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24 攻略法

「日下部さん、おい、大丈夫か!?」

「え、ええ。余裕よ。ちょっと疲れただけ」


 強がる日下部さんは顔面蒼白で、苦しそうに眉を寄せている。

 俺はゆっくりと地面に寝かせ、前に立ちふさがった。


「虚子ぉおおおおおおお」


 状況を呑み込んですぐ、ニードルナックルを纏って虚子に突っ込んだ。

 だが俺の速度では彼女の乗るヘルコブラについていけない。蛇特有の身を捩って地を這う動きで容易く回避され、お返しとばかりに尾で弾かれた。


「そんなに怒らないでよー。これはゲームなんだからさ」


 落ち着け、逆上しても良い事はない!

 そう思うのだが、怒りが沸々をこみ上げてくる。


「ソータ、やめて! あなたじゃ勝てない」

「そこで待っとけ。俺が助ける」


 うつ伏せに倒れる日下部さんは必死に立ち上がろうとするが、力が入らないようだ。

 演武の天使(ミカエル)のスキルで召喚したと思われる長剣は、形を維持できずに消えた。


「アハッ、結構頑張ってたよ!? 私の大事なヘルコブラ、結構倒されちゃった」

「そうか」

「でも、残念。助けられなかったね?」

「助けるさ」


 勝てるか? いや、絶対勝つ。

 俺の目標は探索者になること。そして、幼馴染との約束を果たすこと。

 ここで仲間一人助けられないようじゃ、探索者になれない。あいつに合わせる顔がない!


『サポートします』

 頼む。


 俺の持つ手札はニードルナックルによる攻撃と、ガブリッチョ。そしてシーちゃん。

 こんなことならレッサーヴァインやレベル3モンスターをもっと召喚しておくべきだったが、後の祭りだ。今あるカードで何とかするしかない。


 俺はステータスをフルに使って、ヘルコブラの前に躍り出た。虚子は常にヘルコブラの頭の上に座っているから、将を射るならまず馬からだ。

 だが、もっとも厄介なのはヘルコブラの方だ。どれだけ早く動いても、確実に対応してくる。


「ダメダメだよ。この子は特別なんだから。召喚したばっかりのヘルコブラは公安の子にやられちゃったけどー、この子には手も足も出なかったよ」


 ヘルコブラの身体には傷一つない。余裕綽々といった様子で俺を見ている。


「ニードルナックル!」


 俺の右拳をいばらが包み込む。外側だけに伸びた棘が鋭く尖り、攻撃力を増加させた。


 攻めてこないならこちらから行く。正面から攻撃して避けられるなら、回り込むのみだ。


「無理だってばー」

「くそっ」


 入学前では実現できなかったような、瞬間移動に等しい動きで翻弄しても、ヘルコブラはしっかりと対応してくる。頭に虚子を乗せているからなのか、尾でのカウンターがメインだ。


「ほらほら、当たらないよー」


 完全に舐められてるな。だが、ステータス差は圧倒的だ。ヘルコブラ一体に対して、攻撃を当てることができない。


『ヘルコブラの動きから分析すると、虚子のレベルはおそらく6前後でしょう』

 そんなもんなのか?

『レベル5から先はなかなか上がりませんので。それに、学生相手ではDPの効率も悪いのでしょう』


 なるほど。あまり殺しては授業で使われなくなるし、探索者としてのレベルも低いから強いスキルも使えない。定期的に先生による掃討が行われたり、モンスターを召喚するDPと得られるDPのバランスがとれなそうだ。利益が低ければ、時間を掛けても蓄積は少ない。


『それでもマスターより圧倒的に格上です。何か注意を引ける戦術を。ガブリッチョなら、ヘルコブラに対してもダメージを期待できます』

 分かっている。


 コアさんがガブリッチョ呼びしているの面白いな。

 信頼できる相棒からの太鼓判もあり、ガブリッチョを中心に作戦を組むことにする。


 正面から殴るフリをして、地面を蹴って横に跳びこんだ。それでも的確に振るわれる太い尾をジャンプして躱す。それに合わせて、密かにモンスター収納を発動しシーちゃんを召喚した。


 収納中のモンスターともある程度はコミュニケーションを取ることができる。俺に指示通り、シーちゃんは姿を消した状態で召喚に応じた。俺にだけ姿を見せて、こくりと頷く。


(頼むぞ)

(任せてよ!)


 ヘルコブラならシーちゃんを探知できるか?

 幸い虚子は気づいていない。


「早く逃げて……入学前からレベルを上げている私でも勝てなかったのよ?」

「そうだったのか。でも俺なら大丈夫だ」


 ジョブの取得は専門学校に入学するか探索者試験に合格しないとできない法律だが、抜け穴があるのだろう。


「私はもう間に合わないから。古屋敷先生に……いえ、できれば公安の大門寺ヒトミさんに報告を」

「大門寺……? そんなことより、間に合わないってどういうことだ?」


 日下部さんは、顔をうっすら上げて目を細めた。苦し気に呻きながらも、無理やり口角を上げる。


「アハッ、良い事教えてあげる」

「なんだよ」

「その子――あと二十分で死ぬよ。ヘルコブラの毒で」


 それは、死の宣告だった。


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