17 パーティ結成
「あの、原西君」
「唐西です」
「あっ」
次の日、登校すると長瀬春里が真っ先に話しかけてきた。
長瀬は背が低く、座っていても目線が合う。ショートカットなのに前髪が中途半端に長くて、目が半分隠れている。可愛いのにもったいない。
昨日は先輩が先生に連行された後、緊張が解けたのか日下部さんに抱き着いて泣き崩れちゃったから、話せなかったんだよな。俺の胸も空いてたよ?
まあ日下部さんの登場カッコよかったもんね。アギトもめちゃくちゃ良いタイミングで来たもんね。
「昨日はありがとうございました。唐西君が来てくれて本当に助かりました」
「どういたしまして。クラスメイトなんだから、敬語じゃなくていいよ。あと、颯太って呼んで」
これ以上名前間違えられたらくじけそうなので。
「敬語は癖みたいなものなので……ソータ君」
彼女が少し頬を染めて、恥ずかしそうにそう言った。まいったな、惚れられちゃったか?
「おいソータ、今日のダンジョンだが」
「きゃっ、アギト様! あの、昨日は私なんかを助けていただいて!」
気のせいでした!!
あっぶねー、勘違いをぶちかますところだった。
いいもん、俺にはシーちゃんがいるからね。昨日も俺の腕を薬草でぐるぐる巻きにして、怪我を直してくれたし。
さすがはダンジョン産アイテムの効能というべきか、ナイフによって斬られた腕の傷はしっかり塞がった。今では痛くも痒くもない。
「私が連れて行ったせいだ」とシーちゃんが責任を感じて落ち込んでいたけれど、むしろ彼女のおかげで長瀬を助けられたのだから感謝しかない。
先輩の不正に加担させられるばかりか、あのままでは彼女の身も危なかった。あまり接点がなかったとはいえ、身近な人すら助けられないようでは、俺の目指す探索者にはなれない。
「助けたのは俺ではない」
アギトはぶっきらぼうにそう言って、席についた。
こいつ、俺以外に目を見て会話できる相手いないのか? 寂しい奴……。
「おい、なんだその目は」
「なんでも」
長瀬がぺこりと頭を下げて戻っていった。
最後に「本当に感謝してます」と耳打ちしていったけど、俺は勘違いしないよ!
今日はついにダンジョン実習の日だ。
学校周辺にあるDランクダンジョン『湿地洞窟』の浅層で行う。
先日深層にしか出現しないはずのヘルコブラが出現したばかりなので不安が残るが、先生による調査で実習に問題はないとのことだった。
全員探索者スーツに着替えて、ダンジョン前に移動する。
山を中腹まで登ったところにある『湿地洞窟』は、山肌に空いた大きな穴が入口だ。本来であればダンジョンらしい荘厳な入口なのだが、授業用にバリケードやら受付やらが設置されていて、雰囲気ぶち壊しである。
ダンジョンマスターである虚子は、授業で定期的に生徒が来てくれるのは嬉しいことだから放置しているのだろう。既に十年以上はダンジョンを構えているはずだから、ポイントも相応に稼いでいるに違いない。
「じゃあパーティ分けするよー。寮のペアは固定で、二つにペアを合わせて四人パーティ作ってねー」
こ、これは……!
魔の「好きな人と組んでね」って奴じゃないか。自慢じゃないが、劣等生の俺と友達いないアギトのコンビとか、組んでくれる人いるのか?
男子十四人、女子十人いるから、十二パーティできることになる。
「あー、すまんな。俺もう決まってるんだわ」
寮生活で仲良くなった男友達に声を掛けるも、あえなく断られる。薄情だが、ここで組んだパーティは基本的にしばらく継続する。成績にも影響するから相性や実力を考えてパーティを組むのも探索者に求められる能力だ。
「ふっ、俺一人でも十分なんだがな」
「そういうとこだぞ」
みんな! アギトはこう見えて可愛い奴なんだぞ!
まあ避けられている原因は俺の気もするけど。拳使いなんて、逆の立場なら誘わない。
「ソータ、私と組むわよ」
「太ももの女神!?」
日下部さん!?
うっかり心の声と逆になってしまったせいで彼女の目から感情が失われた。
「俺でいいのか?」
「なるほど、俺たちが組めば最強のパーティになるだろう。貴様と競えないのは残念だがな」
「あら、大門寺君はソータと同室だったのね」
アギトの心にクリティカルヒット!
一方的にライバル視していたことが判明し、癒えない傷を負った!
「ほら、例の件があるでしょう? 事情が分かってるソータが一緒の方が動きやすいわ」
「ああ、そういうことならぜひ宜しく頼む」
「ええ。それにハルリもあなたと組みたいって言っていたし」
日下部さんは公安迷宮庁の捜査官だ。それに、虚子の件を知っているのは俺だけだ。たしかに、一緒に行動するのは合理的な気がする。
俺にとってはダンジョンマスターであることがバレる可能性が増えるわけだから、好ましいとは言えない。
「長瀬が?」
「ええ。ほら、ハルリ」
日下部さんに促されて、彼女の背に隠れていた長瀬が顔を出す。指先でちょこんと日下部さんの袖を摘まんでいる。
「ソータ君なら信用できます」
「オッケー。アギトと組みたいんだな。よろしくな」
名前を間違えずに呼んでくれたことに感激しながら握手を求めたらパチンと弾かれた。なぜだ。
ようやく本題に入れます。今後ともよろしくお願いいたします。
感想で皆さまの嗜好を募集しております。胸派、尻派、うなじ派とバリエーション豊かなご意見をいただき、派閥戦争の開幕まで秒読みとなってきました(白目)
全部好きに決まってんだろ!って方は↓から評価お願いします!