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弐話  うなぎの蒲焼が食べたいな

連続投稿中です

「暑い……」


 江戸時代は小氷期だと言われていたけど夏は矢張り暑いことには変わりは無い、もちろんヒートアイランドとは無縁ではあるが冷房があるわけでは無いので暑さはこたえるんだよ。蝉の声が余計に暑さを演出するしね。


「おまけに冷蔵庫は無いしな、江戸城には氷室から届く氷があるそうだけど縁のない話しだし」


 井戸から汲んだ水は冷たいけど冷蔵庫には及ばない。


「涼むにはこうして桶に水を張ってと……それで足をつけると、うん、気持ちいい!」


 殺人的猛暑でないせいかこの位でも十分に涼しい、これなら十分に闘えるという物だ。


「さて、暑い日が続いた時には栄養を十分取らなくてはね」


 俺は前日に仕掛けて置いた物を取りに何時ものかりばに行くのであった。




「お、入ってる入ってる!」


 前日に沈めておいた細竹を編んで作った罠に獲物は入っていた。


「こりゃ太い、良く肥ってるね」


 にょろにょろと蠢くのはうなぎである。前世では絶滅危惧種なのに大量に食されており人工孵化による完全養殖が切望されていた魚。この時代にはそのような心配とは無縁である。


「おっ! 大漁ですな若様、流石に仕掛け筒の本家本元だけのことはありやすね」


「まあな、そちらの方はどうだい?」


「お蔭さんで仕掛け筒を使い出してから安定して獲れるようになりやして助かっております」


「そいつはいいや、しっかり稼ぎな」


「へい!」


 このうなぎの仕掛けも前世で見たTV番組でやってた番組で仕掛けていたのを見て考えたのだがあの番組よりも沢山獲れるのはこの時代の魚影が相当濃いという事だろうな。本職の漁師もこの仕掛けを知らなかったので俺が最初に持ち込んだ事になるらしいが精々五十年位の誤差だし問題はあるまい。


 さて、仕掛けを再度設置したら今日の獲物を持って帰るとしますかね!




 さて得た獲物だが流石に獲って直ぐでは泥臭いかもしれないので泥を吐かせる必要がある。

深底の桶に水を張り入れておけば良い。そして今日のメインはその隣にある昨日置いた桶の中身である。


 そう、今日いただくのは昨日獲ってきたうなぎなのだ。


「うん、いい具合に泥は吐いたみたいだな」


 桶の中に泥らしき物が溜まっているから大丈夫だろう。うなぎを掴みまな板の上に乗せる。野鍛冶に作らせた吹き矢の先みたいな物を使ってうなぎの頭をまな板に縫い付ける。手ぬぐいでぬめりを取りながら押さえ小刀を改良した裂き包丁でうなぎの背から裂いていく。関東では背開き、関西では腹からなのは腹からだと切腹を連想するから幕府のお膝元でご法度というらしいが俗説だろう、そんなこと言ってたら他の魚をどうやって調理するんだと言われるよ。単に蒲焼にする為に都合がいいからだけなんだけどね。


 さてうなぎの血には毒成分があり目とか傷口に入ると大変なのでそばに置いた桶の水で慎重に洗い流しながら裂いていく、裂いたら等分に切って串に刺していきまずたれをつけずに焼く、いわゆる{白焼き}だ。


「火が通ったら蒸篭に入れてしばらく蒸す」


 関西では白焼きも蒸すこともせずにいきなり焼くのだが、養殖のうなぎと違い関東の天然うなぎは太い分脂肪が強く蒸して少し脂肪を落とさないとくど過ぎる、これは個人の好みだからしたくなければしなくてもいいけどね。


「そしてこの秘伝・・のたれに漬けて焼く!」


 このたれが苦労した。しょうゆやみりんは手に入るがこの時代は砂糖が高価なので底辺旗本には手に入らない、初鰹を食べる為に借金までする江戸っ子とは違うのだよ。


 「まあお陰で水飴を作れたからな」


 大麦を発芽させてもやしとした物を乾燥させてすり鉢でつぶし粉にする、それをもち米で作った粥に入れて一晩置いた物を絞り煮詰めると完成する。この水飴のお陰で蒲焼にてかりが出てよりおいしそうに成ったのは嬉しい誤算だ。


「若の作る料理は何時もすげえ物ですな、これも御先祖様の書付にあったんですか?」


「関東での戦場食に一工夫した物だよ、元々は川で取ったうなぎを焼いただけだったけどそれでは味気が無くてね、どうにかならないかとたれなんかを工夫したのさ」


 全部ご先祖様のお陰にしたら俺の苦労が報われないじゃないか!


 出来上がった蒲焼を皆に振舞う、彦爺は家族に食べさせる為に家に持って帰った。


「うむ、この夏の暑さでへばっていたがこれを食うと元気が戻ってくるな」


 父上はそういうと睦さんの方を見てにやりと笑う、ああ・そういう事……くそう、もげろ!


 夏ばてにはならなかったが持て余す悶々に苛まされるのであった。



 次の日俺は近くで飯屋を営む隆助という男の厨房に居た。この男の店は川魚を中心にしたおかずを出すいわゆる一膳飯屋である。今で言う居酒屋に近いな。


「こいつはうめえや、若様この製法を伝授して下さるんで?」


「ああ、餅は餅屋、魚料理はお前さんのほうが上手だ、きっと俺より旨い蒲焼が食えるようになるからな」


 偶には自作もいいけど何時もだと疲れるので専門家に○投げした。報酬はうなぎを持ち込めば蒲焼を提供する事にした。製法を売ってフランチャイズで稼ぐという事も考えたが後ろ盾の無い下級旗本がそんな事をすればどこに眼を付けられるか判ったものじゃない。俺はこのニートみたいなゆるい生活が気に入っているんだ。


 後はあの佃煮を近くの煮売り屋のおばちゃんに教えておこう。煮売り屋と言うのは総菜屋さんみたいな物だと思えばわかり易い。こうやっていけば自分で作らなくてもおいしいおかずが手に入ると言う物だ。


 次は何を作ろうか?などと考えながら家路へと急ぐのであった。








現在感想返し等は出来かねますのでご容赦ください。



この作品に登場する人物は全て創作によるものですので、現実の歴史、史実について関係はございません。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 夏なのに鰻が肥えてるってのが…… 土用の丑の日の成り立ちを知ってれば、普通は小説でそう書くという発想は出てこないはず
[気になる点] 水あめがあるなら佃煮にも使えばいいのに。
[良い点]  面白いです。楽しみが増えました。 [一言]  江戸時代は砂糖が貴重だったから、蒲焼の甘みは主に味醂で出していたらしいですよ。行きつけの鰻屋(※江戸期の創業)のオヤジに教えてもらいました。…
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