序章
異世界ファンタジーです。
切なくもハッピーエンドになる予定です。
楽しんでいただければ幸いです。
それは奇跡か、運命の悪戯か。
何百年かに一度、異世界の人間が時空の狭間からやってくる。
彼らの世界はこの世界よりも遙かに優れた文明を持っていて、その人間を受け入れた国はその知識により生活が豊かになる。そして、その人間は自然と王子、姫と惹かれ合い結ばれ、王族として祝福を受けることとなる。
昔から言い伝えられているこの話を、私はお伽噺の一つと捉えていた。
確かに王族の系図を辿ると耳慣れない名がいくつか出てきていて、必ずその時代は何かしらの歴史的発展があり、人々の生活が向上したと記録されている。また、王族の何名かは平民には見られない珍しい髪や瞳を持っている。これらから言い伝えが事実であることは証明できるだろう。けれど、それは歴史上の過去の出来事であり、私には関係のない話だと思っていた。
まさか、その何百年に一度の珍事に巡り会うことになるなんて、考えもしなかった。
突如生まれ、瞬く間に消えた時空の歪み。
いち早く歪みを察知した魔術師の報告により王国騎士が調査に赴いたところ、歪みの跡地で一人の人間を発見した。一目でこの世界の者ではないと分かる出で立ちだったという。取り乱した様子で一旦城で保護したがまともに会話ができる状態ではなかったそうだ。
そして今日。丸一日かけてようやく平静を取り戻した相手の素性を聞き、今まさに謁見の間にて報告がなされるところだ。
「名はタチバナミコト。十七歳の少女です。チキュウのニホンという場所で生まれ育ったといいます」
目の前が暗くなるのは初めての経験だった。今、私はどんな顔をしているのだろう。きちんと、笑みを浮かべているだろうか。青ざめてはいないだろうか。
国王に向かって頭を垂れる騎士の姿しか目に入らない。"彼"がどんな反応をしているのかなんて、確かめたくない。
どよめく周囲の反応は喜色のみ。誰もが異世界の少女を歓迎し、その存在を喜んでいる。この国は安泰だと胸をなで下ろしている。
十七という年齢も都合がいい。
次期国王といわれる第一王子は十七歳。同じ年だ。
異世界の少女と王子は運命のように互いに惹かれあう。
二人は結婚し、王子は国王に、少女は王妃になって互いに支え合って国を導いていく。
これは、古来から変わらぬ予定調和のような未来。
誰もが望む未来。
たった一人。私を除いて。
同じ十七歳。物心ついた時にはそばにいた。
"彼"の隣が私の居場所だった。
皆がそう思っていた。
それはもう、過去の話。
"彼"、第一王子であるセドニー・ゼオライトは、タチバナミコトと結ばれる。
婚約者である私、ラピス・セレナイトを置いて。
私は、ゼオライト王国のいらない存在になった。