~少女剣士ルイル・カッパーニュ~
「す、すごい」
そう聞こえてきて、俺は振り返った。
コボルトに襲われていた女の子は、呆然とした様子で俺を見ている。
まぁ、そりゃそうか。
自分が苦戦していた相手を、簡単に倒してしまったのだ。驚くのも無理はない。
「だいじょうぶ?」
「あ、あぁ。あ、いえ、はい!」
こくこく、とうなづいて女の子は武器をしまった。
流れるような動作で、剣を鞘におさめる。
見た目は可愛いけど、そよりも剣士として美しいと俺は思った。
「見たところ、相当な騎士さまとお見受けします。命を救っていただき、まことにありがとうございました」
と、女の子が頭を下げた。
「いやいや、俺は騎士なんかじゃないよ」
騎士っていうのは、この世界での職業なんだろうか?
まぁ、違うことは確かなので否定しておく。
「そ、そうなのですか!? も、もしや王族を守るロイヤルガードでは……?」
違う違う、と俺は首を横に振った。
ロイヤルガード?
警察みたいなものか。そんなに強いのか、この世界の警察って。
「あ、名乗りもせず失礼しました。私の名はルイル・カッパーニュと申します。この村で剣士の修行をしているのですが……いや、お恥ずかしい限りです。村のためを、と思ってモンスター退治に赴いたのですが、逆に私が助けられるとは」
ルイルちゃんは、面目ない、と頭を下げた。
そしてちらりと向けたのは大きな檻、だろうか?
なんか箱っぽいのが置いてある。
あれに捕まえようとしたのかもしれない。
殺しちゃって良かったのか?
まぁ、なんにも言われないし大丈夫か。ダメだったら怒られてるだろうし。
「あ~……その。やっぱり剣士なんだね」
この世界は、やっぱりゲームっぽい世界のようだ。剣士っていう仕事があるみたいだし、なによりモンスターもいたからなぁ。
そういう意味で言ったんだけど、ルイルちゃんは顔をゆがめた。
「うッ。やはりそうですよね。私なんか、ぜんぜんそう見えませんよね。うぅ」
なぜだ?
ルイルちゃんが勝手に落ち込みはじめた。もしかして、地雷だったんだろうか? 剣士に見えないっていうのを気にしてるっぽい。
「あ、いや、俺はぜんぜんあの、この世界に慣れてなくて。剣士っぽいと思ったから聞いてみただけで」
「剣士っぽい!」
ルイルちゃんの顔がパッと輝いた。
かわいい……。
しかし、やたら剣士に反応する女の子だな。このルイルって子。俺とあんまり年齢が変わらないように見えるんだけどなぁ。
見た感じは中学生ぐらいの後輩っぽい。ただ、青い瞳なのでやっぱり日本じゃないのを感じさせてくれる。
「そういえばまだ名前をうかがっていませんでした。あなた様のお名前をぜひ教えていただけませんか?」
「名前?」
はい、とルイルちゃんは俺に向かって一歩近づく。
うわ。近くで見ると尚更のこと、すっごい美少女だ。
こんな子に近づかれるなんて、なんかちょっと嬉しい。
いや、別にいじめられてたわけじゃないんだけどね。でも俺には彼女なんていなかったし、特別仲のいい女友達もいなかったから。
彼女はおろか、俺に好意を持ってくれる人なんかいなかったからなぁ。
これはちょっと嬉しいぞ。
助けて良かった美少女剣士!
「あー、俺の名前は須磨歩夢だけど」
「スマ・アユム……はい! しっかりとその名前、心に刻みました。スマ様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「あ、いや、できればアユムで呼ばれたい」
せっかくだから名前のほうがいい。
「分かりました、アユム様!」
ルイルはすっかりと目を輝かせて俺にずいっと寄ってきた。
うーむ、かわいい。
あれかな~。部活とかしてたら、こんな可愛い後輩の女の子が寄ってきてくれたのだろうか?
部活、入ってれば良かったかなぁ~。
「よろしければ村に寄っていきませんか、アユム様! ぜひ! ぜひお礼がしたいのです!」
「あ、うん。まだこの辺の詳しいこと分かってないし……」
「なるほど! アユム様は旅をしておられるんですね! 諸国漫遊をしているからこそ、あの強さ! なにより素晴らしい剣をお持ちなのは、冒険の結果というわけですね!」
いや、違うけど。
そう否定する前に、俺の背中を押していくルイルちゃん。
「ちょ、ちょっとルイルちゃん」
「私のことはルイルと呼び捨てにしてください、アユム様!」
「な、なんで?」
「え!? いや、そのほら……あはは!」
なぜか分からないけど、ルイルはごまかすように笑って、俺を村の中へと押していくのだった。