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27 所有権

 直接戦闘が苦手な虚子を、ヘルコブラの上から引きずり下ろすのが目的だった。

 ヘルコブラであれば、ガブリッチョに対応してくる可能性があったからだ。現に、空中の虚子を攻撃したにも関わらずヘルコブラは守り切ってみせた。


「コブ君……」


 チャイナ服が捲り上がるのも厭わず、ヘルコブラを撫で続ける。首に剣を当てられていようとお構いなく、だ。

 正直驚いた。モンスターなど使い捨てにしているような雰囲気だったし、実際に何体もの蛇モンスターが死んでいる。だが、このヘルコブラだけは大切にしていた。


 ヘルコブラの方も、いばらの棘で身体が引き裂かれる痛みを耐えて、虚子をかばった。瞬時に無傷で助ける選択肢を消し、盾になるという方法で。

 命令されるがまま動いていたヘルコブラが、己の意思で動いたのだ。


 それを見てしまうと、このまま虚子を殺すのは気が引ける。モンスターとは違い、彼女は人間なのだ。年も取らず、モンスターやダンジョンを生み出すダンジョンマスターを人間じゃないと言ってしまうと、自分の存在すら信じられなくなる。


「虚子、勝負はついた。俺たちをダンジョンから出してくれ」


 殺さない理由はそれだけじゃない。仮に虚子を殺したとしても、日下部さんを湿地洞窟から運び出す時間がない。

 残り十分少々の間に助け出すためには、このダンジョンマスターである虚子の協力が不可欠だ。


「分かってるよ」


 虚子は拗ねたようにそっけなく応えた。

 そして何故かこちらを向いて、太ももをさらけ出した。スリットから覗く白い足に思わず目線が動く。


「ダンジョンコア」


 虚子の足に赤い円が浮かび、波紋が何重にもなって広がっていく。血がにじみ出るように赤い結晶が浮かび上がってきた。ダンジョンコアだ。

 体内から排出されたダンジョンコアはそのまま宙に浮いた。


「ダンジョンの所有権を譲渡する」

『ダンジョンコアを吸収します』


 呆気に取られる俺を他所に、虚子とコアさんが淡々と話を進める。


 虚子のダンジョンコアは、いつか山の中で起きた現象のように輝きを放つと、俺の右手の甲に吸い込まれていった。


「どういうことだ?」

『ダンジョンマスター同士の戦いに勝利した場合、相手のダンジョンを支配する権利が与えられます。今回は特殊なケースですが』

「つまり湿地洞窟も俺のダンジョンになったってことか?」

『はい』


 ダンジョンを支配したのであれば、ダンジョン内転移が使えるはずだ。入口近くに転移することもできるし、俺のダンジョンに直接飛ぶこともできるはずだ。

 ダンジョンまで行ければいくらでも解毒草がある。日下部さんを助けることもできるに違いない。


「知らないで言ってたの? まあどっちにしてもダンジョンコアが助言してたと思うけどー」


 なんか損した、と虚子がぼやく。


 俺は日下部さんに駆け寄って、前髪を指先で払う。うつ伏せになって気絶しているが、辛うじて息はあるようだ。


「早く助けてあげてねー。言っておくけど、血清とかは持ってないから。私には効かないし」

「お前がやったんじゃねえか……。そのヘルコブラも、助かるといいな」

「この子は強いから、絶対大丈夫」


 虚子はぐっと拳を握って、愛おしそうにヘルコブラを見た。


 なぜだろう、虚子やヘルコブラのことなんて気に掛ける必要はなかった。日下部さんをこんな目に合わせた張本人なのだ。死んで然るべき、そう思っても良かった。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。事は一刻を争う。俺はもやもやした気持ちを抱えたまま、日下部さんの手を握った。


「ダンジョン内転移」


 地上のどこにいても、ポイントを消費して自分のダンジョンに転移できるスキルだ。敵ダンジョン内だった時には使用できなかったが、今はもう俺のダンジョン。


 手に触れている対象とともに、俺は地下室に転移した。


「他人のダンジョンを支配すると色々問題もあるからねー。私はしたくなかったんだけど……アハッ、もう関係ないか」


 虚子の不穏なセリフを聞きながら。


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