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37 装備作成

 迷宮攻略科一年、十式あかりに連れてこられたのは迷宮資源室だった。

 職業管理室の隣にある建物で、初期のころからダンジョン化してある場所でもある。


 攻略科には縁がなかったので入るのは初めてだ。名前のとおり迷宮資源全般を扱う場所だ。

 迷宮資源は多種多様で、それぞれ役割が違う。その加工や活用方法を研究するというわけだ。


 例えば俺のダンジョンで採れる薬草は、加工することでポーションになる。


「資源室は一年生が主に使ってるっす。二年生からはそれぞれ特化した研究室に入るっすからねー」


 建物の中は保管庫と実験室が何部屋もある。

 十式は勝手知ったる足取りで一つの部屋を占領すると、ガチャガチャと棚を漁り始めた。


「武器以外にも防具とか、野宿用のアイテムとかもあるっすよ」


 既に武器を作って貰った雨夜は適当な椅子に座って目を閉じている。と思ったら船を漕ぎ始めた。自由な奴だ。


「そうね。なにか靴のような装備はあるのかしら?」


 探索者スーツとは違い、靴は指定されていないのでだいたいは安全靴やブーツなどを履いている。探索者は長時間歩くことも多いから歩きやすい靴が良いとされているが、ジョブによって必要なものは変わってくる。


 日下部さんは普段安全靴を履いているが、十式の話を聞いて興味を持ったようだ。


「作れるっすよ。先ほどの戦闘を見た感じ、近接型っすよね。なら……」


 眼鏡をくいっと上げた十式によって、さらさらと紙に何かが描かれていく。

 横から覗き込むと設計図なようで、スニーカーのような外見に、何の素材をどこに使うかといった情報が書き込まれる。


「アラクネの糸にアイアンウール、魔晄粘土をゴム泉水で伸ばして……天鳥の羽も……」


 様々な迷宮資源の名前が次々と飛び出してくる。


 迷宮資源の中で一番有名なのはエネルギー産業を支える魔石だが、他にも一般に流通していないものがたくさんある。

 既存の産業を壊しかねない高性能の素材が多いからだ。それに、加工にスキルが必要な場合も多い。そのため、一般人が入手できるものは魔石に加え、肥料に使われる魔晄コケなどの一次産業を支えるものだけだ。


 考え始めると周りが見えなくなるタイプなようで、俺たちは口を出さずに見守った。

 真面目な顔でペンを走らせる白衣の少女。おまけに巨乳。眼福眼福。


「できたっす!」

「えっと、それでどんな性能になるのかしら?」


 珍しく困り顔で日下部さんが首を傾げた。クラス一位の秀才も、十式の呪文を理解でいないようだ。俺も早々に理解を諦め、壁のシミを数えている。


「簡単に言うと足が軽くなるのと、空中ジャンプができるっすね」

「空中ジャンプ」


 なにそれロマンありすぎ。俺も欲しい。


「それは……戦略の幅が広がるわね」


 日下部さんの口角が片方だけ上がった。悪い笑顔だなぁ。実験台にはアギトを差し出そう。


 まだ入学して半年しか経っていないというのに、自力でアイテムを作れるというのはもしかして凄いことなのではないだろうか。研究科のカリキュラムは知らないが、新しい装備やアイテムの開発が容易でないことくらい分かる。


「ありがとう。その靴をお願いできるかしら?」

「もちろんっす! ぜひ私の靴で活躍してくだせぇ。ぐへへ」


 続いてアギトだが、彼はどちらかと言えば遠距離タイプだ。近接戦もこなせるが、背が高く筋肉質な影響でアクロバティックな動きは向いていない。『二式・翔駆』と名付けられた空中ジャンプシューズは必要ない。


 よって拳銃のような形の武器を作ってもらうことにした。今まで指で行っていた照準の精度を上げる目的だ。また『装炎』の炎を圧縮する装置も開発する。開発に成功すれば威力の向上も期待できる。


「それにしても、上級職が二人、それもオンリージョブなんて研究し甲斐がありますなー。良かったら解剖させて欲しいっす!」

「上級職?」


 目を怪しく光らせて言った不穏なセリフは無視して、気になった言葉を繰り返す。


「あっ、これ俗称だから探索者には言わない方がいいんだったっす! 研究者をしているとどうにも、分類したくなるもんで」


 なんでも、ジョブ適正A、B、Cに合わせて上級職、中級職、下級職という俗称が付けられているのだそうだ。知り合いだと『アサシン』は中級職と呼ばれ、『吟遊詩人』だと下級職にあたる。ならDは何かと聞くと、最下級職らしい。ショックだ。


「でもちゃんと合理的な理由もあるっすよ。ジョブは特殊な条件を達成するとランクアップすることが確認されているっす。まだ件数が少ないので条件は不明っすけどね」

「へえ、そうなのか」

「そういえば、父がそんなことを言っていたな。ふん、俺もいずれ最上級職になるだろう」


 アギトの口ぶりだと、上級職のさらに上があるのか。

 日下部さんも特に驚いた様子はないので、二人は立場上知っていたのだろうか。


「十式さんは研究者としても優秀なようね」

「おほ!? 照れるっすねー。ただのダンジョンオタクっすよ」


 そうは言うが、彼女の優秀さはこの一時間で身に沁みた。

 頼りになる味方が増えたと言うべきだろう。もちろん、雨夜も学校対抗戦で活躍してくれそうだ。


 後日装備が完成したら連絡すると約束して、解散となった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >日下部は十式が >「そうね。なにか靴のような装備はあるのかしら?」 編集ミスかな?
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