03 担任と部屋割
「はいはい、じゃあホームルーム始めるよー」
自分が床に組み伏せられる瞬間を知覚することができなかった。気づいたら腕を掴まれていて、次の瞬間には椅子に座っていた。
早すぎる。これがプロの探索者の力か?
いつの間に教壇に立っていた担任が、間延びした口調で手を叩いた。
俺を目の敵にしていたアギトも、鼻を鳴らして前を向いた。
「さて、君たちはうちの生徒になったわけだけど、ジョブの取得は明日だ。今日はちょっとした顔合わせだからね。午後はほら、荷ほどきとかあるでしょ?」
担任は教壇の椅子に座ってくるくる回っている。なんだか拍子抜けだ。
迷宮攻略科の先生だから、もっとガツガツした武闘派かと思ったのに。なんだか飄々として掴みどころがない。
「てことで解散! また明日ね!」
「え?」
その疑問の声は誰が発したのだろうか。自分でもおかしくない。クラスの気持ちが一つになった瞬間だった。
「もっと何か話すことがあるのでは? まだ先生の名前も聞いてません」
一人の女子生徒が手を上げて、毅然と発言した。
彼女のことは知っている。首席合格で入学式の挨拶をしていた子だ。
「あー、なんか色々言えって言われたけど、別にいいっしょ。どうせ学校に通ってれば分かるし」
「ではせめて名前だけでも」
「ボク? ボクは古屋敷純。C級探索者だよ」
おお、プロの探索者。それもC級!
俺は感動で打ち震えていたけど、生徒たちの反応は芳しくない。
うーん、C級でも十分高いんだけどね。どうせならもっと強い探索者から教わりたかったってことか?
探索者、適正、迷宮難度。それらはA~Eの五段階でランク付けされる。
また、その枠に収まりきらない常識を超えたものに関してはSランクになる。
例えば大門寺カブトさんはSランクだ。Sランクの探索者は日本では二人、世界で見ても五十人を下回る。
探索者は皆Eランクからスタートで、実績を上げることで上がっていくのだが……候補生にすぎない俺たちにはあまり関係ない。
「じゃあ、ボクはさっさと戻って寝るから。君たちは寮に行って、明日ちゃんと登校してくるんだよー。寮のルールは資料を見てね。以上!」
「待って――」
首席の少女が止めようとしたが、古屋敷先生は来た時と同じように、一瞬で姿を消した。動き出した瞬間すら、目で捉えることができなかった。霞が消えるように、その場からいなくなった。
俺たちは仕方なく、言われた通り寮に移動する。
その間、俺に話しかけてくる人はいなかった。俺から話しかけようとしても避けられるから、黙って歩いた。
寮があるのは学校の敷地内ではあるが、十分ほど歩く必要がある。
平地で坂がないのは救いだが、様々な施設が並ぶ道をひたすら歩き続けて、ようやく寮についた。
寮母さんなどはいない。探索者は自己責任が基本だから、自分たちで生活しなければならない。
食料や必需品は揃っているし、必要なものがあれば注文できるらしいから困らないけどね。
「誰と同室になるかなー」
十四名の男子生徒が、ぞろぞろと男子棟に入っていく。残り十名の女子生徒は別の建物だ。また、学年によっても寮は分かれている。
ドキドキしながら壁に張り出された部屋割を覗き込み、俺の名前を探した。
『・
・
・
207号室 唐西颯太 大門寺アギト』
あいつかよ!
アギトを探し出して目線を向けると、鬼の形相で瞠目していた。俺は近づいていって肩を叩くと、笑顔で親指を立てた。
「よろしくな」
「黙れ。弱いやつに価値はない」
「まだわかんないだろ」
「いいや。分かる。……そうだな、お前が早く退学してくれれば一人部屋になるわけか。悪くない」
「絶対退学なんかしねえよ」
俺、こいつと仲良くやっていける自信がありません!
寮生活っていいですよね