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08 天使と炎天下

 床に座りこんだ状態で、部屋に入ってきた彼女と目があった。


 名前はたしか……日下部さんだ。日下部(くさかべ)雪華(ゆきか)

 アギトを抑え入試を首席で合格した秀才。全ての項目で高得点を取らなければならないから、適正に甘んじないで努力もしてきたのだろう。


 足がすらりと長いから、この位置からだと制服のスカートとニーハイの間で煌めく太ももがばっちり見える。それはもう、最高だ。じゃなくてっ。


「大丈夫。ちょっと感動してただけだから」

「そう? なんだか不穏な雰囲気を感じて」

「う、うん。全然なんともなかったよ。本当に!」

「分かったわよ。そんなに否定しなくても」

「美人と話すと緊張するからね」


 嘘です。ダンジョンマスターとかいう人類の敵になった上に学校にダンジョンを建設したという、特大の爆弾がバレてないか心配なだけです。


 ただ美人なのは間違いない。黒髪ロング最高!


「美人、ね」


 彼女は照れも怒りもせず、切なげにそう呟いた。

 ところでさっきから気になってたことがある。


 彼女の手に握られている、半透明のレイピアだ。


 なにそれ、物騒すぎない? 俺の心臓がバクバクしている理由の九割は、その殺傷能力高そうな武器のせいなんですけど。


「ああ、これ?」


 日下部さんが俺の視線に気が付いて、軽く振るった。空気を斬るピュンという軽い音がして、レイピアがしなった。


「私のジョブよ。『演武ノ天使(ミカエル)』は、自由に武器を出せるの」

「なにその強そうなジョブ」


 聞いたら分かる強いやつじゃん。

 しかも俺の知る限り新ジョブだ。マニアだからジョブ図鑑は読み込んでいるが、公表されている中では存在しない。


 天使系のジョブはいくつか心当たりがあるが、どの探索者も最前線で戦っている強力なジョブだ。


「唐西君、遅いよ。みんなもう終わったよ?」

「あ、先生。すみません」

「まあいいや」


 教師でもダンジョンに気が付かないのか?

 俺はダンジョンマスターだからなのか、足元に広がるダンジョンの気配を感じている。感覚的なもので言葉にできないが、そこにある、ということが分かるのだ。


 だがプロの探索者である古屋敷先生も、特に疑問に思っている様子はなかった。


「なんか嫌な感じがするわね……」

「いや、全然しないよ。間違いない」

「んー……」


 だが日下部さんはきょろきょろしながら、釈然としない顔をしていた。

 核心には至らずとも、違和感を覚えている様子だ。


 頼むから気が付かないでくれ。


「あ、唐西君のジョブは何?」

「拳使いです」

「りょーかい」


 古屋敷先生は手元の名簿に記入して、それをしまった。俺がコアさんと楽しくお話ししている間に、全員が終了していたようだ。そりゃ心配になって呼びに来るわ。


 クラスメイトは他の人のジョブが気になって仕方ないのだろう。俺のジョブ報告もしっかり聞いていた彼らは、憐れむような視線を向けてきた。

 となると、アギトが喜んでやってくるに違いない! 彼の行動はもう分かるぞ。


「ふん、だから言っただろう。お前は雑魚だと」

「さすがアギト!」

「む、なんだお前」


 弱いジョブどころかジョブなしになってしまった俺は、雑魚だと言われてもその通りとしか言えない。

 内心かなり落胆していたのだが、アギトのおかげで少し吹っ切れたな。


 ダンジョンマスターのまま探索者になってもいいでしょ。偽装できるし。

 俺の夢は終わったわけじゃない。


「お前のような落ちこぼれと違ってな、俺は『炎天下』というジョブを手に入れた。くく、殴ることしかできないジョブで残念だったな」

「それって暑いだけじゃ……?」

「黙れ」


 軽口はともかく、彼もオンリーワンなジョブを得たようだ。適正Aは伊達じゃない。

 言わずと知れたS級探索者、大門寺カブトさんのジョブは『快晴ノ王』だったはずだ。いわゆる天候系と呼ばれる、ほんの数名しか発見されていないジョブだ。


 炎天下が天候だとするなら、カブトさんに匹敵する探索者になれる可能性がある。


 職業管理室の広間では、クラスメイトが思い思いにスキルを発動して、ジョブの感触を確かめていた。

 ジョブはステータスに補正がかかるだけでなく、ジョブごとに異なるスキルを発動できる。例えば、先ほど日下部さんが出していたレイピアもおそらくスキルの効果だ。


「暑いのは嫌いよ」

「ボクもー」


 俺たちのやり取りを見ていた日下部さんと先生が、炎天下についてコメントした。

 そこまで苦手じゃないけど、真夏の猛暑はさすがに堪えるなぁ。


「おい! 俺を下に見るな! 中間試験では必ず俺が一位になる」

「アギトっていじられる才能あるんじゃない?」

「おい劣等生、いい加減その口を閉じろ」

「先生、話しかけてきたくせに黙れっていう理不尽な人がいます!」


 俺のことをバカにして気分良くなりたかったのだろうが、残念だったな。

 自分が落ちこぼれだということは、数年前から百も承知! それでも諦められないからここにいるんだ。


 アギトは怒りで火を噴いて……っていや、マジで頭から炎出てるじゃん。そういうスキルか?


「俺と勝負しろ! 格の違いを分からせてやる」


アギト、なんて暑い男なんだ……

そして雪華さんは黒髪ロングの太もも美少女太ももですニーハイ。

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