~夕飯はお肉でした~
夕飯は単純な肉を焼いた物だった。
別にこげてもいないし、妙な味付けでもない。カリカリに焼いてあるベーコンみたいなのを想像したけど、そんなでもなかった。
「美味しい」
豚肉みたいな感じかな。さすがに牛肉じゃない。もしかしたら、鹿とか猪の肉ってこんな感じだったのかもしれない。
ジビエ料理なんて食べたことないし。
「ホント!? 美味しい!?」
瞳をキラキラさせてルイルがにじり寄ってきた。
いや、だから可愛い顔が近くに来ると照れてしまうのでやめてほしい。
「美味しい美味しい。これ、ルイルが焼いてくれたのか?」
これを料理と呼んでいいのかどうか。切って焼いただけでも、料理といえるのかどうか。
それは俺には分からない。
分からないけど、一応はルイルのためだ。
聞いてみた。
「はい! 私が心を込めて焼きましたアユム様! お口に合うようでなによりです!」
「おう。美味い美味い。レイルゥは手伝ったの?」
俺は後ろで立ったまま控えてるレイルゥに聞いてみた。
「わたしはきっただけです。やいたのはルイルさまです」
なるほど。
まぁ、こがさないように焼くのは、多少は料理が下手でもできるもんな。
もしくは、レイルゥがタイミングを教えたのかもしれない。
あとは塩だろうか?
パラパラと適当にふれば、それなりの味になりそうだし。
「レイルゥもいっしょに食べたらどうだ?」
「いえ! そ、そんな!?」
驚くレイルゥ。
レイルゥは困惑するように村長とルイルを見た。
俺が良くても、周囲のふたりはダメ、というわけか。
「いけませんぞアユム様。奴隷と食事を同席するということは、身分が同じということになりますからな」
「そうだぞアユム様! レイルゥではなく、私と食事を楽しみましょう!」
ルイルはそう言うと俺の隣にくっ付いてきた。
う~む。
やっぱりここは異世界で、文化が違うっぽいな。
まぁ奴隷がいる時点で日本と同じなわけがないんだけど。
奴隷の身分っていうのは、もう一生変わらないんだろうか?
難しそうな気がするなぁ。
なんとなく慣れないけれど。
でも、奴隷っていう文化があるのだから、むやみに逆らわずにいたほうがいいか。
「そうそう。アユム様はお酒を飲まれますかな?」
「いや、俺はまだ飲んだことがないので……」
未成年だったし。
昔、テーブルに置いてあったコップ。そこに注がれていたのはビールだったんだけど、麦茶と間違えて思い切り飲んでしまったことがある。
小さい頃の失敗とはいえ、あの苦さを覚えていることもあってか、お酒を飲もうっていう考えが全く無かった。
「それではフルーツ酒なんてどうですかな?」
そう言うと村長は木のコップにトポトポとお酒を注いでくれた。
紫色の液体。ぶどう酒、みたいなものかな。
「お~、甘いにおいがする」
ぶどうとは違うが、甘いジュースみたいな感じかな。
ちろり、と飲んでみると、美味しい。ビールを飲んだときに感じた苦さみたいなものはないけど、喉というか胸のあたりがカ~ッと熱くなるものを感じる。
これが、アルコールってやつなのかな。
「どうですかな?」
「美味いな、これ」
「アユム様! 私も、私も飲みます!」
「あ、うん。飲んでいいよ」
ルイルのこのテンションの高さはなんなんだろうな……
あれかな、自分を救ってくれたヒーローみたいに思ってるんだろうか? ちょっとした特撮ヒーローが現れて、自分の家で食事をしている、みたいな感じか。
そう思うと、ルイルの行動も納得ができる。
「んふ~。美味しい」
ぷは、とルイルは息を漏らした。
可愛らしいけど、こっちの世界では未成年でもお酒を飲んでいいのだろうか?
まぁ、法律なんて無さそうだし、警察がいるわけでもないから大丈夫か。
というわけで、俺は遠慮なくお酒を飲んで、肉も食べていく。
前の世界ではこんなに肉を食べるチャンスなんて無かったし、初めてのお酒に酔っ払ってしまったこともあってか、ちょっと食べ過ぎた。
「うぅ、おなかいっぱい」
「だいじょうぶですか、ご主人様」
フラフラになった俺をレイルゥが支えてくれた。
あぁ、なんて優しい奴隷なんだ。
買って良かった。
「うん、ありがとレイルゥ」
酔っ払うっていうのは、気分がいいものなんだな~。
大人たちがお酒を飲む理由が分かった。なんか、こう、ふわふわして気分がいい。
「レイルゥ、アユム様を寝室に連れていってあげなさい」
村長がそう言って、部屋へ案内してくれる。
客室かな。
ベッドがあるだけの簡素な部屋だ。
「ここです、ご主人様」
レイルゥに支えられながら、俺はベッドに座った。
「うん。レイルゥは、どうするの? 今からご飯?」
まだ何も食べてないはず。
そんなレイルゥが気になったので聞いてみた。
「はい。かたずけたあとに、食べます」
そっか。
ゴロン、と寝転んだベッドは……硬い。
まぁそうだよな。スプリングなんてあるわけないもんな。
でも、ひんやりとした冷たさを感じる。これはこれで、いいのかもしれない。
「おやすみなさい、ご主人様」
「おやすみ、レイルゥ」
うー。
食べた後にそのまま眠るなんて、こんなに気持ちいいものだと思わなかった。
行儀が悪いとか言われてたけど、実はみんなやってたんじゃないか。こんな気持ちいいこと、やらないほうがおかしいし。
いや、お金持ちだけがやってたのかもしれない。
ちくしょう。
もっと裕福な家に生まれてれば良かった。
そんなことを考えつつ、うだうだとまどろんでいると……
「ダメです、ルイルさま。ご主人様はもうおねむりです。ここはとおせません」
「な、なんでよ、レイルゥ。いいじゃないですか、私もアユム様といっしょに眠ります!」
「ダメです、ご主人様のあんみんをまもるのも、奴隷のしごとです」
「そ、そうアユム様が命令したの?」
「……はい。アユムさまはやさしいので。きっとそう命令するにちがいありません」
俺はそんな命令しないぞ。
命令するなら、ちゃんと眠るんだ、と命令するはず。
「なんで!? なんか話が合わなくない!?」
「そうでしょうか?」
「そうよ。あ、さてはレイルゥも!?」
「な、なにがでしょうか。レイルゥはただの奴隷です」
なんだ?
どういうことだ……?
「むむむ」
「にらんでもダメです。アユムさまといっしょにねるのはレイルゥです」
「あー、やっぱり!」
なんだか騒がしいなぁ。
でも、まぁ。
その騒音も心地よく感じる。
ルイルとレイルゥの声を聞きながら、俺は眠りに落ちていくのだった




