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4:変化

 舞踏会は、少しの変化をもたらした。

 あの後、私が帰ってからお妃様は決まったそうだ。マリエッタが家に遊びに来て、いつものように色々と話してくれた。

 ジークムント殿下は、沢山の人達に注目を浴びながら、とある令嬢に跪いてそれは情熱的にプロポーズをしたそうだ。

 その令嬢はそれほど身分は高くはないけれど、とっても可愛らしい容姿をしていたらしい。


 その子、注目を集めて大丈夫だったんだろうか。衆人環視の中踊るのは、私には中々辛かった。プロポーズに返事をするなんて、その比じゃないだろうに。

 それにしてもジークムント殿下が……跪いて? 情熱的に? プロポーズ? 私と踊ったあの王子が、そんなことするとは信じられない。本当に同一人物だろうか? 影武者じゃなくて?


 噂によると殿下とそのご令嬢は幼い頃から何度か交流の機会があり、お互いに一目惚れをして、会う度に想いを募らせていったらしい。美しい王子様とお姫様はついに結婚し、二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし、と言ったところだろうか。


 成る程、マリエッタが好きそうな話だ。


 事実マリエッタは、「まるで運命の恋! 素敵ですわ……」とうっとりしていた。そして、私が話にあまり乗り気じゃないのに不満そうにしていた。

 だが、考えてみてほしい。あんな、食えない笑みを浮かべた腹黒王子だよ? どうやって素敵だなって思えば良いの? 逆にそんな話を聞いたら、ますます何考えてんのか分かんなくなっちゃう人だよ?

 確かに以前は雲上人というか、自分には一生関わりのない人だと思ってたから偶像視出来た。

だけど、関わってしまったからなあ……。美しい物は少しでも損傷すると、大きく価値を損なう。多分それと同じような気持ちなんだろう。

 マリエッタは私が殿下と踊ったのが羨ましいと言ってきたけど、全然羨ましくないと思うよ? 多分だけど、あの人腹に一物抱えてるよ? そう言いたかったけど、私にはマリエッタの夢を壊すなんて恐れ多いこと、出来なかった……


 私は舞踏会の次の日、ユリウス様に手紙を書いた。本当に見苦しいものを見せてしまいました、助けてくれてありがとうございました、というような内容を送った。ユリウス様からは全然気にしないでください、むしろ大丈夫でしたか?というような内容の手紙が届いた。優しい人で良かった。私はお礼とお詫びと念の為口止めの意味を込めて、お菓子とお花を送っておいた。

 あの日のことを思い出すと、私は羞恥心でいっぱいになる。何であんなことしてしまったんだ、私!反省の意味を込めて、お酒はしばらく飲まないことにした。思い出してしまったせいで、何だかまた顔が赤くなってきた気が……。よし、別のことを考えよう。


 私はまた家にこもって、ロベルトへの想いを消そうとした。あ、今度はちゃんと食事も睡眠もとってるよ?心配させちゃうからね。

 でも、出来なかった。忘れようと思っても、ロベルトとの楽しかった思い出が次から次へと溢れ出てくる。そして最後に、あの舞踏会のシーンが浮かんでしまう。私はまた泣いてしまう。それを何度も繰り返した後、私は方法が悪いんだと気付いた。

そこで私が考えた、新しい方法。それは、ロベルトの肖像画に話しかけることだった。

 私の部屋には婚約者だった頃、ロベルトの肖像画が飾られていた。どうやって入手したとかは聞かないでほしい。

 だけど破棄してからは、見るのが辛い、かといって捨てるのもしのびないので彼から貰ったものと一緒に何処かにしまって貰ったのだ。そのお陰で今の私の部屋は、非常に淋しいことになっている。

今回私はそれを思い出し、肖像画だけを出してもらい、また飾ることにしたのだ。そして、彼をまた見てしまっても動揺しないようにする。我ながら、素晴らしい方法だと思った。

 動揺しないように、落ち着いて部屋で過ごせるようになるまで約半月かかった。「おはよう」などと挨拶をするのに更に半月くらいかかった。

 だけど、今の私はロベルト(肖像画)と世間話まで出来るようになった、何処からでもかかってこい! な状態である。今なら絶対に負けない。

 ちなみに、家族及び使用人達には何だか変な目で見られて、また心配された。ちゃんと健康的な生活をしていますよ?

 お父様には書斎にまで呼び出されて「無理に忘れなくて良い」と言われた。最近のお父様は、何だか優しすぎて怖い。


 私がそんな訓練をしている最中、ユリウス様からまた手紙が届いた。お菓子とお花のお礼に一緒に出かけませんか、という内容だった。

 お礼にお礼されちゃったら、お礼の意味がなくなっちゃうじゃん……と思ったけど、断るのもアレなので行くことにした。これぞ、処世術。


 何だかまた両親には止められた。だけどお兄様は「良いんじゃない?」と賛成してくれた。ありがとうございます、お兄様。


 それにしても、最近家族が変な気がする。いつもと違うような……。何かあるんだろうか?



 ユリウス様は家まで迎えに来てくれた。


「こんにちは、リリアナ嬢。今日もとても可愛らしいですね」

「まあ、ありがとうございます。ユリウス様」


 ユリウス様は前に会った時と同じ、穏やかそうな笑顔を見せた。

 今日は市街をぶらぶらして、カフェでお茶をするらしい。市街……。思い出がたくさんあって無理だったけど、今の私は無敵状態だ。よし、来い!




「リリアナ嬢、あの花綺麗ですね」

『リリー、あんまりはしゃぐなよ』


「リリアナ嬢、あれは何でしょう?美味しそうですね」

『買い食いがしたい? ったく、本当にお嬢様なのかお前……』


 おかしい。私は無敵状態のはずなのに。どうして何かを見るたびに、彼のことを思い出してしまうんだろう。

 ユリウス様が喋るたびに、耳に心地よい低い声が聞こえる気がするの。聞き慣れた、あの人の声。

 私の横にいるのは、茶髪に淡い青色の目をした男の人だ。金髪に空色の目をした人じゃない。何だか前にも同じようなことがあった。ジークムント殿下と踊った時だ。


「リリアナ嬢、先程から静かですけどどうしましたか? 体調が優れないんですか? それとも、私と出かけるのはつまらないでしょうか……」


 ユリウス様が心配している。これはいけない。私は笑顔で取り繕った。


「いえ、大丈夫です。ごめんなさい、ちょっと頭がぼうっとしてしまって」

「そうだったのですね。やはり、あまり具合が良くないのでは? 早くカフェに行って休みましょう」


 そう言うと、ユリウス様は少し足を速めた。淡い青色の目が、時折心配そうにこちらを見てくる。申し訳なくなって、心が痛んだ。

 ユリウス様の目の色は、少しロベルトに似ている。そのせいもあって、余計に彼を思い出してしまうのかもしれない。でも、私は克服したんじゃなかったの?


 ユリウス様お勧めのカフェは、出来たばかりの頃、ロベルトと来たことがあるカフェだった。ああ嫌だ、また思い出してしまう。

 私とユリウス様は紅茶を頼んだ。

ユリウス様がまた心配そうな目を向けて来たので、大丈夫という意味を込めて微笑んだ。ユリウス様も、安心したように笑った。そして、メニュー表を見せてくれた。


「ここのケーキはとても美味しいと評判なんです。何か食べたいものはありますか?」

『まったく……そんなに沢山頼んでも、食べ切れないだろう?まあ、俺も食べるからいいけど』


 彼の呆れながら笑っている顔が浮かんできた。でも、その彼は今此処にいない。私の隣に。きっと、あの女の人といるのだろう。そんなの――


「……いや、やめて」

「え? どうしましたか?」


 私はユリウス様の声で我に返った。そうだ、此処にいるのはユリウス様で、そして此処は大広間でも、舞踏会をしているわけでもない。私はカフェでお茶をしているんだから。


「大丈夫です。何にしようかしら?」


 私はケーキを1つだけ選んで食べた。前に食べた時はあんなに美味しかったのに、何故かほとんど味がしなかった。どうしてだろうか。

 ユリウス様は、私に色々と話してくれた。私とは、マリエッタから話を聞いたり『妖精姫』の噂を聞いて、以前から会ってみたかったんだって。私はそんな妖精なんて、綺麗な存在じゃないのに。今も心の中では嫉妬の炎が燃えているのにね。


 それから、やっぱり私の体調を心配して家に帰ることになった。ユリウス様は家まで送ってくれた。帰る時に謝罪をしたら、気にしないで、ゆっくり休んでくださいと笑っていた。

 本当に優しい人だ。何度も迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。せっかく出かけても、ずっと上の空でいてしまってごめんなさい。


 私は部屋で今日の反省会をした。

 きっと、街は思い出が多いからいけないんだ。思い出を忘れることは出来なかった。だからあんなに辛くなるんだ。

 私はしばらく街に行かないことにした。

でもきっと、ロベルト本人に会ったらもう動揺しないはず。だって肖像画を見ても、もう平気だから。


 窓を開けると、夕焼に染まった空が綺麗だった。

 私の心中で燃えている、どす黒い炎とは違って、綺麗な赤。

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