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アザレアを君に贈ろう 翔

作者: 柊 仁

この作品は「アザレアを君に贈ろう 続」の続編となります。

この物語を読んでいただく前に初期作の「アザレアを君に贈ろう」を読んでいただけると物語の流れが分かると思います。

高校生とまだまだ未熟ですが読んでいただけると幸いです。

クラスメイト



今の時刻は午前12時25分。

四時間目の授業が終わるまであと15分か…


教壇の上で「源氏物語」について熱く語っている古典の先生の話をフリーBGMのように聞きながら橋場颯太郎は時計の針を眺めていた。


高崎先生の授業って話がマニアックすぎてつまらないんだよなぁ。


高崎先生とは、この西陵高校に赴任して20年目のベテランで、よぼよぼのネクタイに何故かいつも白く曇っている丸眼鏡がトレードマークである。颯太郎が所属している1-5の担任でもある。


「この源氏物語の主人公、光源氏がですね、これまたプレイボーイでしてね、数々の女性を虜にしてきたんですよ。

その中でも柴の上という女性がこれまた可哀想な女性でしてね………」


この話いつまで続くんだろう…

長すぎる…

窓の外でも見て時間を潰そう。


西陵高校は豊かな自然に囲まれている為、窓から見える景色はまさに絵画そのものなのである。

名前も知らない木々達が穏やかな風に揺られている。

ゆっくり。ゆっくりと。

それに呼応するようにセミがミンミンと鳴いている。


もう夏なんだなぁ。


颯太郎はしばらくの間窓の外に見惚れていた。

長々しかった先生の話もいつのまにか頭の中から消え去っていた。


「では話が長くなりましたが、ここの所を誰かに読んでもらいましょう。…じゃあ橋場」


ん?どこからか声が聞こえる…まぁいいか。


「橋場ー。……橋場!!」


「はい!なんでしょうか!」

颯太郎はいつも穏やかな高崎先生の聞いたことのないような怒声に気づき、即座に立ち上がった。


「聞いてなかったのか。ここの所を読めと言っている」


「すみません…聞いてませんでした…」


「もうすぐテストも近いというのに一体お前は窓なんか眺めて何をやってるんだ。もういい。

大沢。代わりに読みなさい」


「はい」


話を聞いてなかった颯太郎の代わりに後ろの席の大沢という男子が読むことになった。

周りからクスクスと笑われるのを横目に見ながら颯太郎はゆっくりと席についた。


キーンコーンカーンコーン


授業の終わりを告げるチャイムが鳴りクラスメイト達は各々グループを作りお弁当を食べ始めた。


はぁ…なんでよりによって僕が…


落ち込みながらお弁当をバッグの中から出そうとした時、後ろからつつかれたような気がした。

振り向くと、それは大沢君だった。


「さっきの授業、散々だったな」


「あ、あぁ」


内心でやかましいと思いつつも颯太郎は苦笑いを浮かべた。


「まぁ高崎の話は長いからな。途中で飽きるよな。あれはしょうがない。うん」


クラスメイトに話しかけられたのは何日ぶりだろう。このチャンスを逃したら僕は永遠に一人でお弁当を食べることになるぞ。ましてや渚以外に友達が誰もいないなんてことにも…

ここはしっかり話さないと!


「大沢君は先生の話を聞いてて飽きないの?」


「そりゃあ飽きるさ。だから俺は先生の話は大体聞いてない。話がよく途中で脱線していくから最初と最後だけ聞いとけばなんとかなるよ。

これ、俺の裏ワザ」


「へ、へぇ…」

何を言ってるんだ。この人は…


でも、普段あまり喋らない僕に気さくに話しかけてくれるなんて、大沢君はいい人なのかもしれない。


「ここで話せたことも何かの縁だ。

一緒に昼でも食べないか?」


大沢君のその言葉に驚きを隠せなかった。

初めて僕に一緒にお昼を食べようと誘ってくれた。


「え?僕でいいの?」


「いいに決まってるだろ。それに俺もいつも一人で食べてるからさ。君が最近になってそこで食べるようになったから丁度いいやって思ったんだ」


「ありがとう。大沢君」


「大沢君なんて堅苦しい呼び方やめろよ。

俺の事は達也って呼んでくれ」


「…ありがとう。達也」


「おう。颯太郎」


「僕の名前知ってたんだ」


「当たり前だろ。クラスメイトなんだし。

もしかして颯太郎皆の名前知らないの?」


「お恥ずかしながら…」


「おいおいそれじゃ友達の一人や二人出来ないぜもっと周りに興味を持たないと」


確かに僕はクラスメイトに興味なんてはなっから無かったのかもしれない。

自分から話しかけないで相手が来るのを待っていた。

それに加えて今まで昼は屋上で食べてたからなぁ。

周りが気味悪がるのも仕方がない。


「ま。とりあえず昼でも食べるか」


その日颯太郎は初めて一人ではない昼休みを過ごした。



〜〜〜〜〜〜



全ての授業が終わり、帰り支度を済ませていると後ろから達也が話しかけてきた。


「颯太郎。この後空いてる?良かったら近くのイオン行かないか?」


颯太郎はイオンの存在は知っていたが一緒に行く友達もいなく、一人で行くのも何か恥ずかしかった為、今まで行くのを躊躇っていた。


「イオン!?行く行く!」



〜〜〜〜〜〜



店内に入ると冷房がキンキンに効いていて蒸し風呂みたいだった外に比べ、ここは天国に感じられた。


「ここがイオンか〜。凄いなぁ」


「まさか颯太郎イオン来たこと無いのか?…」


達也は哀れんだ目でこちらを見てきた。


「…別にいいだろ…」


「まぁいいけどさ。それよりタピオカ飲もうぜタピオカ!」


タ、タピオカ?何それ新種の寄生虫?

とりあえず乗っとかないと。


「あぁあれね。気持ち悪いよねぇ…」


「…まさか颯太郎。タピオカも知らないなんて事は無いよな?」


「そ、そそそんな訳ないだろ。なんたって僕は今を生きる高校生だからね!」


「はいはい知らないのな。じゃあ教えてやるから行くぞ」


僕ってこんなに知らない事があったのか…。

ずっと家に引きこもってたから最近の流行なんて知ってる訳無いのは当たり前だよなぁ。


「ほらよ。これがタピオカ」


「え?何?この黒いの?」


「それがタピオカだよ。モチモチしてて美味いぞ」


「ふーん」


颯太郎は勢いよくストローでタピオカを吸った。


「!? ゲホッゲホッ……」


「そりゃ勢いよく吸ったらそうなるわな」


「先にちょっとずつタピオカを吸って後でジュースを飲めばむせずに飲めるよ」


「ゲホッ…へぇ〜。達也は何でも知ってるんだね」


「このくらい皆知ってて当然だろ。颯太郎が知らなさすぎんの」



〜〜〜〜〜〜



「そんじゃあな。」


「うん。また明日」


颯太郎と達也はイオンから出た所で別れた。

一緒に帰りたかったが帰る方向が真逆だったので仕方がなかった。

颯太郎は振り向き達也の歩く姿を見つめた。


彼は僕が人に話しかける事が苦手な事について何も言わなかった。

''友達''とまではいかないけど、一人の''クラスメイト"として僕のことを見てくれた。

渚以外にもこういう人がいるんだなぁ。

今度は自分から話しかけよう。


その日は颯太郎にとって新鮮で、とても充実した一日になった。


この作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。

この作品がより多くの方の目にとまれば良いなと思っております。

次話も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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