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22 ガブリッチョ

「ニードルナックル!」


 探索者スーツの袖からツタが伸びてきて、俺の拳を包み込む。表面はいばらのように無数の棘が生えていて、攻防一体のスキルだ。

 長瀬を襲っていた先輩のナイフを防いだ、ダンジョンマスターのスキル。あの時はコアさんが状況を察して発動してくれた。


 小手調べとばかりに飛び出してきた浮き蛇を殴り倒す。さすがは長年ダンジョンマスターをやっているだけあって、数が多い。そして、どのモンスターも蛇のような姿をしている。


「レベル3になってステータスが上がったとはいえ、どこまでやれるか……」


 レベルアップによって追加された要素はいくつかあり、その一つがスキルだ。ダンジョンマスターはそれぞれの性質に応じたスキルを使うことができる。ジョブと近いシステムだ。


 俺であれば植物系。虚子であれば爬虫類……いや、蛇しかいないところを見るに、蛇系なのか?


『敵の数、残り三十八体』

「コアさん優秀!」


 こうしている間も、虚子は日下部さんと戦っているだろうか。彼女が簡単にやられるとは思えないが、虚子はおそらく高レベルのダンジョンマスターだ。それに数の差が圧倒的すぎる。


 このダンジョン内において、モンスターの供給は実質無限だと思っていい。ポイントが尽きるまで、召喚し続けることができる。


「俺もモンスターを出すしかないか」


 ダンジョンクリエイトは自分のダンジョン内にいないとできない。それは、モンスターや設置物の召喚も同様だ。

 だが、外にいてもできる行動はある。それは、レベルアップとダンジョン内転移ともう一つ。新しく追加された『特殊メニュー』。


「モンスター収納――来い、ガブリッチョ」

 合計五体まで、自分のモンスターを収納して運搬できる。そして、そのモンスターはどこにいても即座に召喚できる。

 俺はレッサーヴァイン――薬草を食べてすくすくと大きくなった食虫植物のようなモンスターであるガブリッチョを召喚した。


「蛇肉は好きか?」

「ガブガブ」


 ガブリッチョは通路の中心に根を下ろすと、嬉しそうによだれを垂らした。

 レッサーヴァインはレベル1で召喚できる低ランクのモンスターだ。蛇モンスターで考えれば、浮き蛇と同等。


 だが、俺を殺そうと通路を這ってくる蛇たちを、次々を喰らいつくした。


 壁や地面を這いまわり、狭い通路を覆いつくすことで俺を追い詰めるはずだった蛇たちは、ガブリッチョによって消化されていく。俺を丸のみできるほど大きな口で、次々と噛みつき、砕き、呑み込んだ。


『レッサーヴァインは移動できないというデメリットを持つ分、射程内への攻撃性能は高めです』

「みたいだな。通路が狭くて良かったよ」


 相手が遠距離攻撃を可能とする者の場合、ガブリッチョは手も足も出ないだろう。手も足もないけど。


 だが移動能力もなければ戦略性もない、ただ噛みつくということに特化したガブリッチョは、射程内において無類の強さを発揮する。


 さすがにヘルコブラのような大型かつ素早い蛇を相手にすることはできないが、小さな蛇たちであれば、優勢だ。


『植物系は対象範囲が広く、それぞれ特化した能力を持っています』

「シードフェアリーが戦闘能力を一切持たない代わりにサポート特化しているみたいに?」

『はい。蛇系は対象範囲が狭い上、汎用性の高いモンスターを得意とするようですね』


 次々と仲間がやられても、蛇モンスターたちは怯まずに突撃してくる。

 ほとんどをガブリッチョが平らげ、間を縫って抜けてきたモンスターを、俺がニードルナックルで倒した。

 無限に食べているように見えるが、モンスターは死亡した場合消滅する。


 見える範囲だと、浮き蛇以外には二種類。壁に張り付く小さな紫色の蛇と、地面を高速で動く茶色い蛇だ。

 たしか『ヴェノムスネーク』と『サンドナーガ』。浮き蛇より強い二種類の蛇によって、通路を完全に塞ぎ俺を通さない陣形を取っている。


 だが量産されただけのモンスターと違い、ガブリッチョはシーちゃんによって大切に育てられてるからな。増やした薬草なんて、ほとんどこいつに食べられてるし。


 蔓を腕のように広げて進路を制限し、歯の役割を果たす棘で噛みつき、上を向いて飲み込む。


『残り三体です』

「おし、この調子なら……どうした?」

「ガブ……」


  ガブリッチョの様子がおかしい。動きが鈍くなって、しおれたように地面に伏せた。その隙をついて、一匹のサンドナーガが顎を広げて迫った。


「ニードルナックルッ!」


 俺は拳を振りかぶりながら前に出て、サンドナーガの横っ面を殴りつけた。

 残りの三体も急いで処理して、ガブリッチョの前に膝を付けてしゃがむ。ダンジョンマスターは自分のモンスターの状態を確認することができる。手をガブリッチョの頭にかざして、集中する。


「毒か――!」


 ヴェノムスネークの特徴は、強力な毒だ。飲み込むときに噛みつかれたのだろうか。ガブリッチョの身体には毒が回り、虫の息だった。


「大丈夫だ、たしか解毒草が……」


 俺はポーチを漁って、レベル3で作れるようになりさっそくシーちゃんが増やし始めた解毒草を取り出し、ガブリッチョに食べさせる。

 普段から薬草を喰らいその生命力を吸収するガブリッチョは、『食べる』という行為に特殊な効果を発揮する。解毒草を食べれば元々の効能以上に、毒を消し去ってくれるはずだ。


 みるみるうちに元気になったガブリッチョを見て、俺は安堵の息を吐いた。

 ガブリッチョを再び収納し、立ち上がる。


 先を急ごう。


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