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肆話 モテ期は唐突に修羅場も同様に

 一夜にして妹兼許婚が出来てしまった。


 転生前では考えられなかったことである。


 前世ではこのようなイベントは無かった。記憶がブロックされて前世での名前や家族などの事は思い出せないのにこんな事だけは思い出せるなんて……


 これがモテ期が来たということか?


 転生してやっと俺にも春が来たという事なのか!


 思わずにやけてしまう。華のお江戸でリア充生活を送るんだ!


 さて、今日は近所の煮売り屋に行くことになっている。煮売り屋とは総菜屋みたいなもので新しいレシピを考えたので試すためだ。


「よう! 待たせたな。鍋の準備は出来てるか?」


「源さん、遅いよ! 鍋も火もねたも準備できてるよ!」


「ようし! じゃあ始めるか!」


 小麦を挽いた粉を木の器に入れて水で溶き衣液を作る。それに予め作ってもらった山菜を食べやすくカットした物や小魚の身にした物を漬ける。


 そして火に掛けた鍋には油を入れて細かな泡が立つまで待つ。


 そして長い箸で衣の付いたねたを入れると{パチパチ}と油が泡立ち香ばしい香りが立ち込めた。


「なんか凄い料理だね」


「ああ、これはな天麩羅と言うんだ、神君家康公が天下を取った後、駿府で好まれた料理なんだ」


「へえぇ、凄いんだね」


「あの時はかやの油だったそうだがあれは癖があるし高いからな。最もこの油も安くはないんだが……」


 この油は大豆を絞って作った油で前世でも天ぷら油やマーガリンの材料になっているのだ。


 菜種油も狙ってみたが、まだそんなに栽培していなかった。(どうやら江戸時代の大分後らしい)


 出来上がった物を笊の上に敷いた紙の上に置いていく、紙は貴重なので書き損じなどの古紙なんだけどね。


「そして余分な油の取れたのをこの器の出汁に潜らせて食べると」


「美味しい! なにこれ? 食べた事のない食感だよ!」


「そうだろう、そうだろう」


「天麩羅って凄いんだ。さすが神君様が愛した食べ物だね」


 愛しすぎて当って死にましたとは言えないな。そんな事をつらつら考えていたら目の前に顔があった。


「!」


「なにぼんやりしているんだい? 早く作り方を伝授してよ!」


「あ、ああ先ずは衣液の作り方のコツだが……」


 目がイッている彼女に引きながら教えていくのであった。



「これで新しいお品が……源さん、有り難う」


「まあ、いいってことよ、俺とゆうの仲じゃないか」


「仲って……そうよね、そういう仲なのよね」


 煮売り屋を切り盛りする女主人のゆうは俺の幼馴染だ。最近引退した母親の代から家とは馴染みの店で子供の頃は良く遊んだものだった。お転婆な奴で男に混じっていたのだが他の男の子よりも男前な奴だったので遠慮なく話が出来る親友である。最近は女であった事を思い出したのか成りも女らしくなっているが本質は変わっていないだろう。


「あれ? あたい勘違いされちゃってる? まさかの御友達……」


 なにかぶつぶつ言っているがきっとこれがどのくらい売れるか算段しているのだろう、母親に似て商売上手な彼女だからこれが人気商品になると考えているのだろう。



 そうしていると店先に人影が見えた。


「おい、お客さんだぜ」 「あ、いらっしゃい……」 「お兄様! ここでしたか! やっと見つけましたわ」


 なんと美代が来ていた。どうやら俺を探してここまで来たようだ。


「お、お兄様? あんた、妹なんていたっけ?」


 由が素っ頓狂な声で尋ねる。甲高い声だから近くだと耳が痛え。


「おい! 落ち着けよ」 「あら、美代は妹でもあるけど許婚でもあるんですのよ、そうですよねお兄様」


「な! 何よそれ! ちょっと源三! あたしって者が居ながら許婚ってなによ! どういう事なの! チャンと説明しなさいよね!」


「お、おい、あたしって者って……」


 あまりの展開におろおろする俺を見ながら美代がにこやかに、だが威圧感のある雰囲気を纏わせながら口を開く。


「あら、御免遊ばせ、お兄様のような素敵な殿方は早い者勝ちですのよ。美代は果報者ですわ。こうしてお兄様とお買い物にも行けるんですもの」


「げ・源三!」


「はっはい!」


 突然由が声を改めて俺を呼んだ。目に涙を溜めて、顔を赤らめて俺に向き直った。


「いつかお参りに行ったとき誓ったよね。あたしをお嫁にもらうって。御目見えして一人前になったら迎えに着てくれるって。あたしずっと待ってたんだよ。あんたが迎えに来てくれる日を、だけどこんな・こんな事って」


 なんだって! 由が俺の事をそんな風に思ってくれていたなんて。


「由、お前」


 彼女はこの時代では美人と言われる事は無いだろうが、俺の前世ではグラビアアイドルにも引けを取らない。そんな彼女だがキップの良さと笑顔でこの辺りの野郎共の中には彼女に懸想している奴らも多かった筈である。其の彼女が7歳になったお祝いにお参りに行ったときに確かそんな事を言った様な……だけど其の時由は顔を赤くして返事もせずにそのまま走って行ってしまった筈だった。


 其の後は其の話題も出なかったんでてっきり忘れられたのかと思ってたよ。彼女は煮売り屋の一人娘だから婿を取るのかと思っていたからな。そして俺は旗本の嫡男でそれには応えられない。三男位だったり、子沢山の家だったら廃嫡されても良かったんだが生憎一人っ子だったからな。


「後から出てきて獲物を攫うなんて泥棒猫どらねこじゃないか! 源三はあたいのだ! やらねえよ!」


 流石気の強さでは界隈一と言われる由だった。涙をこらえて腕まくりして啖呵を切ったのには感嘆するよ。其の勢いに押されて美代は……


「ふーんだ! 腐れ縁だけで繋がっているだけの幼馴染に負ける美代では無いのですよ! がっちりと源三様の此処ハートは掴んでいるのです!」


 そう言って俺の胸に手を当てつつ片腕を取る。着物越しに柔らかい物が当ってる。美代……着痩せするタイプだったんだな。


「キィー! ぽっと出のあんたなんかと違って源三とはあんなことやこんな事をする仲なのよ!」


 由、着替えている時にうっかり部屋の戸を開けた事や行水を覗いた事を言ってるんじゃ無い!覗きは兎も角着替えは不可抗力だ。立派な物が見えたのはご褒美だったと思っているけどね。


 二人は店の事など忘れてギャアギャア口論し始めた。おいおい御客が固まってるぞ。


「此処じゃあ駄目ね! 源三! 店番よろしく!」


 そう言って由が美代を連れて店を後にした。


「すいませんね、さて、何にされます?」


「御侍様、恐縮でございます……」


 ひたすら恐縮するお客相手に俺は店番をするのであった。


「早く帰ってきて欲しい……」





現在感想返し等は出来かねますのでご容赦ください。




この作品に登場する人物は全て創作によるものですので、現実の歴史、史実について関係はございません。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 江戸の空には高いビルも電信柱も無く空は伸び伸びと広かったことでしょう。 特に事件がなくても生きる喜びはいろいろな所にあるのかも知れません。 もちろん歌舞いてヤンチャするのも一興ですが。
[良い点] 時代小説は緩くて良い。ふたりとも商家なのも面白いところ。父親が五男の部屋住みとはいえ本家からの婿なら、主人公の代は無理に血を入れる必要は無さそう。でもなんか脇が甘そうなので、友人あたりと子…
[一言] 家格を考えると義妹ちゃんが正妻で、幼馴染は側室か妾ルート。 フ●ーラ・ビア●カかな
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