拾捌話 水戸の御老公VS大岡越前?
お待たせいたしました 結構難産でした
半年が経過した。
小石川の蔵でペニシリンの作成が進んでいる。機材はガラスがまだまだ量産が進まないので陶器を使用したりで代用している。ミカンに生えていた青カビを培養し分離作業を行い液状のペニシリンを作成する。
この中で薬功の高いものを選びその青カビを培養してより効果の出るペニシリンを作成していく。液状のペニシリンだがこのままでは寿命が短く保管に適さない。だが華の一族の本には高濃度アルコール溶液を使った結晶化法が載っている。その事で思っていたより早く乾燥ペニシリンが完成した。いやほんと華の一族有能だわ。
同時並行してペニシリンの治験が併設されている医学所で行われており、しっかり結果が出ている。耐性が出来ないように気を付けさせねば。
この間俺は御庭番頭としての仕事と並行して書庫の本の精査を命じられて読み進めている。今までは虫干しの時にタイトルが目を引いた物だけ読んでいたからな。上様や柳沢殿から確実に読めと命じられたのだ。
とは言え一人では回らないので手伝いを探すこととなった。例によって八王子千人同心から見つけようとしたが彼らはどちらかと言えば武芸の達人で所謂脳筋寄りの人材なので書物の整理は向いていない。唯一睦さんの甥の中村兵六が計数に詳しいので家政を任せているがそちらから回すわけに行かないので柳沢殿に頼んで在野の学者を探してもらった。
「惣右衛門、こちらの書箱の整理は付いたか?」
「はい、内容を抜粋したものを栞として挟んで分野別に分けております」
「うん、医学の物は医学所に運んで読んでもらうとしようか、後の奴は栞を読んで棚に分けないとな」
荻生惣右衛門は父親が上様の館林時代の医者であったがなにかやらかして追放になり上総に蟄居していたのだが柳沢殿の伝手でうちに来た。江戸にいた頃は林春斎に学んでいたそうだ。柳沢殿が見所があると気にかけていて今回の件で上様に言上して追放を免じて貰い父親が医学所に務め惣右衛門がこちらに来たのだ。
流石俊才、仕事が捗る捗る。日野屋から回してもらった使用人たちも使って見る見るうちに分類されて行く。
「そういえば、この本なのですが少し気になりまして、源三殿が読まれたほうが良いのでは無いでしょうか」
「?そうですか、では後で読むとしましょうか」
そう言って渡された本を手に取るとそこへ兵六が慌ててやって来た。
「殿!御客人が、来られました。ですがあの、なんと申しましょうか大変な事です!」
「どうした、兵六そんなに慌てて」
いつもの落ち着いた兵六らしくない。
「それがそのお耳を拝借…」
「な、なんだって!」
□
兎も角、客間へ急ぐ。言い忘れていたが小普請から昇格したときに引っ越しをせねばならなかったが本の蔵の問題がありまだ引っ越せていない、新しい家は本を収める蔵作り中でもうすぐ出来上がる。
客間は増築した所なのでまだ新しいのが救いか、まさかあの方が来るなんて。
「お待たせして申し訳ございませぬ、榊原図書久之と申します」
下座について礼をする。
「うむ、水戸宰相光圀じゃ、控えておるのは家臣の…」
「佐々助三郎です」「安積覚兵衛でござる」
キター、水戸黄門(今はまだ宰相で中納言(黄門)にはまだなってないけど)と助さんと格さんだ!
「態々このような陋屋(みすぼらしい家)に来ていただき恐縮でございます、宰相様の態々の御成りは我が家の誉で御座います」
「いやいや、今回はお忍びでの。供も助さんと覚さんだけなのじゃ、どうか気楽にして欲しい」
「左様ですか、ですが今日はいかなる御用で?」
「うむ、上様に久々に目通りしてみたら其方のことを大層誉めておっての、気になって来てみたのじゃ、お世継ぎの問題を解決し、病に苦しむ者たちに希望を与えた者がどのような者であるかをな」
「それは余りにも買い被りというもの、某は家祖の残した本を読み解いただけで御座います」
「それよ、読み解くということは中身を理解せぬと出来ぬこと、謙遜には及ばぬよ」
「左様、御老公の申される通りですな、ただ読むだけでは理解は出来ませぬ、貴殿は書物にある本質を見抜く力がおありのようですな」
御老公、佐々殿、買い被りすぎです!
「話では銚子のヤマサや紀州の紀伊國屋も参加しているとか、これは一大事業ですな」
あ、あの覚さん、なんでそんなに詳しいんですか?
「いやあ、瓦版が根掘り葉掘り書いてましたぞ!」
な、なんと!
「図書助の官職を授かったのも目出度い、其方の仕事にふさわしい職じゃの」
上様がノリノリで朝廷に頼んじゃうからなあ、知った親父が目を剥いてたよ。
「儂もな史記の{伯夷伝}を読んで感銘を受けてなこの国の歴史書を作りたいと発起したのじゃ、幕府も{本朝通鑑 }を編んでおるがあれは編年体で記述されておる。史記のような紀伝体で作りたいと思ってな、助三郎と覚兵衛に資料を当たらせておる、特に助三郎には京や奈良などを巡り資料集めや史跡の調査をしてもらっておるのじゃ」
そうそう、それが後に水戸の御老公の全国漫遊という話に繋がり「水戸黄門」という国民的ドラマが作られることとなったんだよな。全国調査か…そうだ。
「宰相様、実は折り入ってお願いがございます」
◇
一刻後(約2時間)御老公一行は水戸藩の江戸屋敷に戻るため席を立った。
「良き話が聞けた、今度は我が藩の屋敷に遊びに来て欲しい」
「有難き幸せ、是非とも伺わせていただきたく」
「うむうむ、其方の仕事は皆の希望じゃ精進してほしい」
「は」
門の前で挨拶していると丁度そこに忠相がやって来た、柳沢殿の所からの帰りだろうか?
「源三殿、御来客でしたか?」
「そうだな、丁度お帰りになるところであるが」
「そうでしたか、某は大岡忠相と申します。榊原殿の手伝いを命じられております」
「そうであるか、儂は水戸宰相光圀である」
「これは…失礼いたしました、御三家の御当主とは知らず御無礼を!」
「よいよい、今日はお忍びでの、榊原殿を友誼を結びに来たのじゃよ」
そういや史実では水戸黄門と大岡越前が絡むことって無かったよなあ、なんか凄い絵を見せられてら。こういう出会いが後世に残ったら面白いだろうな。
これはこの時代に転生した者にとっての役得だな。
余談であるがこの出会いについてはこの日屋敷に居た荻生惣右衛門こと荻生徂徠が後に著した「政談」という書物に記述があり。
「榊原図書様の屋敷で書物の整理をしていたある日、水戸の御老公様がお忍びで尋ねてこられた、御老公は図書様の御役目を高く評価され後世に残る事業だとお褒めになった。辞去されるときに後の名奉行で名を遺した大岡越前守様が屋敷に来られ御老公と出会われた。この出会いは歴史の必然であったのだろうと思う、その場に居合わせた幸せを私は今も噛み締めている」と書かれている。
◇
水戸の御老公一行が江戸屋敷に戻る途中佐々助三郎が光圀に問うた。
「先ほどの榊原殿の話御老公はいかが思われますか?」
「助さんや、神薬ともいうべき箆似士倫をもたらした書物、あの三国志に出てくる{華佗}の志を継ぐ者{華の一族}が記したものであり、そしてその末裔が密かに我が国に居るという話じゃがあり得る事じゃと思う。権力を持った者が往々にして行き着くのは自らの長命或いは不死。秦の始皇帝も蒙古の成吉思汗も医者や仙人を探したという歴史が残っておる。それを恐れた彼らが母国を離れこの地に隠れ住んでいても驚くことではない」
「なるほど、それで私が諸国を巡るときにその足跡が無いか調べてほしいと」
「ですが、榊原殿であれば幕府の要路に図り探すこともできましょうに?」
覚兵衛が言うと光圀は首を振った。
「覚さんや、それをすることは容易いが幕府が動くということは公儀という権力が動くこと華の一族はそれを一番恐れておる。更に深く隠れるか場合によってはこの国を去るやもしれぬ。それでは意味があるまい、榊原殿は密かに彼らの足跡を追い優れた医術を知りたいのだと思うぞ」
「なるほど、某の考えが浅そうございました」
「うむ、上様(綱吉殿)も良き人物を拾われた、きっと素晴らしき治世となるであろう」
足取りも軽く屋敷に向かう御老公であった。
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この作品に登場する人物は全て創作によるものですので、現実の歴史、史実について関係はございません。




