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35/49

35 追及

 そう、あれはまだ夏休みに入る前のことだ。


 ダンジョンマスターであることを日下部さんに知られた俺は、虚子との戦闘があった日の数日後、改めて呼び出された。

 人生初の女の子からの呼び出しが、まさかこんな形になるなんて……。俺は恐怖心でドキドキしながら待ち合わせ場所へ向かった。


「や、やあ」

「さて、色々聞かせてもらいましょうか」


 ひとけのない校舎裏で壁にもたれかかり、真剣な表情で腕を組む日下部さん。

 彼女をダンジョン内で治療した時は、シーちゃんの訴えと早く戻らなければいけないという事情で事なきを得たが、どうやら見逃してくれるわけじゃないらしい。


 日下部さんは制服姿のままで武装もしていないから、戦闘に即突入する雰囲気ではないのが救いだ。それでも、俺が排除の対象だと判断すれば迷わず切り捨てるだろう。なにせ、彼女は公安の捜査官だ。


「えーっと、とりあえずダンジョンに行くか? ここじゃあれだし」

「あら、自分の陣地に引きずり込もうという策略かしら? 外では力が出せないと」

「その通りなんだけど、もう少し好意的に解釈して欲しいかな」


 仕方なく、ぽつりぽつりとダンジョンについて語り始めた。

 探索者志望とし普通に入学し、ダンジョンコアを発見したこと。なりゆきでダンジョンを作成し、ポイントを貯めてレベルアップしたこと。モンスターを創り出したこと。

 また、ダンジョンクリエイトの詳細についても聞かれた。俺は彼女の眼力に押され、ほとんど洗いざらい話した。


「ずいぶん素直に話してくれるのね」

「まあ、日下部さんのことは信用してるからなぁ」


 別に俺だって、誰にでも話すわけではない。

 捜査官という立場でかつダンジョンにただならぬ恨みを持っていそうな日下部さんが、俺の存在を知っても話を聞く態度をとってくれているのだ。問答無用で殺されてもおかしくない状況なのに、である。

 彼女がダンジョンマスターとしてではなく、仲間の一人として対話に臨んでいることの証左だ。ならば俺も、相応の決意をしなければならない。


 さすがに、話すわけにはいかないこともあるけどね。

 例えば、虚子は殺さずに配下になった、とか。後は、ダンジョンは山の中にあることになってる。学校の真下にありますとは言えない。


「それで? ダンジョンを作って何がしたいの? 生徒を全員殺すのが目的かしら」

「まさか。俺がなりたいのは人類の敵じゃなくて、探索者なんだよ。それは今も変わらない」

「モンスターを所持していても?」

「まあ、魔物使いみたいなもんだと思ってくれれば……」


 そんなジョブはない。

 精霊使いや人形使いみたいなジョブはあるので、召喚系のジョブはあるにはあるんだけど。


「簡単には信じられないわね」

「そりゃそうだよな」

「でも信じるわ」

「え?」


 張りつめていた空気が嘘のように霧散した。


「一応、人を見る目はあるつもりよ。それに、もし敵対するつもりなら私を助けたりしなかったでしょうし。それこそ、虚子が殺そうとしたみたいに。ダンジョン内なら隠蔽も簡単でしょう」


 捜査官である日下部さんに、ダンジョンマスターの情報が知られるのは俺にとってあまり良い状況とはいえない。

 それでも彼女を見捨てるという選択肢はなかった。シーちゃんもドラさんも、全力で助けてくれた。


「俺は探索者だからな」

「ではソータは――ダンジョンマスターを倒すダンジョンマスターということね」

「ん?」


 一瞬言われた意味が分からなかった。だがすぐに納得した。

 なるほど。ダンジョンマスターを倒す。それが可能だということは、今回分かった。


 しかし、それは簡単なことではない。


 ジョブに格差があるように、ダンジョンコアの性能にも格差がある。虚子は比較的弱い『蛇系』のダンジョンマスターだった上に、学生相手ということで利益率が低かった。Dランクダンジョンと呼ばれているのは、なにも手加減しているからではない。


 けど、勝てたのは日下部さんのおかげだ。俺が到着するまでの間に、虚子が所有するヘルコブラを、一体を除いてすべて倒していた。

 さらに虚子の油断と戦闘経験の無さもある。ヘルコブラは強敵だったが、シーちゃんに反応していたにも関わらずそれに気づかず、雑な指示を繰り返した。最後は苦手な直接戦闘に挑み、ステータスを生かしきれず隙を晒した。


 様々な幸運が重なった上での勝利だったが、結果としてダンジョンコアの所有権を奪うという形で勝利した。


「ああ、俺はダンジョンマスターを倒す」


 口にしたことで、自分の中で考えがまとまった気がする。

 そうだ、俺にはそれができるんだ。虚子より強いダンジョンマスターは大勢いるだろう。それでも不可能じゃない。


「そう……分かったわ。あなたのことは報告しないであげる」

「助かる」

「虚子のことはきちんと報告させてもらうけど、あなたから聞いた情報は秘密にすると誓うわ。ただし、怪しい動きをしたら私が責任を持ってあなたを殺すから」

「こわ」


 一応、許して貰えたみたいだ。


 俺は探索者になる。そして、他のダンジョンマスターを倒す。

 ダンジョンマスターという立場でしか知りえない情報もたくさんあるだろう。そして、敵のダンジョンコアを支配することもできる。

 俺の目標が定まった瞬間だった。


「ふふ、ごめんなさい。白状するわ。私は、あなたを利用する気でいる」

「利用?」

「ええ、あの男――私から家族を奪った、モンスターを操る男を見つけるために」


 ゾッとするような憎しみの籠った瞳が、俺を射抜いた。俺を通して、その男を見ている気がした。


「モンスターを……ダンジョンマスターなのか?」

「今は、その可能性が高いと睨んでいるわね。少なくともダンジョンに関係していると踏んで、私は公安に入った。私は復讐のために生きているの」


 この子は、こんなに恐ろしい表情をする子だっただろうか。

 クールで冷たい印象を受ける顔立ちではある。だが、口角だけ不自然に上がって目が吊り上がった今の姿は、ひどく醜いものに見えた。


「ねえソータ。額にもう一つの目がある――三つ目の男を見つけたら、私に教えて頂戴。あの男を見つけるためにあなたを利用する。ダンジョンマスターを倒すダンジョンマスターである、ソータを」

「あ、ああ。分かった」


 日下部さんの根源を垣間見たような気がした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 薄情ではなく白状では?
[一言] この話を入れるなら時系列的に演習の話をして、この閑話入れて、もう一人の女の子の話を入れた方が読みやすいと思いました
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