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12 襲撃

 ヘルコブラは唸り声をあげて日下部さんを迎え撃つ。


「ユヌ」


 レイピアとは、刺突に特化した武器である。

 古くは決闘用として用いられたものであり、質量で叩き斬ることを目的とした剣とは大きく趣が異なる。

 局所を狙いうち、スピードと手数で敵を圧倒するのだ。


 細く軽い刃が空中を斬る時、ピュンという笛のような高い音がする。


「キシャァアア」

「ドゥ」


 切っ先がヘルコブラの身体に突き刺さり、血が噴き出た。モンスターらしく、緑色の気色悪い血だ。


 カウンターとして飛来した牙は、軽くバックステップすることで回避した。

 半身になって片手で構えるレイピアは、前後の動きがとても早い。ヒットアンドアウェイに適した構えだ。


「すげぇ」

「トロワ」


 初めて見るモンスターに、俺は動くことができなかった。

 だが日下部さんは表情を変えずに対応して見せた。


 俺とアギトの戦闘など、比較にならない。

 正真正銘、命を懸けた戦いだ。動きのキレも数段上で、レベルアップしたはずの俺よりもステータスが高いように思えた。


「大したことないわね」


 目にも止まらぬ速さで煌めいた銀色の刃は、ヘルコブラに数十か所の風穴を開けた。ヘルコブラは声にならない息を吐きだして、倒れこんだ。


 全てのモンスターに共通することだが、殺されても死体を残さない。流した血の一滴まで綺麗に灰になり、日下部さんに吸い込まれていった。


「アハッ。倒されちゃった」

「なんだ!?」


 安心したのも束の間。レイピアを降ろした日下部さんの前に現れたのは、一人の少女だ。

 チャイナ服に身を包み、倒したものとは別のヘルコブラの背に乗っている。


 入って来たことにも気が付かなかった。だいたい、ここは学生証がなければ扉が開かない、職業管理室の中だ。さっきの蛇といい、どうやって入って来たんだ?


「誰かしら? 返答次第では殺すわ」

「うへぇ。怖い怖い。私はただ挨拶に来ただけなのにね」

「挨拶? そう。朝から感じていた妙な雰囲気はあなただったの」


 歴戦の探索者のような研ぎ澄まされた空気が、彼女を覆う。

 膝をわずかに曲げ、剣先を上げる。切っ先が狙いを定めるのは、少女の心臓だ。


「はっ」


 半身の状態で前進する時、右足を浮かせたと同時に、左足で地面を強く蹴る。そして股を大きく開いて、左足を残した状態で長いリーチを実現するのだ。

 レイピアは少女に到達するかと思われた。


「ダメだよ。実力差はきちんと見極めないと」

「っ!?」


 だが少女が乗っているヘルコブラが身を捩り、レイピアを回避する。レイピアの下をかいくぐるように接近した。レイピアの欠点は切っ先以外に攻撃力を持たないこと。日下部さんはすぐに右足を戻して、後退する。


「さっきのヘルコブラとは違うようね」

「この子は私の一番のお気に入りだからね。プロでもない、ただの候補生じゃ勝てないよ」

「どうかしら? 私を公安迷宮庁の捜査官だと知った上で挨拶に来たのでしょう?」

「え、そうなの?」

「え?」


 公安迷宮庁。

 とても素人の戦いには見えなかったが、やっぱり一般人じゃなかった。ダンジョンや探索者に関連する調査を行う機関の捜査官が、なぜ普通に入学してきたんだ?

 ていうか、一番バレたらまずい相手に疑われたようだ。


「私は同じダンジョンマスターとして、新しい同志に挨拶に来ただけだよ」

「ダンジョンマスター?」

「そう。私は虚子(うろこ)。この子たちのマスター」


 まずいまずいまずい。

 つまり、この少女の目的は俺と言うことか?


 俺と同じダンジョンマスター。おそらく『湿地洞窟』のダンジョンだ。系統は爬虫類系。


 とにかく、日下部さんに感づかれるのは問題だ。


「そのダンジョンマスターっていうのはどこにいるんだ? 俺たちを巻き込まないでくれ」


 空気を読んでくれ、と願いながらそう口にした。


「……ふふ。どこだろうね。案外、生徒に紛れ込んでいたり、ね」


 虚子は妖艶な笑みを浮かべて、そう言った。一応誤魔化してくれたようだ。敵対する意思はないのか?


「とても興味を惹かれる内容だけれど、それはあなたを捕まえてから尋問しましょう」

「できないよ」

「俺も相手になろう」

「あなたが? アハッ。無理無理」


 虚子は十年以上前からあそこにダンジョンを構えるマスターだ。それに、頻繁に生徒が訪れ、訓練を行う。となれば、レベルは相応に高いはず。

 俺たちが戦える相手ではない。それは分かっている。


「殺しちゃってもいいんだけどー。ここで殺してもポイントにならないしなぁ」

「ポイント?」

「もう目的は終わったし、見逃してあげる。私に会いたかったら湿地洞窟に来てね! ばいばい」

「待ちなさい!」


 その言葉を遺して虚子は、忽然と姿を消した。一瞬だけ見えたのは、彼女が扉の隙間をくぐり抜けたところだった。


「……とりあえずごめんなさい。あなたを疑ったのは勘違いだったみたい」

「お、おう? 気にすんな」

「ダンジョンマスター。新しい情報ね。あの女は私が必ず捕らえる」


チャイナ服のスリット考えた人天才

太もも派の同志はぜひ☆お願いします。

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