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32 長瀬春里

「そういえば長瀬は、どうして探索者になろうと思ったんだ?」


 俺たち四人は、いつものように『湿地洞窟』の探索を進めていた。


 『炎天下』大門寺(だいもんじ)アギトが後衛。『吟遊詩人』長瀬(ながせ)春里(はるり)がバッファー。

 『演武の天使(ミカエル)日下部(くさかべ)雪華(ゆきか)と俺が前衛だ。


 成り行きで組んだパーティだったが、意外とバランスが良い。特にアギトのレベルアップによって遠距離系のスキルを獲得してからは、攻略速度が目に見えて上がった。


「なんですか? いきなり」

「長瀬からそういう話聞いたことなかったな、と思って」


 アギトは親が有名探索者だし、日下部さんは公安の捜査官として学校に来ている。

 幼馴染と約束したから、という俺の志望動機は以前話していて、散々からかわれた。


「大した理由はないですよ」


 日下部さんがサンドナーガを鮮やかに切り刻むのを見ながら、長瀬が答えた。


「私、中学まで一人ぼっちだったんです。こういう暗い性格で取柄もないですから、友達ができなくて……幸い、酷いイジメとかはなかったですよ? でも、自分に自信が持てなくて。こんな自分を変えたくて、サンメイを受けたんです」


 ありきたりな話ですよね、と自虐的に笑った。長い前髪は相変わらず彼女の目を隠しているけど、寂しそうな目をしていることくらいは分かる。


「まあ結局、あんまり変わらなかったですけどね。吟遊詩人なんて人任せなジョブになって、皆さんについていくだけなんですもん」


 彼女のバフは、俺たちに絶大な強化をもたらしている。スピードアップのおかげで動きの速いサンドナーガ相手でも安全に戦えているし、探索速度も上がっている。さらに笛の音一つで疲労回復も行えるので、パーティに一人は欲しい存在だ。

 でも、長瀬が求めているのはそんな慰めではないのだろう。


「ま、俺よりはすごいから安心しろよ。あんなに上手くフルート吹けるやつ、他に知らないし」

「いや、その……雪華様とアギト様がすごすぎるだけで、ソータ君も普通に強いとは思います、よ?」

「慰めないでくれ……逆に虚しくなってくる」


 拳使いという最弱ジョブの名は伊達じゃない。最近のダンジョン探索では(ニードルナックルを封印しているとはいえ)全然活躍できていない。


 虚子との戦いから二ヶ月ほど経ち、週二回のダンジョン演習によって中層まで歩みを進めていた。


 俺が所有権を得た湿地洞窟だが、管理は引き続き虚子に任せてある。ただし、絶対に人間を殺さないように、と言い含めているので危険はない。

 DPも虚子のコアに入り、一割を俺に渡すこととした。謎の好待遇に虚子は動揺していたが、俺は自分のダンジョンで精一杯なのだ。勝手が分かっている虚子がやった方がいい。


 虚子をそこまで信用できるのか? と思ったが、コアさん曰くダンジョンの所有権とともにマスターである虚子自身も支配したようで、モンスターと同じように命令が可能なのだとか。

 おかげでこのダンジョンは探索者にとって超安全なレベリングスポットになっているのだが、日下部さんにも言ってない。


「長瀬が俺らの中で一番人のことを気遣える子だと思うよ。いつも、場の空気を読んで相手の反応を考えてから話してる。俺やアギトには絶対できないことだな」


 俺と日下部さんが遅れてダンジョンから出た時も、暗い雰囲気にならないように茶化してくれた。アギトはたまに良い事言うけど、基本的に空気を読まず自分の言いたいことをいうだけなので、このパーティの潤滑油は長瀬だ。


「どんだけ私のこと見てるんですか。気持ち悪いです」

「もうちょっと俺のメンタルを慮って発言して欲しかったな!?」

「何言ってるんですか。分かっててやってるんですよ」


 長瀬は裏返った声で弾けるように笑った。俺たちと出会ったことでその笑いを引き出せたなら、俺としては満足だ。


「それとも、ソータ君は私の太ももにしか興味ないですか?」

「ふむ、日下部さんのようなむっちり太ももはもちろん最高だが、長瀬の細い足も……って何で俺が太もも好きなことを!?」

「むしろバレてないと思っていたことに驚きです」


 うへぇ、と嫌悪感を露わにした長瀬が小走りで離れていった。日下部さんの腕にしがみついて、俺から隠れた。日下部さんはそんな長瀬を微笑ましく見ている。


「明日から長ズボンね」

「それは勘弁してくれ!」


長瀬だけ掘り下げが足りない気がしたので、虚子関係の情報開示と共にメイン回

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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的にほお尻から太ももの付け根がですね…あっ
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