表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/49

18 初めてのダンジョン探索

「おっしゃぁあああ、夢にまで見たダンジョンだ!」


 俺は湿地洞窟の入口で、喜びに打ち震える。自分のダンジョンはノーカンで、初めてのダンジョンアタックだ。

 まだ探索者になったわけじゃないけど、小さい頃から夢見ていたダンジョンである。


 適正Dのくせに探索者志望かと嘲笑った先生や友達、悪いことは言わないからやめとけと言った親父、あなたの好きなようにしなさいと言ってくれた母さん。

 見たか! 俺はついにここまで来たぞ!


「ふ、ふん。俺にとっては通過点の一つに過ぎぬ」

「やかましいわね」

「雪華様、私は三人で行きたいです」


 嫌味っぽいけどただのツンデレなアギトと、シンプルに冷たい日下部さん。しかし三人の中で一番精神的ダメージを与えてくるのが長瀬だ。悪意のないふとした一言が効くのだよ。


 三人が俺を置いていこうとしたので、慌てて追いかける。


 ダンジョン実習は四人ごとのパーティに別れて行動する。

 湿地洞窟は中でいくつも道が分岐しているから、実習に持ってこいなのだ。あらかじめ指定された道を進み、マップに記された特定のポイントまで着いたら引き返す。初回だから、まずはお試し程度だ。


 序盤はそれほど危険な魔物も存在しない。『浮き蛇』という名前の通りぷかぷか浮かぶ蛇モンスターがいるくらいだ。毒もなく、浮いているせいで動きが遅いので新入生であっても負けることはまずない。


「なあ、大丈夫だと思うか?」


 俺は日下部さんにそっと声を掛ける。

 先生による調査が入ったとはいえ、ダンジョンマスターたる虚子はダンジョン内を好きに移動できるのだ。それに、モンスターの召喚だって思うがまま。


 先日は俺に挨拶をしに来ただけだとしても、敵対しない保証はない。


 そこまでの事情を知らない日下部さんだが、なんとなく頼りにしたくなる。


「さあね」

「さあねって」

「私としては襲ってきてくれた方が好都合よ。次会った時は、必ず息の根を止めるわ」

「物騒だな」

「もしあの女が言った通りダンジョンマスターという存在がいるなら、絶対許せない。私、ダンジョン嫌いだから」


 彼女の瞳は据わっていて、冗談で言っているわけではないようだ。

 あれ、俺もバレたら息の根止められちゃうのでは?


 これが殺気というやつか。彼女の纏う気温が二度くらい下がった気がする。それ以上詮索するのは気が引けた。


 洞窟の中はジメジメしていて、薄暗い。湿地洞窟の名前通りで、ヘッドライトがなければまともに活動することすらできないだろう。ひんやりとした空気が肌を刺す。


 通路の広さは様々で、四人並べる場所もあれば小さくかがんでようやく通れる道もあった。たまに広間のような開けた場所があって、そういった場所では迷宮資源が採取できる可能性が高い。



「アギト様! さすが明るいです!」

「そうだろう」

「どや顔しているところ悪いけど、お前は照明扱いで満足なの?」


 猛暑扱いよりはマシ……かもしれない。

 炎天下によって燃え盛る彼の頭は、見事に洞窟内を照らしていた。


「長瀬はどうしてアギトのことを様づけで呼ぶんだ?」

「嫉妬ですか?」

「違うわ」

「アギト様は王子様みたいにキラキラしてて、カッコイイからです! クラスの子はみんなアギト様って呼んでますよ。ミステリアスでカッコイイですよねぇ」


 イケメンずるい。

 アギトの方をちらりと見ると、気にせず周囲を警戒していた。照れ隠しではなく、本当に何も感じていないようだ。言われ慣れてるってことかい。自分の炎に焼かれてハゲろ。


「ソータ君こそ、なんで雪華様のことは日下部さんで、私は呼び捨てなんでしょうか」

「日下部さんってお姉さん感というか、(太ももの)女神っていうか」

「あ、わかります! 本当は雪華お姉様って呼びたいくらいなんですよ。今朝も起きたら私の分のトーストを用意してくれてて」


 長瀬はコロコロ表情を変えるので、見ていて面白い。内気な性格だけど、自分の好きなものについて話す時はとても明るくて、鈴を転がすように笑う子だ。


「あら、雪ちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」

「「えっ」」


 先導していた日下部さんが髪を払いながら振り返って、悪戯っぽく笑った。

 俺と長瀬は雑談をぴたりと止め、ぽかんとする。


 思わず足を止めた俺たちを見て、日下部さんがはっとした。彼女の顔がみるみるうちに赤くなっていく。肌が真っ白だから、分かりやすい。


「……冗談よ」


 言い捨てて、足早に歩きだした。


 これは冗談下手なタイプだーーー!

 びっくりしたよ。突然デレたのか本気で言っているのか、はたまた冗談なのか、判別付かない時は思考が止まって反応できないんだよな。


 照れてるところは可愛かったけど!


 あまり状況を理解していないアギトが、空気を読まず口を開いた。


「ごほん。ゆ、雪ちゃん、行くぞ」

「やめてちょうだい。ほんとに、お願いだから」

「へーい、雪ちゃん、良い太ももだねぇ!」

「雪ちゃん様、可愛いです」

「ハルリは良いけどソータは殺すわ」

「なにゆえ!?」


 日下部さんの機嫌を犠牲に、初のダンジョン探索は良い雰囲気でスタートした。


四人の雰囲気好き!って方は評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >「ごほん。ゆ、雪ちゃん、行くぞ」 太ももちゃんの名前、ルビが無いから無難に 雪華(せっか)と読んでたのだが、実は違う?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ