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26 決着

 もう、迷わない。

 短期決戦で、なるべく早く虚子を倒す!


『ニードルソード』


 ニードルナックルは、いばらを発生させ拳を包み、攻撃力を上げる技だ。俺の『拳使い』という仮のジョブに合わせて、コアさんが咄嗟に発動したものである。

 だが、本来は殴るためのスキルではない。当然だ、俺は拳使いではなく植物系ダンジョンマスターなのだから。


 いばらの剣は俺の腕に根を張っているように、がっちりと絡みついている。刃渡りのおかげでリーチが伸びた。


「日下部さんほどじゃないけど、剣の心得もあるんでな!」


 どんなジョブになってもいいよう、格闘技や武道は一通り嗜んできた。

 俺は右手に固定された剣を自然に構えて、ヘルコブラに接近する。


「いいじゃん、諦めなよ。私の下僕になるんだったら、助けてあげるよ?」

「断る」

「ダンジョンマスター同士、仲良くしようよ。人間なんて所詮、捕食対象でしかないんだよ。利用するか、殺すか。あなたもそうだよ」

「あいにく、俺はダンジョンマスターじゃなくて探索者志望なんだ」


 ヘルコブラはいばらの剣をかいくぐり、俺の足元に滑り込んだ。そしてとぐろを巻いて俺を締め付けようとする。

 剣を避けられたばかりのくずれた体勢では、剣を引くだけの時間はない。ヘルコブラは高速で俺の周囲を回り、長い身体で包囲される。


『ニードルガード』


 俺の全身から棘が飛び出した。


「ストップ!」

「シャ」


びくりと身体を跳ねさせたヘルコブラが、慌てて動きを停止する。


「腕からしか出せないと思ったか?」


 探索者のジョブスキルやダンジョンマスターのスキルは、応用の効くものが多い。

 アギトの炎天下であれば、炎を纏うだけの『装炎』を弾丸のように射出したり、身体から切り離してある程度操作できたりする。

 ゲームのように頻繁にレベルが上がってスキルが沢山増えていくわけではなく、少ないスキルをどう活用するかが探索者に求められる能力だ。


 ダンジョンマスターレベル3のスキル『スティングソーン』も、装炎と同じような性質を持つ。

そして、身体から生やすだけに留まらない。


「アハッ、やるじゃん。でも離れれば――」

「逃がさねぇよ」


 虚子は俺の言葉に首を傾げた。だがすぐに、辺りを見渡してはっとした。

 俺たちを取り囲むように、広間をぎっしりといばらを生やしたのだ。日下部さんは棘のない部分で囲み、守る。


 親指を立ててドヤ顔をしているシーちゃんと目が合った。


「いつのまに!?」

「気づかれないようにちょっとずつな」


 これで機動力はだいぶ削いだ。


 完成前に気づかれては元も子もないから、シーちゃんが巻いた種を操作して外周から少しずついばらを生やしたのだ。そして、ヘルコブラが俺に集中した隙を狙って、一気に取り囲んだ。


「な、なんて狡猾な!」

「蛇使いさんには言われたくねえよ。これでもヘルコブラはちゃんと気づいてたみたいだぜ?」


 その証拠に、ヘルコブラが通った跡や今いる場所には、いばらを生やすことはできなかった。シーちゃんの動きを阻止されたり、撒いた種を除去されたためだ。

 それでも、遠くから伸ばしたいばらがヘルコブラの行動を抑制している。少しでも動けば鋭い棘が身体に突き刺さるだろう。


 シーちゃんの存在に気が付きながら排除の行動を取れなかったのは、虚子が常に指示を出していたからだ。意思の疎通が苦手なのか、はなからヘルコブラの意見など聞いていないのか、虚子は常にヘルコブラの頭の上にいて事細かく指揮していた。


 それが裏目に出たことを悟り、彼女は小さく下唇を噛んだ。


「もういい。私が戦う」

「戦えるのか?」

「アハッ、レベル6を舐めちゃだめだよ!」


 虚子はスキルで作り出したと思われる赤い棍を取り出し、ヘルコブラの頭から飛び降りた。如意棒のようなそれは、細身の虚子から繰り出されたとは思えない速度で大きくしなった。上段から叩きつけてくる。


降りたな(・・・・)?」


 ――モンスター収納。


「来い、ガブリッチョ」

「ガブ」


 召喚は一瞬で良い。

 俺の腕を支点にして飛び出したレッサーヴァインのガブリッチョが、空中で瞠目する虚子を食らいつかんと口を開いた。

 終わりだ。棍の重量に任せて叩き潰すつもりだったのだろうが、遠心力に振り回されて空中で隙を見せた状態では、ガブリッチョの攻撃を避けられない。


 もしヘルコブラが俺やガブリッチョを攻撃してきたとしても、ガブリッチョが虚子に噛みつく方が早い。それに、ヘルコブラはいばらに囲まれ身動きはとれない。


 虚子はなんとか対応しようと棍から手を離した。


「シャ」


 しかし動いたのは虚子ではなく、ヘルコブラだった。

 ヘルコブラは指示もないのに虚子とガブリッチョの間に割り込んだ。


「え?」


 虚子が口をぽかんと開いて、ヘルコブラの動きを目で追う。


 地面に立つのは、もはや俺だけだ。

 空中にいる虚子と俺を結ぶように、ガブリッチョとヘルコブラが一直線になった。だれ一人、今更動きを止めることはできない。


「コブ君!」


 俺の前で初めて呼んだ、ヘルコブラの愛称。

 呼ばれたヘルコブラは大きくジャンプし、虚子の盾になるように身体を寄せた。いばらを無理やり抜けてきたのか、棘がたくさん刺さり血を流している。


「お前――」


 俺が何か言う前に、格上のモンスターでさえ食らいつくすガブリッチョの大顎が、ヘルコブラに噛みついた。


「シャァアアアア」


 ヘルコブラは絶叫して倒れ伏した。さすがのガブリッチョでも三倍以上の体積を持つヘルコブラを丸のみすることはできない。ヘルコブラの腹部にはえぐり取られたような大穴が開き、中身が見えていた。


「や、やだ。コブ君……」


 虚子は無事だった。

 ヘルコブラがクッションになり、安全に降り立った虚子は手を震わせてしゃがみ込んだ。うわ言のように呟きながら、ヘルコブラに抱き着く。


 俺はいばらの剣を虚子の首筋に当てて、傍らにガブリッチョを下ろした。


「終わりだ」


初めてのボス戦でした!

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