40 新装備
装備ができたとの連絡を受け、俺たちは再び演習場に集まっていた。
「長瀬、身体はよくなったのか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
すっかり顔色も良くなった長瀬も、フルートを携えて参加していた。
この場には既に俺たちパーティメンバー四人に加え、研究科の十式と『アサシン』雨夜もいる。
「では、さっそく装備をお渡しするっす! 使ってみて、違和感あったら調整するっすよ」
日下部さんはスニーカーのような靴『二式・翔駆』を。
アギトは拳銃型の補助武器『三式・炎宴』をそれぞれ受け取った。
どうやら十式という苗字に合わせて作成順に番号が振られるシステムなようだ。
雨夜が貰った黒い短剣は『一式・入墨』というらしい。
「まずは翔駆からっすねー。説明した通り、空中でジャンプできるっす! 片足ごとに効果は五秒に一回、MPは自動使用、方向は自由っす!」
「ちょっと動いてみてもいいかしら」
「もちろんっす」
日下部さんは軽く柔軟をして数歩離れると、持ち前の身体能力で高く跳び上がった。
普通、ジャンプすればそのまま落ちてくるのが世の常である。だが、新しい装備が違う結果をもたらす。
「こうかしら」
一メートルほどの高さで、右足を上げた。そして空中の見えない板を踏みつけるように、勢いよく降ろした。
すると、空中ジャンプの名の通り彼女はもう一度跳び上がり、さらに高度を上げた。
「おお! かっけー!」
俺は思わず拳を握りしめた。空中ジャンプ、それは男のロマン!
あと下から眺める太ももイイ……!
「問題なさそうっすか?」
「ええ、とても使いやすいわ。ありがとう」
「いえいえ、ばっちり宣伝お願いするっすよー」
日下部さんはいつもより口角を上げながら、ぴょんぴょん跳び回り始めた。空中ジャンプは上に上がるだけでなく、空中で方向を変えたり上空を蹴って鷹のように強襲したりと、様々な使い方ができるようだ。立体的な挙動で、縦横無尽に跳んでいる。
五秒に一回というクールタイムは必要だけど、両足それぞれで一回蹴ると二回、空中でジャンプすることができる。
元々素早い動きで翻弄する戦い方を得意とする日下部さんには相性に良い装備だ。
「ふん、次は俺だな」
アギトは相変わらずツンツンしているけど、にやけ顔から心躍っているのはバレバレである。
「ソータ君ソータ君」
「ん? なんだ?」
長瀬が俺の肩を突いて、内緒話をするように両手を口元で合わせた。ぐいっと顔を寄せてくるので、彼女の身長に合わせて腰を落とした。
「あの子、胸とっても大きいですね」
耳元で囁かれた言葉を聞いて、閉口した。
それを言われてどうしろと?
十式は白衣のボタンがはち切れそうな様子だし、設計図にペンを走らせているときも邪魔そうだなーと思っていた。
だがここで俺が同意するのも否定するのもおかしな感じになるじゃないか。
「あれ、ソータ君は好きじゃなかったですか?」
「舐めるなよ。俺は生粋の太もも派だ。たとえ日下部さんや長瀬の胸が残念な感じでも、下に見ることは決して――」
「あら、私が聞いていないところで随分楽しそうな話をしているじゃない」
「あ、あはは。ほら、アギトが銃を使ってみるみたいだぞ」
背中に感じるひんやりとした金属の感覚から逃げるため、射撃用のスペースに移動したアギトを追いかける。遠距離攻撃を得意とする生徒用の的が、数メートル感覚でいくつも設置されている。
アギトの『三式・炎宴』は炎を纏い操るスキル『装炎』と合わせて使うことを前提とした武器である。
汎用性の高い装炎を遠距離攻撃に転用する時、今までは突き立てた人差し指に炎を集中させ、放つという方法で飛ばしていた。
今回作って貰った銃は、その役割を担うものになっている。すなわち、炎の凝縮と照準、そして発射だ。
「装炎」
初期スキルでありながら非常に強力なこのスキルを、アギトはすっかり使いこなしている。
右手の中で渦巻いた炎が、銃の中に吸い込まれていった。
「火山トカゲの胃石が使われてるっす」
ドロップアイテムと呼ばれる、モンスターを倒すことで得られる迷宮資源だ。
炎を蓄積する効果を持った石が、装炎を吸収して凝縮していく。十分に蓄えられると、赤く輝いた。
「BANG」
引き金はない。胃石の中にあっても、アギトは己の炎を自在に操ることができる。
銃口から、胃石に蓄えられ凝縮された炎が発射された。あまりの高熱に空間が歪む。空気を焦がすほどの濃密な炎が真っすぐ中心を撃ち抜いた。
「これはすごいな。威力も正確さも格段に上がっている」
「それは良かったっす。胃石は消耗品なんで、だいたい十回くらい使ったら交換して欲しいっす」
十式が作り上げた新たな装備に、二人は大満足な様子だ。学校対抗戦でもばっちり活躍してくれることだろう。
今後のメンテナンスも面倒見てくれるようで、十式には頭が上がらない。彼女が言うにはWINWINだという話なので、宣伝を頑張らないとな。
「三人が学校対抗戦で勝ち抜いてくれることが、一番の利益っすよ」
「約束するわ」
「ああ、必ず勝つ」
雨夜も無言で親指を立てた。
アギトもいつも以上にヤル気である。前期の成績の件は吹っ切れたのか?
「じゃあ、新しい装備を使ってまた模擬戦闘でもしましょうか」
日下部さんがそういうと、アギトの顔が引きつった。