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49 前哨戦

 黒枚が忽然と姿を消した待合室で、しばらく座り込んでいた。ただ呆然としていたわけではない。どう対応すべきか考えていたのだ。

 放置することはできない。あいつが行動を起こせば、日下部さんやアギトたちが危険にさらされる。出場生徒だけでなく、サポーターも攻撃対象になるかもしれない。もしかしたら、会場に来ているだけの観客やスタッフにも魔の手が伸びる可能性もある。


「いや、学校対抗戦は全国から戦闘に特化した生徒たちが集まるんだぞ? それに、審判や先生たちはプロの探索者だ。有名な探索者が観戦に来ることも珍しくない。襲われても返り討ちにできるんじゃないか?」


 黒枚の実力がいかほどか分からないが、大勢の探索者を相手に戦えるほどなのだろうか?

 俺に協力を求めてきたくらいだから他にも協力者がいるのかもしれないが、あまりにも無謀な気がする。


 わざわざ俺が正体を明かすリスクを冒さなくても、勝手に解決されるのではないか?


「だがそれはあいつも分かっているはず」


 何かしら勝算があるのだろう。

 それを知っているのはおそらく俺だけ。黒枚は仲間に引き込むつもりなようだが、協力するつもりはない。


「コアさん、ダンジョン外でもDPを獲得する方法はあるのか?」

『通常の手段では不可能です。そのようなスキルやモンスターを所持しているのかもしれません』


 なるほど。例えば人間を生きたまま収納するようなスキルがあれば、ダンジョン内に持ち込んで殺害することでDPは得られるだろう。

 彼の目的が大量殺人によって上位の魔王に追いつくことなら、外で殺害する意味はない。


 その制約は弱点だ。方法が分かれば対策も立てやすい。


「日下部さんに相談だな」


 こんな時、気兼ねなく相談をできる相手がいるというのは助かるな。

 アギトと長瀬にもいずれ話す日が来るかもしれない。二人なら、きっと受け入れてくれると思いたい。


 控室を出て観客席に戻ると、長瀬がぴょんと跳ねて手招きをした。


「あ、ソータ君。もう開会式始まっちゃいましたよ?」

「ああ、悪い」


 闘技場の中では各校の精鋭たちが火花を散らしている。遠目で見えないから、ただの予想だけど。

 出場選手は各校十七名ずつだけなので閑散としているが、それぞれ存在感があって圧がすごい。アギトなんて炎をオーラのように纏ってひと際目立っている。どうせ「ふっ、俺が最強だ」とか言いながら調子乗ってるんだと思う。


 様子を見ていたら他校の男子生徒がやってきて、正面に立った。そして両こぶしを握って足を肩幅に開くと、腰を落として力を溜め始めた。アギトに対抗して身体から溢れてきたのは水だ。渦を巻いて身体を囲んでいる。


「なにやってんだあいつら」

「あはは、目立ちたがりですね」


 しまいには炎と水を衝突させて、蒸気を上げていた。アギトとオールバックの少年は、真剣な表情で競い合う。さながら対抗戦の前哨戦だな。同じ学年か知らないけど。


 とはいえ開会式中のスキルの使用についてはわざわざ「可」と明記してあったので、こういったパフォーマンスも想定の内、というより推奨されているのだ。彼ら以外にもスキルを使用してアピールしている選手が多くいた。


「ふむふむ、水系のジョブというと『水魔導士』や『河童』、『青海ノ歌姫(セイレーン)』あたりっすかね……? やや、あちらの方は『聖騎士』では? おお、あれは……」


 十式が目を輝かせて観察していた。

 スキルを使ってアピールするのはいいが、サポーターによって戦術を暴かれるリスクもあるんだよな。それを嫌ってか、日下部さんのようにスキルを使わず澄まして立っている者も多い。


 さすがに会場校の校長や連盟長の挨拶中には大人しいもので、開会式はつつがなく終わった。

 この後は二年生の個人戦が行われ、明日はいよいよ一年生の出番だ。


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