01 合格通知
俺は部屋で正座していた。
「ついにこの日が……」
一通の封筒を前にして、背筋をピンと伸ばした。額を冷や汗が流れる。
この封筒は『第三迷宮専門高等学校』の合否を通知するものだ。まだ開けてない。
合格なら迷宮探索者への道が開ける。
不合格なら、俺の夢はほとんど終わり。後は高校入試以上の倍率を勝ち抜いて一般ライセンス試験を受けるしかない。武術の達人か職業軍人くらいしか受からないと言われている、超難関だ。
「頼む、合格しててくれ」
俺は封筒の拝むように頭を下げた。こんなことをしても中身は変わらないのだろうけど。
「厚さ的に合格だよな? 絶対紙ペラ一枚の厚さじゃないもんな」
床にへばりつくように顔を横にして、厚さを確かめる。
うう、そうは思うけど怖い。
俺が探索者になろうと思ったのは、小学生の時だ。
テレビで見たのは、まるでファンタジー漫画のように武器を持って戦う探索者たち。正直痺れた。俺もああいう風になりたいと思った。
最初は、子どもらしい軽い考えだった。俺の周りにも、探索者になりたいっていう子どもはたくさんいた。
小学生がなりたい職業ランキング堂々の一位だからな。伊達じゃあない。
だが、ほとんどの人は大人になるにつれて、現実を見始める。
探索者になれるのはほんの一握りの天才だけ。それ以外の凡人は、彼らがもたらした迷宮資源の恩恵で普通に生活していくだけだ。
「だけど俺は諦めない。絶対迷宮攻略科に合格して、探索者になるんだ」
それが、あいつとの約束だから。
今どこにいるのか分からない、幼馴染の少女。
小学校卒業とともに引っ越した彼女と、別れ際に約束したのだ。
次会う時は探索者としてダンジョンで会おうと。
彼女はもう忘れているだろうか。他の子どもたちと同じように、自分の才能に見切りをつけ、妥当な将来を目指しているのだろうか。
「いや、あいつなら探索者になれる。心配しなきゃいけないのは俺だ」
なぜなら俺は、適正がめちゃくちゃ低いから。
探索者になるためには、『ジョブ』というものが必要だ。
一般人の取得は禁止されており、迷宮攻略科に合格してから手に入れることができる。
ではどうやって合格者を決めるのか。その基準の一つが『適正』だ。
技術的なことはよく分からないが、取得できるジョブのランクを左右する物質が体内から検出されるらしい。その数値を特定することで、取得前からある程度確認することができるのだ。
俺の適正ランクはD。ランクEよりはマシだが、探索者となるには低い。
大抵のものはD判定がついた時点で諦める。合格は絶望的だからだ。
「いや、行ける。俺ならいける。そのためにこれまで努力してきたんだ」
適正はどうにもならない。ならせめてそれ以外で良い点を取ろうと、血の滲むような努力を続けてきた。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。
俺は恐る恐る封筒を手にして、ハサミで封を切った。
指を入れる。感覚で、五枚ほどの紙が入っているのが分かった。
ゆっくりと、まとめて取り出す。
最初に目に入ったのは唐西颯太……俺の名前だ。視線を下にずらして行く。
『合否通知書
名前:唐西 颯太
ジョブ適正:D
学力テスト:A
運動テスト:A
迷宮知識:A
面接試験:B
最終結果:合格』
急いで目を走らせて、最後の文字を読んだ瞬間、俺は叫んだ。
「おっっっっしゃああああああ」
分厚いのに不合格っていうフェイントもあるって噂本当ですか?