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48 羽箒

 黒枚(くろま)は遊びに誘うような気軽さで、犯罪行為に勧誘してきた。

 いや、犯罪という言葉すら生ぬるい。こいつは人類に対して明確に敵対する意思を見せた。つまり、俺や日下部さんの敵である。


 話合う余地はない。即座に攻撃を開始する。


「スティングソーン」

羽箒(はねぼうき)


 いばらを生やすことができるのは自分を中心に半径一メートルの範囲だけだ。シーちゃんが作成できる特性の種をあらかじめ植えて置くことで、半径二十メートルまで操作可能になる。だが、どちらも根を張ることができる地面である場合だけだ。


 湿地洞窟のような硬い岩場程度なら問題なく発動できるが、控室のコンクリートでは厳しい。

 地面から生やすことができないのであれば、俺の身体からいばらを伸ばすしかない。


 ニードルナックルの要領で棘を出現さえ、一気に黒枚に向かって伸ばした。

 しかし、彼が軽く手を振ると棘はモンスターが消滅する時のように光の粒子となって霧散した。見ると、彼の手には卓上を掃除するサイズの黒い羽箒が握られている。


「いきなり攻撃なんて、意外と好戦的なんだね?」

「人間を殺すダンジョンマスターは許さないと決めてるからな」

「ふーん、別にいいけど、敵対するなら殺すよ?」


 お互い小手調べ程度の攻撃だったが、おそらく俺より黒枚の方が強い。というか、新参の俺より弱いダンジョンマスターなどほとんどいないだろう。虚子だって、相性と運でたまたま勝てただけだ。


「やだな、そんな怖い顔しないでよ。もう少し話を聞いてくれると嬉しいな」

「断る」

「まあまあ。ちょっとでいいからさ」


 そう言って、黒枚は長椅子に腰かけた。隙だらけにも見えるが、スキルはどんな体勢からでも発動できるからな。羽箒でスティングソーンを防いだスピードを見るに、虚子のように直接戦闘を苦手とするタイプではなさそうだ。


「君に声を掛けたのはさ、僕もダンジョンマスターの中では若い方だからなんだ。会合に行けば先輩はいくらでもいるし、僕より強いマスターなんてごろごろいる」

「だからなんだ?」

「僕は上に行きたい」


 軽薄な口元が、一瞬だけきゅっと結ばれた。


「ああ、勘違いしないでね。その辺の日和見マスターは敵じゃないんだ。あいつらは現状維持で、探索者から楽にDPを稼げれば良いと思ってる。成長を辞め、ダンジョンを探索者のためのレジャー施設かなんかだと認識しているような奴らは、僕の敵じゃない」


 アギトに似たタイプか?

 いや、あいつは目的があって上に立つ必要があるだけだ。黒枚の場合は、ただ勝ちたいだけの、戦闘狂。そんな印象を受けた。


 ああ、妙に親近感を覚えてしまったのは、俺が近い性質を持つからか。


「だけどトップの三人は格が違う」

「三人?」

「君もいつか会うだろうさ。黎明期に大量の人間を呑み込んだ、三大迷宮のマスターだよ。彼らは大勢の人間を労せずDPに変え、力を蓄えた」


 三大迷宮。メディアなどで多く取り上げられるその名前は、日本にある三つのSランクダンジョンを指す。

 その三つは京都駅を取り込み大門寺カブトによって攻略されたダンジョンとほぼ同時期に現れ、同じように主要駅を呑み込んだのだ。カブトさんが攻略して京都駅を解放していなければ、四大迷宮と呼ばれていたかもしれない。


 死者数、危険度ともにトップクラスだ。

 DPの貯め方は主に二種類。ダンジョン内でMPを使わせるか、中で人間を殺すか、だ。


 多くの死者を出した三大迷宮は、当然DPも荒稼ぎしたのだろう。そのために主要駅をダンジョンにしたのだから。


「じゃあお前は、三大迷宮のマスターに追いつくために対抗戦を潰すってことか?」

「そういうことになるね。一般人を殺すよりジョブ持ちを殺した方がDPの効率がいいんだ。これだけ殺せば、かなり稼げると思う」

「てことは、この闘技場はお前のダンジョンなのか?」

「いいや? 学校内にダンジョン作るなんて、そんな危険は冒さないよ。地上にダンジョンを作ったら一発でバレるじゃないか」


 耳が痛いな。

 正体を隠して学校に通っている奴が言うセリフではないと思うが、ダンジョンマスターの特殊メニューには『ステータス偽装』がある。たとえ鑑定系のスキルを持つ探索者と遭遇しても、見破られることはない。


 俺のように地面をダンジョン化するだけなら気づかれないんだけど、もしかしてそのやり方を知らないのか?


「じゃあ生徒を殺しても意味ないだろ」

「僕のスキルに丁度いいのがあってね。協力してくれるなら君にもポイントを上げるよ」

「外で殺してもポイントを手に入れられるスキル……? 凶悪すぎないか?」

「さあね。そこまでは教えられないな」


 話は分かったが、余計に放っておくわけにはいかなくなった。

 黒枚は人類の敵だ。


 『ダンジョンマスターを倒すダンジョンマスター』になると約束したのは、黒枚のようなマスターを野放しにしないためだ。


「モンスター収納――如意ヘビ、ガブリッチョ」

「おっと、今戦う気はないよ。じゃあ、考えといて。転移」


 消えた。

 ダンジョン内転移は内部にいなくても使用できるが、あまりに離れていたら不発になるはず。

 京都の生徒なだけあって、近くにダンジョンを構えているのだろう。


 学校対抗戦は、波乱の様相を呈していた。


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