拾参話 御庭番って草生える!
その後柳沢房安と求馬が幾度か話し合いをして新しい役職が決まった。
「上様のお傍近くに仕える職となるとどうしても老中の方々の目が行くのでないでしょうか?」
「ではどうするか、御側御用取次という役を考えてみたのだが」
「それでは目立ちすぎますし側用人と争う事になりそうです」
「そうか…」
「要は中奥に出入り出来上様が声を掛けても怪しまれず小納戸や側用人のように目立つことない役があればいいわけです」
「そんな役があるかのう」
「ではこのような役はどうでしょうか?」
「こ、これは!意外な一手だ、これなら問題あるまい」
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「というわけで源三殿は御庭番頭となってもらう」
「お、御庭番ですか?」
「そうだ、普段は中奥の庭の手入れを行う下男や職人を支配し上様が庭に出てこられた時に下問される事にお答えするのが仕事だ、これなら周囲からは庭の手入れの話をしていると思われて怪しまれることが無い(主に老中たちに)求馬の献策だが中々の物だ、上様も喜んでおられた」
まさかの御庭番、まあ聞いてみたら遠国御用のような隠密行動はしなくていいらしい。吉宗の作った役とは違う物になってしまった。書物関係の役も考えたけどそうなると書物奉行に抜擢は出来ないし色々秘密な情報が漏洩しそうと求馬が反対したそうだ。
いや求馬完全に柳沢殿のブレーンになってるよ、元服したらいきなり小納戸>側用人コースだな。
史実より早く大名になりそう。町奉行にならなかったら大岡裁きが見られないよ!
御庭番頭は毎日登城(出勤)する必要は無いらしい。普段の手入れは庭師が居てやってくれるからだ。こちらは表向き彼らを管理する職になってるが、本当は上様が庭の鑑賞をするときに傍に侍って質問に答えるのだそうだ。上様もスケジュールが詰まっているので庭の鑑賞は週に2-3日なのでその時に出勤するようにとの事である。
「これならば周囲も気にすることは少ない、上様も其方の解読した本に期待されておる励まれよ」
うーん小普請から正規雇用は武士としては良いんだろうけどなんか複雑だな。
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江戸城本丸御殿 御用部屋 老中首座 大久保忠朝
「聞きましたか加賀守殿、あの「榊原家」の者が小普請から上に上がりましたぞ、それも布衣(約六位の官位に相当)も許されたとか」
「豊後守殿、某も聞き及んでおります。御庭番頭という新しいお役目とか」
阿部豊後守がいささか興奮気味であったため大久保加賀守は鬱陶しそうな顔で答えている。だがいい意味で空気が読めない豊後守は言葉を続ける。
「あの柳沢めが推挙したようですぞ、いやはや何を考えておるのか」
「某も聞き及んでおります、なんでも上様の歓心を買おうとして神君様御免状持ちの榊原分家を召したとか、加賀守殿、柳沢の振舞いいかがでしょうか?いささか上様の寵を得て慢心しているのでは?」
いつも冷静沈着な戸田越後守がいささか苦い物を飲んだような顔で加賀守に向く。
「越後守殿もお気になるか、某上様付の者たちに尋ねた所、神君様を尊崇されている上様が喜ばれるだろうと召したとの事、但しその力量定かならずとの事で中奥の庭園の手入れを行う下人や職人の番方として職を作り与えたとの事でござる。無能であるならそのまま、有能であれば先があるようにするとの事で大したことは無いとの事だそうで、その新たなる職が直ちに我らの職務に影響を及ぼすことは無かろうとの話じゃ」
大久保忠朝が答えると戸田越後守は納得したのか首を縦に頷いたが阿部豊後守はまだ納得がいかないようであった。
「だが柳沢の振舞い正に専横ではありませぬか?我らを軽んじておるのではありますまいか?」
「豊後守殿、おそらくは上様がお戯れに口にされたことを敢えて無能でも務まる役に付けて上様の不興を産まぬようにした、それは我らにとっても利のある事、上様も満足、我らも職務に影響無しであるなら柳沢の振舞真に神妙であると思わないかな?」
「それはその…そうでありますが」
「よいかの、上様が一度激されれば我らとてただではすまぬ、昔から上様の傍に侍り上様を鎮められる者は貴重な存在、いたずらに危険視しては為にならぬ、気を付けられよ」
「はっ、心得違いをしておりました、お許し下され」
豊後守が頭を下げてその場は収まった。
「柳沢か、あの者確かに切れる、いずれはさらに高みに臨むようになろう」
そう思った大久保忠朝であったがまさか自分より高い地位に昇るとはこの時は思いもしなかったのであった。
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「という事で俺は隠居して源三に家督を譲る、しかし目出度い、我が家から小普請より上に行く者が現れるとは」
親父が隠居して俺が御庭番になったことを喜んで我が家では珍しく宴会を開いている。
「若様がついにおやりになりますったううう、爺は信じておりましたぞ」
しばらく空気だった彦爺が泣いて喜んでいる。
「でも旦那様が登城している間は一緒に居られないんですね」
美代がすこし悲しそうに言う、まあね小普請の時は暇だったからね。
「まあそう言ってやるな、本当は凄く名誉な事なんだぞ、役に付くってことはな、それも上様のお声掛だからなおさらだな」
親父が嬉しそうに杯を呷る。本人気にしてたんだ。小普請入りしてたの。
それは兎も角、あの上様の御側に仕えるのか、不安しか無いな。
なおこの小説はフィクションであり登場する人物・団体・組織等は完全な架空の存在です。
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