参話 俺の妹がそんなに可愛いわけ……ないよね?
何時もの通りおかずの確保の算段をして帰宅すると玄関に見慣れぬ娘が掃き掃除をしているではないか!
しかも俺の現代の美的感覚なら美少女だ。
「あ!お帰りなさいませお兄様!」
「お、おう、只今」
御兄さま? いったいこれは何? 何かの罰ゲームか?それとも御褒美なのか?
呆然としたまま家に上がるのであった。
☆
「美代と会ったか! はっはっはっ、可愛いだろう」
親父が嬉しそうに笑う。
どうやら睦さんを正式に後添えにする事になったらしい。
「実家に預けていましたからね、御武家のしきたりとか知らないのでごめんなさいね」
睦さんも嬉しそうだ。彼女を後添えに貰うのにどこかの養女とかにするのか聞いたがそんな事はしないとの事、結局は名義貸しみたいな物だからお金がかかるじゃないかとの事だった。家は収入に見合った生活をするのが家訓なのでそんな事はしないそうだ。いっそ潔い事である。
そんな家訓を残した初代だが榊原康政の一族へ入れて欲しいのお願いはどうなのかと一瞬頭を過ったが考えないことにした、流石に困ったからだという事にしておこう。
「御兄様! 美代は榊原家に相応しいと言われるように頑張ります!」
そう、腕まくりして言われてもなあ。
「まあまあ、そんなに固くならないでもいいよ、我家は堅苦しいことは御法度なんだよ」
そう言ってこの間作った水飴を渡す。
「ほんのり甘くて美味しいです」
やはり時代は変わっても女の子は甘いものに目が無いんだという事を証明したぞ。これをどこにも発表できないのが残念だ。
いっそ日記でも書くか、{江戸時代の生活をSNS風に報告します}とか。
ネット小説にありがちなネーミングを考えていたら不意に親父が爆弾を落とした。
「源三と似合いの夫婦になるぞ」
「な・な・何を言われるのです? 父上!」
俺は親父の落とした爆弾に狼狽した。
「いや・美代は妹だし、それは……」
「別に血は繋がってないから問題は無いぞ、それとも美代の方はいやか?」
「それは……」
俺が口ごもると、隣の美代が目をキラキラさせて見ていた。
「私がお兄様と夫婦に……嬉しいです! 是非、是非お願いします」
食いつきが良すぎて思わず引きそうになる。いや美少女だし断る理由は無いんだけどね。
「まあ、流石にまだ歳があれだし源三も元服したとはいえまだ若い祝言はもう少し先だな」
「ええ! そんな~」
美代が絶望という文字を背景に突っ伏す、それがorzに見えたなんてとても口に出来ない。
「まだ美代は十二歳なんだから」
親父のこの台詞にずっこけたのは俺だった。成長良すぎだろ! 十二歳ではこの時代でもぎりぎりアウトだと思う。
いくらお触れに無くてもそれをやってはいかんよな。戦国時代なら兎も角。平和な時代になると平均結婚年齢が上がるというのは本当らしい。
そうして俺には妹にして許婚というものが出来たのであった。まるで前世で読んだ漫画のようである。
いや文句は無いんだけどね、前世ではこんなイベントは無かったみたいだし。まるで前世の分も合わせて俺にモテ期が来たのかもしれん。
身分制度はどうなんだって? 睦さんの方は後添えになるから文句を付ける者は居ないそうだ、榊原本家も介入してこないだろう、親父の実家の旗本家の方からも半ば放置状態なのだ、集って来ないだけマシだと思われているのだろうな。
因みに我が家は質素だが貧乏というわけでもない、格式に拘らないので収入は少ないが支出も無いのだ。それに睦さんの実家は名字帯刀も許されている素封家なので持参金もあるから暮らし向きに困る事はないのだ、家族が少々増えてもね。
「お兄様、美代は早く成人してお嫁になりますから! 不束者ですが良しなにお願いします」
いや、それは此方の台詞だよな、と思いつつ思わず顔がにやけそうになるのは秘密だ。
□
ふむ、源三の奴満更でも無さそうだな。睦を後添えにやっとする事が出来た。彼女を日陰者にしていたのが不憫だったからなあ。
正直、源三が反対するかもと二人で覚悟したが、あやつは全く反対するどころか「良かったです」とか「いつ後添えにするのか心配してました」とか言う始末。二人で拍子抜けしたわ。
そうなると実家に置いていたお美代の事が問題になる。嫁に出しても底辺とはいえ直参旗本の家ゆえ相手の家で窮屈に暮らす事になるのは可哀想だし、せっかくだから母娘一緒に暮らさせてやりたい。それにこの後、睦に男子が出来たら無いとは思うが御家騒動の元にもなりかねん、そうなると源三と美代を一緒にするのはいい考えだと自画自賛できるな。源三の奴には小普請組の最低に位置する我が家では嫁の来ても無いし正直我が旗本榊原家のあの逸話が影響してるのだろうな。どこも要らぬ苦労を娘にはさせたくないからな。
我が家は{清貧}を家訓とする家、あの神君様より、継ぎ当ての服を着て御目見えしても良い{かけつぎ御免状}を貰っている家だと知れ渡っているからな。
初代が神君家康公の御前に継ぎ接ぎした服で伺候した時に本多正純に咎められた時に吝嗇いや清貧を好む神君様の琴線に触れてお咎めどころかお褒めの言葉を頂いた上に服まで頂戴し、今後ケチを付けるものが居ないようにと一筆認めてくださったのが{かけつぎ御免状}なのだ。
其のお陰で我が家は代々見栄を張る事無く過ごして来たので低い扶持でも全然余裕の生活が出来るのだ。実際には借金が無いので大名家よりも我が家は商人から信用がある。まあ、借金が増えていっても全然倹約しない大名や旗本たちが凄いのかも知れないが。
まあ、これで丸く収まると言う物だな。だが、何か忘れているような気がするが気のせいだろうか?
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