拾話 ちょっお前有名人じゃんw
年が改まり貞享3年を迎えた。美代も、由も無事に出産し両方とも男の子であった。親父と睦さんは孫が生まれて大喜びだ。由の母親も大喜びで我が家は新しい年を喜びで迎えることとなった。柳沢殿は写本が余程気に入ったのか大金を持ってきて譲ってほしいとのことなので了承した。新しい写本もできたし日野屋に渡して検証してもらうことにした。日野屋は繋がりの深い産医などを使って調べるみたいだ。
写本の件が一段落したので書庫から持ち出していた「 実用工藝指南書」の方に取り掛かる。目次をすらすらと流し読みしているが目次ってこの時代にあったっけ?余り見なかった気もするが、便利だからよしとするか。
「空気から肥料を作る方法?なにそれ?錬金術か何かか?」
読んでみると鉄を触媒にして水素と窒素を高温高圧で反応させてアンモニアを作るという奴で、これまるまるハーバーボッシュ法じゃないか、今の技術で作れるわけないだろう、実用とは。
他には蒸気を使った動力装置とか発電機の仕組みとか解説してるな。エレキテルが日の目を見そうにないな。
これも製鉄法が確立しないと出来そうにないなあ。製鉄炉の構造についても書かれてるけど個人の手に余るなあ。もうすこしこうなんというか手心を加えて欲しいものだ。
「なんか直ぐに出来る者は無いのかな~、ん?椎茸などのキノコ栽培法?これだよこれ、こんな物なら何とかなるな」
椎茸などのホダ木栽培は明治になってから確立されたからかなりのアドバンテージだな。ふんふん、雑菌にやられない様に植える前に高温で滅菌したら成功率が上がる訳か。栽培に適した木もあるんだな。流石実用工藝だな。
早速日野屋に検証させることにしたらものすごくやる気になってた。こっちがドン引きしそうな位。
椎茸はものすごい需要があるそうな、干したものは高級品だが供給量が少ないので仕入れに難儀していたらしい。椎茸が軌道に乗ったらしめじやキクラゲなんかにも挑戦してもらいたいね。
子供が出来て物入りだし頑張って欲しいものだ。
キノコと同時にあれの製法も渡しとくか、健康第一だしね。
□
久々に大岡殿が遊びに来たが今日は一人ではない、未だ元服を迎えてない十に満たない男の子だな。
なかなか賢そうな顔立ちをしている。
「実は跡取りとして親戚の子を養子に迎えることになりまして、家の娘と娶わせる事になり申した」
「それは、おめでとうございます。お名前の方は?」
「求馬と申します」
まだ小さいがなかなかしっかりした返事をする。
「早く御目見出来るようにお願いしていまして、その時に元服させようかと思いましてな」
「諱は考えられておられるので?」
「大岡家は忠が代々の通字ゆえ下に相を付けて忠相にしようかと」
ん?どこかで聞いた名前だな。大岡忠相、ただすけ…
「大岡越前!」
「我が家は越前守の受領名を貰った者はおりませんが…」
「いやいや失敬、しかししっくりとくる名ですな」
「そうですなあ、いずれはこのような受領名貰いたいものですな」
いやそこの彼はいずれ貰うんですけどね、ついでに大名になったりして。
「少し歳の差はありますが家の子たちと仲良くしてもらいたいものですな」
「確かに、そうですなあ、兄弟の様に育って欲しいですな」
しかし、柳沢吉保と言い歴史上の人物に結構会うもんだな。これ以上はなまあ無いだろうが。
「さて、源平棋でもやりますか、求馬は家に来るまでやったことが無いので教えていたのですよ、けっこう嵌りましてな、源三殿にも揉んでもらいたいものです」
「ははは、直ぐに追い越されたりして」
冗談になってないよなあ。
□
義父上が友人の所に行くと連れて行ってくれたのはあの源平棋を作った方だと言う。どれほどの才人か自分には想像できない。その他にも井戸のぽんぷという水汲みの道具など色々な物を作って人々の助けになるような物を世に送り出している。
自分も元服して御目見えが終わったら出仕してお役目を務めることが出来るであろうか。義父上に恥をかかせない様に確りと学ばなければ。今は兎も角源平棋を物にしていかねば。
義父上の友人はあの榊原家に連なる家の方だった。徳川四天王とそのその一角を占める榊原康政の逸話は小さいころからよく聞かされていた。その子孫の方に指南を受けることになるとは、なんという幸運。
きっと極めて見せる!
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大岡求馬(忠相)と対局したけど滅茶苦茶強い、最初の3回くらいは勝てたけどその後は襤褸負けしてしまった。本人は手加減されたと恐縮しているがそっちが強すぎるんだよな。
しかしもうすぐ御目見えか、こちらは小普請のせいか未だにお呼びが掛からんのだが、いくらなんでもなあ。
まあ堅苦しいことしなくていいから別にいいんだけど。
そういや柳沢殿はあれからどうなったのだろうか?無事に子供が出来て居たらあれをプレゼントするかな。日野屋での試しで効果は確認できたしね。
そんなこと思ってると大岡殿たちが帰った後柳沢殿から手紙が来て明後日久々に休みだから屋敷に来れないかと書いてある。渡りに船なので行ってみるとしよう。
なおこの小説はフィクションであり登場する人物・団体・組織等は完全な架空の存在です。
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