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46 開会式

 到着日はそのまま就寝し、翌日は準備日としてそれぞれ思い思いに過ごした。

 俺はあちこち見学に行きたかったんだけど、外に出た瞬間古屋敷先生に捕まったので、大人しく割り当てられた演習場でアギトたちの鍛錬に付き合っていた。


『絶対逃げると思ったよ、君』


 とは何かのスキルで俺を拘束した先生の言葉である。

 相変わらず、先生のスキルは何をされたのか分からない。


「うう、いよいよ開会式ですか。緊張しますね」


 自分が出場するわけでもないのに、長瀬が腹をさすっている。でも気持ちは分かる。俺も胃が痛いよ。

 日下部さんは涼しい顔で装備の点検をしていた。彼女は到着してからこっち平常運転で、緊張は欠片も見えない。

 バスではガチガチだったアギトも、昨日一日空いたおかげか大分解れたようだった。程よい緊張感は保ちつつ、集中している。雨夜はいつも通り無言なのでよく分からない。


「応援してるっす!」

「あなたの宣伝のためでしょう?」

「あはは、バレたっす」


 軽い調子で日下部さんを小突く十式は、今のところ一番の功績者だ。今から本番を迎える三人とは違い、十式は昨日までずっと動いてくれていた。装備の作成や調整に始まり、戦闘を録画して研究者の目線からアドバイスしたりと、八面六臂の活躍だった。


 開会式が行われるのは、試合会場でもある闘技場だ。サンメイにもコロッセオのような施設はあるが、キョウメイの闘技場はドーム型だった。参加するのは代表生徒だけなので、俺たちサポーターは観客席に向かう。


「アギトがんばれよー」

「ふん、開会式で何を頑張るというのだ」

「緊張で倒れないように」


 闘技場の中は各校から集まった生徒たちでごった返していた。

 出場者は探索者スーツで、サポーターは制服かな。学校ごとに指定の格好で肩や胸に数字の入ったワッペンを付けているので、どこの学校なのかは一目でわかる。


 東京にある第一迷宮専門学校――通称メイセン。最初に出来た専門学校だから、略称は他と区別せず迷専と呼ばれている。キョウメイと並んでエリート校だ。

 福岡のヨンメイ、山形のゴメイも、後発の学校と侮るなかれ。それぞれ九州と東北、北海道を管轄しており、広い範囲から生徒が集まるのだ。サンメイと同じように管理の容易い低ランクダンジョンが隣接しているため、戦闘経験も豊富だ。


「今日から個人戦が始まるんだよな」

「そうみたいですね。二年生、一年生、三年生の順に、まずはベスト4まで決めるみたいです」


 準決勝、決勝は後から行われる。個人戦だけで三日間の日程だ。一学年につき計十五人のトーナメント戦なので、四回勝てば優勝ということになる。シードの生徒は三回だな。

 組み合わせはくじ引きで決まるが、初戦から同じ学校の生徒と当たることはないらしい。


 そして、各学年の優勝者が決まれば優勝者同士のエキシビションが行われるのが通例だそう。


「十式としては、団体戦が楽しみっすね!」

「団体戦よりも実践に近いもんな。長瀬なんか、来年チャンスあるんじゃないか?」

「えへへ、出られるように頑張ります。できれば、私たち四人で」


 なかなか可愛いことを言ってくれる。


 個人戦決勝の翌日から二日間が団体戦である。二、三年生から一チームずつ出場し、毎年違うルールで勝敗を決めるらしい。そのルールは公開されていないが、単純な強さではなくダンジョン探索に必要な能力を競うものが例年選ばれる。

 また試合形式も総当たり戦の場合もあれば、五チーム同時に挑戦するもの、逆に一チームだけで課題をこなし得点を競うものなど様々だ。


 なぜこんなに詳しいのかと言うと、個人戦の準決勝以降と団体戦はテレビ中継されるのである。探索者の卵である生徒たちは、お茶の間を楽しませ、子どもたちに夢を与えるのだ。


「俺もテレビ出たかった……」

「そっちですか。まったく、ソータ君は目立ちたがりですね」

「探索者は花形だからなぁ。羨ましいぜ」


 穿った見方をすればダンジョン関連のイメージ戦略といったところだが、探索者のスキルは他では見られないファンタジー世界の産物であることは間違いない。プロの探索者がダンジョン攻略を中継することなんてまずないから、一年に一度の楽しみにしている人も少なくない。


 開会式が始まるのを観客席でじっと待つ。


 ここにいるのは皆サポーターだから、近くにいてもバチバチ火花を散らすようなことはない。闘技場では違うんだろうけどね。


 暇つぶしに他校の生徒を観察していると、通路を歩くサポーターの男子生徒と目があった。

 ん? なんだろう。


 彼がにこりと笑いかけた瞬間――寒気が走った。


『マスター!』


 焦ったようなコアさんの声。

 いや、言われなくても分かる。


「やあ、ちょっといいかな?」


 こいつは、ダンジョンマスターだ。


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