~村長からの依頼と奴隷の価値~
夕食までの時間。
俺はこの周辺のことを村長とルイルから聞いた。
どうやら村に地図は無く、やってくる商人は時々しかいないそうだ。隣接している森で動物を狩り、果物とかを採取して自給自足で生きているみたい。
一番近くの大きな街は? と聞けばあるにはあるらしい。
それはあの大きな木があるところまで戻り、反対側の方角へ歩いていった先にあるようだ。
「あの木って何なんですか?」
「なにって……ただの木ですが」
村長は不思議そうな顔で言った。ルイルを見ても、同じ表情。
「いや、目印っていうか、なにか意味があるのかなって」
「あぁ~。確かに目印にはなってますな。それ以外はなんていうこともない、ただの木ですよ」
それもそうか、と納得する。
日本だと、あんな目立つところに生えてる大きな木とか絶対に観光地みたいになると思うんだけど、この世界では違うようだ。
なんにしても……
「これからどうしよう」
いきなりこんな世界に落とされて、なにをしたらいいのやら。よくゲームとかでは、魔王を倒せ、とか言われるんだけど、この世界はそんなにピンチじゃないっぽいし。
まぁ、モンスターはいたけど。
「どうされました、アユム様?」
「いや、どうやって生きていこうかな、と」
クリエイトの能力があれば、仕事なんてしなくていい。
たぶんだけど、この世界のお金を見せてもらえば、いくらでも量産できそうだし。
なんなら、お店にいって武器とか道具とか、そういうものをクリエイトすれば複製はいくらでもできそうだ。
もしお金がクリエイトできなくても、そういう売ってる物をクリエイトして売ればいいかな。
「旅の路銀が必要、ということですね! それならば私のお金を持っていってください!」
そういってルイルがバタバタと走って別の部屋に行ったかと思うと、小さな革袋を持ってきた。
中身を取り出して、それを俺に渡す。
「これは……お金?」
ルイルが渡してくれたのは銀色の金属っぽい物だった。大きさは小指の先もないくらい。パチンコの玉を楕円形にしたようなものだ。
ポケットには絶対に入れないほうがイイ。いつの間にか無くなっているパターンだ。
「えぇ。この国のお金です。換金はしてこなかったのですか?」
「いや……お金はまったく……」
財布とか持ってないし。
「そうですか。ならば尚更です! これを持っていってください!」
と、ルイルは革袋ごと俺に手渡してきた。
小さな袋、と思ったんだけど持ってみるとズッシリとくる。それなりの金額が入ってそうだ。
「いや、こんなに悪いよ」
「いえいえ! 是非、是非ともアユム様のお役に立ててください!」
ルイルが俺の手ごと革袋をにぎりしめて、顔を近づけてきた。
「あっ」
と、思ったら頬を染めて離れてしまった。
まぁ、恥ずかしいよね……
俺もなんだか照れくさくなってほっぺたをポリポリとかいてしまう。
「ふむ。アユム様はお金に困っているのかね」
そんな俺たちのやり取りを見ていたのか、村長が声をかけてきた。
「えぇ、まぁ」
ホントは困ってないけど、困ってるフリをしないと怪しいよな。
お金持ってないのは事実だし。
「実は、お願いがあるんですが。そのお礼に報酬をさしあげる、というのはどうでしょう?」
「お願い?」
なんだろう、と俺は聞いてみる。
「先ほどのモンスターですが、どうやら山に住み着いた集団がいるようで。狩りに出るのも少し危ないので、退治してもらえないでしょうか? どうやらアユム様は、そこそこの実力があるようですし」
村長はチラリと自動剣と自動盾を見る。
まぁ、ルイルの話を聞けば俺がそこそこ強いと、そう思ってしまうのも無理はないか。
実際に自動で剣も盾も動くんだから、負ける気はしない。
思い願った能力では、そんじょそこらのモンスターには負けない強さ。なんなら世界最強も夢じゃないのかもしれない。
まぁ、分からないけどね。
いやそれよりも――
「報酬は……どれくらいですか?」
少し気になることがあったので聞いてみる。
もしかしたら、だけど。
いけるかもしれないから。
「そうですな。500リランでどうですかな?」
うん。
まったく分からん。
とりあえず、この国のお金の単位はリランということは分かった。それがどれくらいの価値があるのかどうかはサッパリ分からない。
でも一応は聞いてみよう。
「では、その報酬とルイルからもらったこのお金を合わせて……レイルゥを買い取れないですか?」
気になったこと。
それは、奴隷として働いているレイルゥだ。
温和そうな村長が、レイルゥを怒っている姿っていうのは……ちょっとどころではなく、かなりの衝撃だった。
ルイルもそれが当たり前のように思っているらしく、顔をしかめることもない。
そんな状況が、ちょっと異常にも感じた。
奴隷が当たり前なのかもしれない。
それだったら、俺が奴隷を買い取るのも、当たり前のはず。
「レイルゥを、ですか?」
村長は困るわけでもなく、また不思議に思うような表情を見せない。
ただ、普通に笑顔を向けてきた。
「いやいや、アユム様。レイルゥの価値はそこまで無いですよ。そうですな、一度私が使っておりますし、100リランで充分でしょう」
相場は分からないけど……人間がひとり、っていうのには安い気がする……
でも、まぁいいや。
「じゃぁ、その値段でいいので。売ってもらえます?」
「えぇ。では、報酬を400リランにしましょう。それで問題ないですかな?」
俺はうなづいた。
「では今からレイルゥはアユム様の奴隷です。好きに使ってもらってかまいませんが……あまり役には立たないと思いますよ」
すんなりと交渉が成立した。
村長がしぶるような顔をしているのは、レイルゥが役に立たないことを気にしているようだ。
まぁ、奴隷としては繋ぎで使ってるとか言ってたし、別に良かったのか。
「おーい、レイルゥ!」
村長が彼女を呼ぶ。
「は、はい! なんでしょうか……」
おどおどとした態度で、レイルゥはやってきた。
しかし、村長の笑顔を見て首をかしげる。
きっと、そんな表情を見たことがないんだ。
かわいそうに。
「オマエのことをアユム様が買ってくださった。今日から、主は私ではなくアユム様だ。分かったね?」
「わ、わかりました」
ちょっとだけ驚いた表情を見せたレイルゥ。
だけど、すぐに暗い顔に戻ってしまった。
「よろしく、レイルゥ」
「はい。よろしくおねがいしますアユムさま……」
レイルゥはそう言うと、丁寧におじぎをした。
奴隷か~。
なんでも言うこと聞いてくれるのかな?
まぁ、それよりもレイルゥは可愛いので笑顔を向けてくれるといいなぁ。
「しかし、困りましたな」
「どうしたんです?」
村長は、う~む、と腕を組む。
「夕飯を作ってくれる者がいないのでね。アユム様にご馳走をふるまいたかったのだが」
それなら、とルイルが手をあげる。
「私にお任せください! アユム様のためならば、宮廷料理ぐらいご用意しましょう!」
そう言って、ルイルはキッチンへと走っていった。
後に残された村長は、あちゃぁ、という感じの表情。
「もしかしてルイルって……」
「客人の前で客人の文句を言うのは申し訳ないですが……ルイル君の料理は少々……奴隷を慌てて買ったのもそういう理由でして……」
どうやらルイルの料理は壊滅的らしい。
「なるほど……レイルゥ、最初の仕事だ」
「はい。なんでしょう?」
「ルイルを手伝ってあげて……いや、できれば君が率先して作ってきて」
俺の命令に、レイルゥはちょっとだけ笑った。
「あ、やっぱり可愛い」
「へ?」
驚いたレイルゥは、そそくさとキッチンに行ってしまった。
うん。
かわいい。
これは良い買い物をしたぞ。