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39 デビルサンフラワー

 ダンジョン内転移で帰っていった虚子を見送って、残された如意ヘビに目を向ける。

 聞いていた通り少しも動かない。


 試しに手に取ってみると、材質は棍そのものだ。モンスターとは特殊なもので、生物学では考えられない事象がよく起こる。そもそも死んだら魔石を残して死ぬ、という時点で謎だ。考えても仕方ないので、如意ヘビに関してもそういうもの(・・・・・・)だと思うしかない。


 よくよく見てみると、片側は蛇の頭のように膨らみ口と目がある。だが触ってみても反応を示さない。餌もいらないとの話なので、武器として使うモンスターなのだろう。


 棒術や杖術も習っていたことがあるので、問題なく扱える。才能がない分、有用そうな技術には片っ端から手を出した。その経験が生きてきたな。


「えーっと、伸びろ――ぬお!?」


 俺は何気なしに指示を出した。地面と水平に構えていた如意ヘビが静かに、しかしぐんぐんと凄い勢いで伸び始めた。左右両側に真っすぐ突き進み、そのまま壁に突き刺さった。


「ストップ!」


 慌てて止めた時には、突っ張り棒のようにがっちりと嵌っていた。頑丈なダンジョンの壁を崩すほどの威力はなかった。


「び、びっくりしました」


 ドラさんが手に持っていた薬草をぱらぱらと落とした。


「ごめんごめん。こんなに伸びると思わなくて」


 今度は心の中で「戻れ」と念じてみる。すると伸びた時と同じ速度でしゅるしゅると縮んでいった。

 如意とはつまり「思いのままに」という意味である。口に出さずとも操作できるようだ。


「おお、なかなか便利そうだな」


 色々試してみると、伸びる速度や長さも自由に指定できるようだった。ダンジョンの廊下で試してみたら、最大二十メートルほどまで伸びた。逆に短くした場合には、手のひらに収まるサイズにまで縮んだ。


「ちっちゃくなった!」


 それを見たシーちゃんが喜んで手に取り、ぶんぶん振り回して遊んでいる。


「それ蛇だぞ」

「ひゃあ……でも動かないから大丈夫、かも?」


 美味しいイチゴを付けるだけのイチゴヘビからは逃げ回っているけど、如意ヘビは大丈夫らしい。

 ちなみに虚子のことは激しく嫌っているので、彼女がいる間は顔を出さない。


「さて、うちのモンスターもそろそろ増やすか」


 これから戦闘機会も増えていくだろうし、戦力は多い方がいい。

 ドライアドやシードフェアリーは戦闘向きではないし、人に近い姿をしているから何体も召喚するのは憚られる。


「ガブリッチョ増やす?」

「んー、とりあえず新しく増えたデビルサンフラワーってやつを試してみるか」


 DP消費二万という高額なモンスターだ。その分性能も期待できる。階層拡張に使いまくったDPもほとんど回復したし、消費しても問題ない。

 ついに学校の敷地全体まで領域を広げた俺にとって、ポイントは勝手に沸いてくるものになった。生徒の皆さん、今日も演習お疲れ様です。


「デビルサンフラワー設置」

『かしこまりました』


 シーちゃんの畑に移動し、モンスターを召喚する。

 虚空から現れた野球ボールサイズの種子が土に落ち、めり込んだ。ぱき、と音を立てて割れ根を生やし、数秒後には芽が出てきた。


 シーちゃんがせっせと水をやる。一分もするころには立派なヒマワリが咲いていた。


「相変わらず目を疑う光景だな」


 地面から女性の姿をした樹が生えてきた時ほどじゃないけど。ドラさんの話である。


 一見するとただのヒマワリだ。ガブリッチョと比べると茎は細く、大きさも控えめだ。

 黄色い花びらは夏らしく綺麗だけど、モンスターには見えない。


「何ができるんだ?」


 そう話しかけると、デビルサンフラワーがわさわさと動いた。口や目があるわけじゃないが、身体を揺らし懸命に何かを訴える。


「分からないからとりあえずやってみて」


 コアさん曰く、俺の植物系というカテゴリーは、それぞれ違う方面に特化したモンスターを得意とするようだ。

 移動することができない代わりに、近接戦闘においては格上すらも圧倒するレッサーヴァイン。

 身体が小さく戦闘能力はないが、空を飛び姿を消すことで優れたサポートを可能にし、また植物を育てる能力を持ったシードフェアリー。

 薬草類を加工しポーションを作ることができるドライアド。


 今のところ戦闘能力を持つのはガブリッチョだけなので、デビルサンフラワーも戦闘向きだと嬉しいのだが。


「わくわく」


 シーちゃんが俺の肩に乗って新しい仲間の動きを見守る。

 デビルサンフラワーは顔(と呼ぶべきなのかは分からないが)を壁の方に向けると、前に突き出した。二枚の大きな葉を地面に突き立ててがっしりと固定する。


 まるで砲台みたいだな、という感想を抱いた瞬間。


 ズドドドドド。


 大きな音を立てて、壁に何かが連続で衝突した。デビルサンフラワーから発射されたヒマワリの種だ。それも、小さな種が大量かつ継続的に発射されている。


「遠距離タイプか!」


 まるでマシンガンだ。

 ヒマワリの種の猛攻を受けた壁の表面がぼろぼろと崩れ落ちた。威力は十分。


 射撃をやめたデビルサンフラワーが双葉を器用に曲げ、腰に手を当てた……のか? 表情はなくてもどや顔していることが分かった。


「すごいな。ガブリッチョと合わせてかなり有用だぞ」


 ガブリッチョと同じく移動不可。さらに見た感じ防御力もなさそうだな。近接戦闘も不可、と。

 だがそれを補ってあまりある遠距離攻撃性能を持っている。射程は厳密に調べたわけではないが、百メートル弱は問題なさそうだ。


「名前はズドッチだね!」

「だせぇ」


 シーちゃんやドラさんというそのまま頭文字を使う名付けしかできない俺が言えた立場ではないけど。


 ズドッチは気に入ったのか、葉で頭を掻いた。喋らない代わりにジェスチャーがものすごく饒舌だ。


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