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異世界転生に安全地帯なし!  作者: 久我拓人
第1章

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8/13

~夕飯はお肉でした~

 夕飯は単純な肉を焼いた物だった。

 別にこげてもいないし、妙な味付けでもない。カリカリに焼いてあるベーコンみたいなのを想像したけど、そんなでもなかった。


「美味しい」


 豚肉みたいな感じかな。さすがに牛肉じゃない。もしかしたら、鹿とか猪の肉ってこんな感じだったのかもしれない。

 ジビエ料理なんて食べたことないし。


「ホント!? 美味しい!?」


 瞳をキラキラさせてルイルがにじり寄ってきた。

 いや、だから可愛い顔が近くに来ると照れてしまうのでやめてほしい。


「美味しい美味しい。これ、ルイルが焼いてくれたのか?」


 これを料理と呼んでいいのかどうか。切って焼いただけでも、料理といえるのかどうか。

 それは俺には分からない。

 分からないけど、一応はルイルのためだ。

 聞いてみた。


「はい! 私が心を込めて焼きましたアユム様! お口に合うようでなによりです!」

「おう。美味い美味い。レイルゥは手伝ったの?」


 俺は後ろで立ったまま控えてるレイルゥに聞いてみた。


「わたしはきっただけです。やいたのはルイルさまです」


 なるほど。

 まぁ、こがさないように焼くのは、多少は料理が下手でもできるもんな。

 もしくは、レイルゥがタイミングを教えたのかもしれない。

 あとは塩だろうか?

 パラパラと適当にふれば、それなりの味になりそうだし。


「レイルゥもいっしょに食べたらどうだ?」

「いえ! そ、そんな!?」


 驚くレイルゥ。

 レイルゥは困惑するように村長とルイルを見た。

 俺が良くても、周囲のふたりはダメ、というわけか。


「いけませんぞアユム様。奴隷と食事を同席するということは、身分が同じということになりますからな」

「そうだぞアユム様! レイルゥではなく、私と食事を楽しみましょう!」


 ルイルはそう言うと俺の隣にくっ付いてきた。

 う~む。

 やっぱりここは異世界で、文化が違うっぽいな。

 まぁ奴隷がいる時点で日本と同じなわけがないんだけど。

 奴隷の身分っていうのは、もう一生変わらないんだろうか?

 難しそうな気がするなぁ。

 なんとなく慣れないけれど。

 でも、奴隷っていう文化があるのだから、むやみに逆らわずにいたほうがいいか。


「そうそう。アユム様はお酒を飲まれますかな?」

「いや、俺はまだ飲んだことがないので……」


 未成年だったし。

 昔、テーブルに置いてあったコップ。そこに注がれていたのはビールだったんだけど、麦茶と間違えて思い切り飲んでしまったことがある。

 小さい頃の失敗とはいえ、あの苦さを覚えていることもあってか、お酒を飲もうっていう考えが全く無かった。


「それではフルーツ酒なんてどうですかな?」


 そう言うと村長は木のコップにトポトポとお酒を注いでくれた。

 紫色の液体。ぶどう酒、みたいなものかな。


「お~、甘いにおいがする」


 ぶどうとは違うが、甘いジュースみたいな感じかな。

 ちろり、と飲んでみると、美味しい。ビールを飲んだときに感じた苦さみたいなものはないけど、喉というか胸のあたりがカ~ッと熱くなるものを感じる。

 これが、アルコールってやつなのかな。


「どうですかな?」

「美味いな、これ」

「アユム様! 私も、私も飲みます!」

「あ、うん。飲んでいいよ」


 ルイルのこのテンションの高さはなんなんだろうな……

 あれかな、自分を救ってくれたヒーローみたいに思ってるんだろうか? ちょっとした特撮ヒーローが現れて、自分の家で食事をしている、みたいな感じか。

 そう思うと、ルイルの行動も納得ができる。


「んふ~。美味しい」


 ぷは、とルイルは息を漏らした。

 可愛らしいけど、こっちの世界では未成年でもお酒を飲んでいいのだろうか?

 まぁ、法律なんて無さそうだし、警察がいるわけでもないから大丈夫か。

 というわけで、俺は遠慮なくお酒を飲んで、肉も食べていく。

 前の世界ではこんなに肉を食べるチャンスなんて無かったし、初めてのお酒に酔っ払ってしまったこともあってか、ちょっと食べ過ぎた。


「うぅ、おなかいっぱい」

「だいじょうぶですか、ご主人様」


 フラフラになった俺をレイルゥが支えてくれた。

 あぁ、なんて優しい奴隷なんだ。

 買って良かった。


「うん、ありがとレイルゥ」


 酔っ払うっていうのは、気分がいいものなんだな~。

 大人たちがお酒を飲む理由が分かった。なんか、こう、ふわふわして気分がいい。


「レイルゥ、アユム様を寝室に連れていってあげなさい」


 村長がそう言って、部屋へ案内してくれる。

 客室かな。

 ベッドがあるだけの簡素な部屋だ。


「ここです、ご主人様」


 レイルゥに支えられながら、俺はベッドに座った。


「うん。レイルゥは、どうするの? 今からご飯?」


 まだ何も食べてないはず。

 そんなレイルゥが気になったので聞いてみた。


「はい。かたずけたあとに、食べます」


 そっか。

 ゴロン、と寝転んだベッドは……硬い。

 まぁそうだよな。スプリングなんてあるわけないもんな。

 でも、ひんやりとした冷たさを感じる。これはこれで、いいのかもしれない。


「おやすみなさい、ご主人様」

「おやすみ、レイルゥ」


 うー。

 食べた後にそのまま眠るなんて、こんなに気持ちいいものだと思わなかった。

 行儀が悪いとか言われてたけど、実はみんなやってたんじゃないか。こんな気持ちいいこと、やらないほうがおかしいし。

 いや、お金持ちだけがやってたのかもしれない。

 ちくしょう。

 もっと裕福な家に生まれてれば良かった。

 そんなことを考えつつ、うだうだとまどろんでいると……


「ダメです、ルイルさま。ご主人様はもうおねむりです。ここはとおせません」

「な、なんでよ、レイルゥ。いいじゃないですか、私もアユム様といっしょに眠ります!」

「ダメです、ご主人様のあんみんをまもるのも、奴隷のしごとです」

「そ、そうアユム様が命令したの?」

「……はい。アユムさまはやさしいので。きっとそう命令するにちがいありません」


 俺はそんな命令しないぞ。

 命令するなら、ちゃんと眠るんだ、と命令するはず。


「なんで!? なんか話が合わなくない!?」

「そうでしょうか?」

「そうよ。あ、さてはレイルゥも!?」

「な、なにがでしょうか。レイルゥはただの奴隷です」


 なんだ?

 どういうことだ……?


「むむむ」

「にらんでもダメです。アユムさまといっしょにねるのはレイルゥです」

「あー、やっぱり!」


 なんだか騒がしいなぁ。

 でも、まぁ。

 その騒音も心地よく感じる。

 ルイルとレイルゥの声を聞きながら、俺は眠りに落ちていくのだった

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