07 ダンジョンクリエイト
『警告:魔王の使徒よ。それより先に進むことは許可できません』
『警告:マスター。現在のレベルでは神に挑むのは危険です』
「んなっ」
頭の中に、二種類の音声が同時に響いた。
一つは今朝聞いたダンジョンコアの声。もう一つは、ジョブストーンの声か?
俺の右手――ダンジョンコアが埋め込まれた部分が、ジョブストーンに対抗するように赤く輝いた。
『マスター、緊急事態のため早急にダンジョンを作成してください。現在使用可能なDPは100です』
いや、俺はジョブを貰いにきたんだけど!?
なんだか理解の及ばない展開になってきた。
頭が真っ白になり、よろけて尻餅をついた。
ダンジョンマスターになったからジョブを貰えないのか。
そりゃそうだ。ジョブはダンジョンを攻略するための機能。言ってしまえば、ダンジョンの敵だ。
俺が夢想していたステータス表示の代わりに、視界にはダンジョン作成のメニューが現れた。ホログラムのように空中に描かれたゲーム画面のようなメニューだ。
『ダンジョンクリエイト(植物系)
所持DP:100
階層メニュー
・階層追加:50pt
・階層拡張:現在利用できません
・部屋追加:現在利用できません
設置メニュー
・薬草:1pt
・レッサーヴァイン:20pt
特殊メニュー
・レベルアップ:100pt
・ステータス偽装:50pt
・ダンジョン内転移:50pt』
「情報が多すぎる!」
そうしている間にも、ジョブストーンの輝きは増していく。
まさか探索者になるどころか敵認定されるとは……だが諦めるのはまだ早い!
「とりあえずダンジョンを作ればいいんだよな」
俺は探索者のファンであると同時に、ダンジョン攻略そのものが好きなんだ。
生まれる前ならともかく、俺が知っているダンジョンとはワクワクドキドキ、楽しいものである。悲惨な事件が多く暗いイメージは、探索者の質が上昇したことでなくなった。
だからダンジョンを作れると聞いて、正直心躍っている自分がいる。
「コア。ダンジョン作成を」
『かしこまりました。なお、話しかけなくともマスターがこうしたいと願うだけで操作は完了します』
「そうなんだ」
最初は階層追加だよね。半分のDPを使っちゃうけど、これをしないと始まらない。
『場所を指定してください』
場所とは? と思ったら地下、地上という文字が出てきた。
『ダンジョンの作成は現在地でのみ可能です』
「えっ、こんなところに入口作ったらバレバレじゃん」
『入口の作成は任意です。ただし、内部に探索者を呼べなければDPを稼げません。なお、地上に作成した場合入口は必要ありません』
いや、地上に作ったらバレるとかいう以前の問題なんだが。
なんせここは三迷の生徒が定期的に訪れる職業管理室だ。
ダンジョンを攻略されたらどうなるのかは知らないが、俺がマスターだと知られるのはなんとしても回避しなければ。
「ん? でもダンジョンって色んな構造があるよな。選べるの?」
『はい。材質や壁、天井の有無、道の広さなど自由に設定できます』
「じゃあ、何も作らずただ空間だけをダンジョン扱いにする、とかは……?」
『可能です』
おお、ならそれでいいかな。
範囲はなるべく大きく……あ、最初はそんなに広くできないみたいだ。限界まで広げて、職業管理室を囲うようにした。
地面はそのまま、壁も天井も道もなし。ダンジョンというより、もともとあった場所をダンジョン扱いにしただけだ。
『警告:魔王の使徒よ。それはやめてください』
『マスター。たかが石ごときにダンジョンクリエイトを止める術はありません。こちらからジョブ関連の動作を止めることもできませんが』
コアさん、なんだか辛辣。
だがそれなら安心だ。それに、コアが何も言って来ないということはジョブストーンが誰かにこのことを伝える、という心配もなさそうだ。ジョブストーンに意思がないことは広く知られている。
「おし、これでダンジョン完成だな! 何もないけど!」
残りのポイントどうしようかなー、と考えていたら、背後の扉が力強く叩かれる音がした。
「ちょっと! 大丈夫!?」
「え? いや、その」
「早く開けなさい! 何かあったの!?」
はっきりとしたハスキーな声は、首席入学の子だ。
まずい、今この状況は……。
この部屋に入って、ジョブを貰っていないというのはおかしい。
ジョブの報告は義務だから、何もありませんじゃ怪しまれる。
「そうだ、ステータス偽装があった」
残りのポイントを全て使うことになるが、仕方ない。
「いい感じに偽装してください」
『マスター。私に頼るのはおやめください。ジョブを拳使いとして表示するよう偽装しました』
「めっちゃ弱そうなジョブに! でもありがとう」
コアとのやり取りが終わって赤い光が収まった瞬間、勢いよく扉が開け放たれた。
「大丈夫!?」
次回ヒロイン回!
「待ちくたびれたわ」って人は★★★★★
「いやコアさんがメインヒロインでお願いします」って人も↓から評価していってください!