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34 天使VS炎天下

 日下部さんを見てさらに不機嫌になったアギトを引っ張って、演習場にやってきた。


 目的は対人戦の訓練である。なぜなら、夏休み明けには学校対抗戦があるからだ。


 日本には合計五校の迷宮専門高等学校がある。第一から第五までの学校から代表者が集まり、探索者としての腕を競う。

 参加するのは一年生と二年生だけだ。一年生は個人戦のみ。二年生は個人戦と団体戦の両方が行われる。また、研究科の生徒による実績発表大会も併せて開催される予定だ。


 一年生に団体戦がないのは、まだ経験が浅くパーティ行動に慣れていないためだ。パーティを自由に組めるようになるのは二年生からで、パーティも固定なので大会には向いていない。


「何ふてくされてるのよ。あなたも代表でしょう? 構えなさい」

「ふん、分かっている」


 ライバル視している相手に煽られて、アギトが表情を引き締める。

 テニスコートのようにラインが引かれた演習場の一角で、日下部さんとアギトが相対した。


 うちのクラスの代表はこの二人と、『アサシン』というジョブを持った男子生徒だ。俺も出たかったから先生に直談判したけど、拳使いじゃダメだった! 大勢が見てる中で植物をニョキニョキ生やすわけにもいかないしな。

 個人戦のみという特性上、直接戦闘に長けた生徒が選出されている。サポート向けや対多数戦が得意な生徒は来年の団体戦で輝くだろう。


「武装顕現」

「装炎」


 日下部さんが召喚した武器はレイピアとマンゴーシュだ。スピードに優れ対人戦で取り回しやすいレイピアを右手に持ち、大きなガードの付いた短剣を左手に持っている。

 アギトは全身を関節と顔面以外のほとんどの範囲を炎で包み、攻防一体の構えだ。


 レベルが上がったことで日下部さんは武器を二つ同時に出せるようになり、種類が増えた。――だけではない。


「武装顕現――鎧」


 さらなる武装顕現。

 日下部さんの身体が眩い光に包まれ、鎧の形に収束していく。光が収まると、煌びやかな意匠の入った鎧が姿を現した。


 全身鎧ではなく、要所を守る部分鎧だ。胴体と脛当て、籠手が太陽を反射して神々しく輝いている。白と金を基調とした、彼女らしい装備だ。


「行くわよ」


 彼女はまるで舞うように一歩踏み出した。鎧から漏れた光の粉が尾を引く。

 『演武の天使(ミカエル)』によって、まさしく天使の様相を呈している。


 日下部さんは素早い動きで間合いを詰め突きを繰り出した。正確無比の攻撃がアギトを襲う。

 アギトはそれを大きく飛び退くことで回避した。置き土産として、拳大の炎を数発飛ばす。しかしそれは、左手のマンゴーシュに弾かれた。


 接近戦は日下部さんに分がある。だが距離さえ取れば、アギトの間合いだ。

 そして、レベルが上がったのは日下部さんだけではない。


夕雨(ゆうさめ)


 空は雲一つない晴天だというのに、雨が降って来た。

 普通の雨じゃない。一つ一つが数百度の温度を持つ、灼熱の雨だ。


「燃やし尽くせ」


 彼は今まで装炎で生み出した炎を無理やり飛ばしているに過ぎなかった。だが『炎天下』の真価はそんなものではない。

 天下は全て射程圏内である。そう言わんばかりに、無数の炎が空から降り注いだ。


「やるわね」


 炎の雨は、アギトも巻き込んで広範囲を埋め尽くした。しかしアギトに当たる分は全て装炎に吸い込まれていく。

 ついでに俺にも当たりそうなので急いで逃げた。あいつわざとやってんじゃないよな? 植物に炎はダメだって!


「どうなった!?」


 炎の雨が止まり、視界が晴れた時日下部さんは――無傷でレイピアを突きつけていた。あと一ミリでも動かせば、アギトの喉元に突き刺さる。


「私の勝ちね」


 勝ち誇った日下部さんは、静かに武装を解除した。


「……どうやった?」

「撃ち落としたわ。全て」


 事もなげにそう言った。

 おそるべきは『演武の天使(ミカエル)』のステータス補正と彼女の反応速度か。両手に持った剣で、飛来する炎を弾き飛ばしたのだ。


 アギトの攻撃もなかなか凶悪だった。日下部さんの速度を以てしても射程内から逃げきれず、防御するしかない程だ。彼女の鎧はうっすら防護膜を張っており、露出している部分も防御効果がある。それでも撃ち落とさなければならないほど、威力が高かった。


 この二人、本気出した俺より普通に強くね?


「くそッ」


 アギトがスキルを解除し、地面に拳を叩きつける。いつも余裕ぶっている彼には珍しい姿だ。


 日下部さんはそれを一瞥して、無表情のまま踵を返した。

 大丈夫、アギトは強い男だ。慰めはいらない。そういう意思を込めて、俺は強く頷いた。


「そうね、次はソータよ」

「無理っす」


 降参、と両手を上げるが、彼女は有無を言わさぬ笑みで黙殺した。

 この目は、俺のことを警戒してるってことかな?


 ダンジョンマスターであることを明かした時のことを思い出す。


この章はアギトの成長がメインになるかもしれません。

ソータは大会には出ませんが、別のところで活躍します。


次回、若干作中の時間が戻ります。

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