こんなにたくさんの本持ってるのは余程の御大尽か学者先生でないと持ってませんよ」
美代が本を並べながら感心していた。版木に彫刻刀で彫って印刷する木版や手書きの本を書写して複製を作っていたようだ。
改めてコピー機は偉大だと感じたよ。
「親父の奴、美代もいるから任せるって芝居見物に行くなんてな」
当然義母上も一緒である。美代の方は無邪気に喜んでいる。由は店があるから来れないしな。
我が家の蔵だけど皆が思ってるような白壁のいかにも蔵みたいな物でなく見かけは厩に付属した(馬は居ないけど)住居みたいな外見をしている。小普請の旗本がいかにも蔵なんか建ててたらいろいろ言われそうなので初代がそんな作りにしたらしい。細かい所に気が利く人である。
そんな人だったら神君様の引き立てでもっと出世できただろうに。
「なにやってたんだろうなあ初代様はっと!」
箱を開けて中の本を取り出す。この箱は見た事の無い本だな、数が多いから見たこと無い本も結構あるのだ。
「えーと奥付はと、なになにこの本は家康公が関ヶ原の戦に勝利した後に大阪城西の丸に入った後許可を貰い大阪城の書庫より借りたものを写した物なりっ!ほえっ?」
「どうしたんです?急に大声出して?」
「いや、何でもない、ホコリが舞っただけだ」
いや、初代様何しちゃってんの?家康に付いて大阪城に?いやそうだとすると関ヶ原の合戦にも参加してるじゃん。
使番とかをしてたらきっと出世してただろうから家康の傍でモブでもしてたのかね?
おっと、この本の中身はどんなものか見てなかったな。初代の写本は奥付けに何処にあった本をいつ写本したか書いてあるからつい先に見てしまうんだよな。
「なになに、実用工藝指南書…ふーん、どうやら大陸で発明された工芸品の解説書か、何気に役に立ちそうだな」
既に幾つかめぼしい本は別にして置いてある、後でじっくりと読ませてもらうとしよう。物になるようなら又日野屋に売らせて一儲けさせてもらう、新しいネタがあればいいが。
「で樟脳を入れ替えて干し終わった本はまた箱に入れると」
樟脳はクスノキの葉や枝を蒸して作るのだが防虫効果があるので箪笥や本箱に入れるようにしている。これも初代が日野屋に作らせた物でロングセラーと言っていい商品だ。本箱もクスノキでわざわざ作らせていて初代の拘りが感じられる。どんだけ本が大事なのか。
太平記や源氏物語等も揃っており並々ならぬ熱意が感じられるな、このあたりの本は長い間に欠落などがあったりするからもしかしたら価値があるかもしれない。原本の写しが紅葉山文庫にあるはずだからその写しなんて中々大変な仕事だった筈だ。その割に書物関係の仕事に就いていないなど謎の多い人だな。
さて、今日の最後に干す箱を持ち出してきた。他の箱に比べて一回り小さいし神棚の下に隠すように置いてあったから見逃すところだった。さて、何が入っているのやら。
「何がでるかな~ん?なんか他と作りが違うな?」
出てきた本は今までのとは本の作りが違うというか縦書きではなく横書きだ。
「というか日本語じゃないし」
表紙は日本語(漢字)だが一枚めくるとくねくねとした記号のような物が書かれている。
「まさか、これ英語か」
遥か昔前世で学校で習った文字である。というかこれは……
「やば、禁書じゃん」
確か享保の改革の時の将軍吉宗が緩めるまで洋書の輸入は禁じられていたはず。これが見つかるとどのようなお咎めがあるかわからないぞ!
恐る恐る奥付けを開くと初代の字でこう書いてあった。
「家康様の命で大阪城の書庫にあった洋書の書写を行った。異国の本故お咎めを受けないように家康様の御免状を頂いてある」
よく見ると本箱の中に書状を入れる箱が入っておりその中に書付があった。
「異国の書物を書写することを許すと共に、所持することを許す 家康」
ちゃんと花押もある。本人のものかは知らないが多分本物だろう。初代様の用心深さは筋金入りだな。
書付を箱にしまって改めて本を見る。本の半分までが英語だったが残り半分は日本語であった。改めて奥付を見る。
「洋書の内容が分からなかったので三浦按針に頼んで訳してもらった。多くの内容は説話集で宗教色が強いのでそれは訳さずに実用書だけ訳してもらった」
そしてそのタイトルは「航海の秘訣」となっていた。三浦按針は航海士でもあるから分かりやすかったんだろうな。
この他にも「インドの香辛料」とか「南方の国々の産物」などの実用書が訳してあった。
これもなんか役に立ちそうだな。機会を見て読むとしよう。
本が乾いたら取り込んで由のところへ顔を出すとするか。
でもとんでもないものが見つかってしまったな。言い伝えの他に神君様の御免状が見つかるなんてな。
まさかとは思うがまだあったりしないよな?
★
芝居小屋にて
そろそろ源三も虫干しが終わるころだろう。神棚の下のあの箱も開けたはずだ。中身を見て仰天したろうな、まさか2枚目の神君様御免状があるなんて知らなかったろうからな。
正直先代から見せられた時には心の臓が止まるかと思うくらい驚いたな。小普請入りしてる旗本の家になんでこんな物があるんだって。先代も笑ってたけどあれは秘密を共有できる人が増えたのを喜んでいた顔だったな。
俺も源三が知ってくれて肩の荷が降りたみたいだ。
ま、代替わりするまでにはもう少し知らなきゃならんこともあるから頑張ってほしいもんだ。
おっと、幕が上がるな、今度の芝居は笑えるといいんだが。
なおこの小説はフィクションであり登場する人物・団体・組織等は完全な架空の存在です。
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