14 シードフェアリー
学校生活にもだんだんと慣れ、気づけば一週間が経っていた。
日下部さんも虚子の方もあれから動きはなく、順当に過ごしている。
授業はダンジョンの基礎知識やスキルの使い方を学ぶ段階なので、まだダンジョンには潜っていない。
俺は『拳使い』という殴るだけのジョブなので、誤魔化すの簡単だった! コアさんまじ有能。
「おっしゃ、ポイント溜まったな!」
俺はダンジョンの地下一階に作った部屋で、思い切り叫んだ。
毎回職業管理室へ通っていては、日下部さんでなくても疑問に思うだろう。さすがに目立つので、俺は地下室を作ることにしたのだ。
塔のように上に伸ばすか、地下に掘り下げるかを選ぶことができるのだが、俺は当然地下を選んだ。階層追加の200ptは痛い出費だが、必要経費だ。
ダンジョン内転移(50pt)を使うことで、自分のダンジョン内に限りどこからでも転移できる。それを使って、怪しまれずダンジョンに通うことができるのだ。
改築などはダンジョン内にいないとできないため、地下室は絶対に必要だった。
水道管や下水道などが通っているはずだが、特に阻害した様子はない。別空間なのか?
「ソータ、何が溜まったの?」
「演習場までダンジョンを広げるためのポイントだよ」
「おお~。早かったね」
「迷宮資源室で思ったよりスキルが使われたおかげだな。研究科のやつらが動作確認のために使うのかも」
蝶のようにひらひら飛んで俺の肩に乗ったのは、シードフェアリーのシーちゃん。
せっかく増築したのだからダンジョンらしくしようと、モンスターも配置したのだ。
レッサーヴァインは食虫植物の大きいやつだ。配管工のゲームに出てくるあいつのように、移動することはできないが近づく生物に噛みつく。
シードフェアリーは手のひらサイズの女の子だ。半透明のトンボの羽が背中に生えている。短い薄緑色のワンピースを最初から着ていた。
「ナイス太もも」
「大変、私ソータから性的な目で見られてる! きっとマスターの権限を使ってあんなことやこんなことを……」
「しねえよ」
手のひらサイズのお人形に興奮する趣味はない。可愛いけど。
シーちゃんは戦闘能力がない代わりに、薬草や毒草の栽培をすることができる。
あと話し相手になる。これが結構大きい。
『何か疑問があればなんなりとお尋ねください、マスター』
「お前、意思ないんじゃなかったの」
お? 俺がシーちゃんとばかり話すから嫉妬してんのか?
「ソータ、薬草結構増えたよ」
「よくやった」
「でも全部ガブリッチョに食べられちゃった~」
「レッサーヴァインにそんな名前ついてたの!?」
興味本位で召喚したレッサーヴァインだが、現状入口を開く予定はないので放置している。
俺やシーちゃんには攻撃してこないので、無害な観葉植物状態である。ただ、薬草をめっちゃ食べる。安いとはいえポイントを消費するので、シーちゃんに栽培してもらっているのだ。
薬草から作られるポーションは効果が強すぎるため一般人には流通していないが、探索者の間では必需品だ。この薬草全部売ったらいくらになるかなーと皮算用する。
しかし、怪しまれるような行動は避けなければならない。
「ガブリッチョかわいーでしょ?」
「いや、どっちかといえば恐怖を覚える見た目だけどな……」
俺がそう言うと、ガブリッチョがしおれて地面にうずくまった。
「うそうそ、可愛いよ」
ピン! と立ち上がって大きく口を開けた。そして愛情表現のつもりなのか、俺の頭に噛り付く。甘噛みだから痛くはないけど、よだれ(というか溶解液)でべっとりだ。勘弁してくれ。
「おお~、ソータとガブリッチョ仲いいね~」
「……とりあえず階層拡張するか。演習場まで行ければポイント取り放題だしな」
この一週間で実に2000pt以上も稼ぐことができた。初日はともかく、職業管理室でスキルを使う用事はそんなにないだろうから、迷宮資源室のおかげだろう。
100ptあたり建物一つ分程度しか広げられないから、演習場まで600pt必要だった。
最初の見込みより多い上に、ダンジョン内転移や階層追加、モンスターや薬草の配置などで出費が嵩んだから今日まで掛かってしまった。
「シードフェアリーも増やすか?」
「え!? いいい、いらないよ!」
「そうか? 仲間が多い方が楽しいし、楽だろ」
「ううん、私一人で十分だよ! だって増やしたらソータを独り占め、じゃなくて、ソータが大変でしょ?」
「うん? まあシーちゃんがそう言うならまだいっか」
ぱたぱたと飛び回っていたシーちゃんが、安堵した様子で俺の頭の上に座った。
「コア、階層拡張だ」
『かしこまりました。範囲を選択してください』
周辺の地図が現れる。
学校の敷地がどんどんダンジョン化していくのは、侵略しているみたいで面白い。
結構広がったけど、全体で見るとほんの一部だ。山以外にも校舎や闘技場、研究施設や上級生用の演習場など、まだまだ目的地はある。
「まあ、一先ずの目標達成ってことで」
演習場をしっかりダンジョンに収めた。次の目標はレベルアップだ!