捌話 浅草寺でひと騒ぎ 前
お待たせしました、かなり間が空いてしまいましたが。
ある作品をなろうにて見かけて嵌りました。
その作品に勇気をもらったわけではありませんが再開のきっかけになったと思います。
2025.5.6 修正 近江屋→日野屋
「王手!」
「…… 参りました」
「これで10勝10敗互角ですなあ」
大岡忠右衛門殿と将棋を指してるがどうも将棋の腕前は同じくらいのようだ。ちなみにどちらも上手い方ではない。
虫干しも終わり暇になったので忠右衛門殿の所に遊びに行って将棋などを打ってみたがお世辞抜きで両者へぼなので盤上は悲惨そのものである。
「将棋、もう一番行きますか?」
忠右衛門殿が駒を拾いながら聞いてくる、それも悪くはないけどね。
「実は新しい遊戯の品を持って来ておりまして」
「ほう、もしかしてその包みでございますか?」
最初から気になっていたのだろうが俺が持ってきた風呂敷包みを指さす。
「左様です、試してみましょうか?」
風呂敷包みを開けて見せる。
「碁盤?それにしては枡が少ないですな?ひいふうみ……八升ですか」
「囲碁を元に工夫をしてみましてな、囲碁より分かりやすくしておりまして簡単に遊べますぞ」
「なるほど」
これは所謂リバーシと呼ばれる物である。本来は両面を白と黒に塗分けた石を使っているのだが試作品なので将棋の駒と同じ木で丸い駒を作り裏面だけを黒く塗る事で代用している。
ルールを教えると忠右衛門殿は「ずいぶんと簡単ですな」と話していた。
とりあえずやってみるということで中央の四マスに白黒の石を置き始める。
パチリ・パチリ・……
「ほほう、こうすると一気に色が変わるのですか、なるほど」
「な!角を取られると一気に形成逆転ですか!これは厳しい!」
などと完全に嵌った様だ。
★
「はぁー中々熱くなりましたな。これは面白いですぞ!これは何という遊びなのですかな?」
「そうですな、実はいい名前が浮かばんのですよ、黒白の駒が囲碁を連想されてしまうので」
「成程!確かにそうなりますな、これは売りに出されるので?」
「日野屋に頼んで居ますのでまもなく職人を手配してもらい量産しようかとおもっています」
「うーむ…」
忠右衛門殿は駒を手に取り眺めながら口を開く。
「色なのですが白はそのままで黒を赤に出来ませんかな?」
「え?」
「いや、赤と白、源平の合戦を想像しないかと思ったのですよ」
成程!流石忠右衛門殿、一味も違う答えを出してきた!
「赤白棋…いや源平棋!これだ!」
「囲碁と違い盤上が華やかになりますからな、これは流行りますぞ!」
忠右衛門殿の言葉通り、日野屋から発売された源平棋は爆発的人気を誇るのであった。
~江戸城ある場所にて~
「昨今源平棋なる物が巷ではやっておるそうだな」
「お耳が早い、上は大名から下々の者まで熱狂してる由にて」
「成程、面白そうじゃな、やってみたいものよ」
「そう仰せと思い取り寄せてございます」
「くくく、そちも分かっておるのう」
「それはもう長く近侍しておりますから」
「では一局まいろうか…そういえば御参りに行くのであったな?」
「は、妻に江戸の名所に行く事をねだられまして」
「成程、気軽に出歩けぬ余の分も楽しんで来るがよい」
★
浅草 浅草寺
今日は忠右衛門殿と浅草寺に参っている。
御参りに行こうと誘われたのもあるがある物を見ようと思ったのだ。
「これは凄いですな…」
忠右衛門殿がため息をついたのは所謂雷門に架かっている大提灯である。
無論この時期には存在しなかった筈の大提灯だが日野屋に宣伝になるからと勧めたらノリノリで寄進して来た。
当然ながら目を引くことこの上もなく後ろに書かれた日野屋の人気はうなぎ上りである。
そうして門前の出見世を冷やかしていると声が上がった。どうやらトラブル発生らしい。
『掏りだ!』『何だと!』
どうやら武家と町人が揉めているらしい。
俺は忠右衛門殿と目配せをして近づいた。
「俺のどこが掏りだって言うんだよ」
「そなたがぶつかってきた時に懐に手をやったのは判っている」
争っているのは少し派手な衣装の町人とまだ若い侍とその奥方らしき人物である。
「じゃあ財布はどこにあるって言うんだ?無いのでは話にならんだろう」
「それは……」
町方役人が呼ばれているが肝心の財布が見つからず状況は侍不利である。
「財布はここにあるんじゃないかな?」
「!!」
忠右衛門殿が抑えている男の懐から取り出した分不相応な財布を見せる。
「それは某の財布!」
「そこの男がこいつに手渡ししてたんですよ」
町方役人に見たことを教えてやると犯人二人は番所にしょっ引かれていった。
「助かりました、某は直参の柳沢房安と申す者、そして此方は妻の染でござる」
え?まさか後に大老格まで出世する柳沢吉保?
なおこの小説はフィクションであり登場する人物・団体・組織等は完全な架空の存在です。
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