~スキル『クリエイト』~
見渡す限りの平原。
そこに続く一本の道。道といっても、日本みたいに舗装してあるわけじゃなくて、ただ草が生えていなくて、地面がむき出しになっているだけ。
それが真っ直ぐに続いている。
道があるってことは、誰か使っているはずだ。誰か使っているってことは、この先になにかあるはずなので、ひたすら進むしかない。
「はぁはぁ。あ~、やっと、山が見えた」
ふへ~、と俺は大きく息を吐いてその場に座った。
運動部に入っているわけじゃなかったし、体育の成績もそこそこ。体育祭とかで活躍するタイプでもなかったから、そんなに体力はない。
どれくらい歩いたかは分からないけど、疲れた俺は草原に座り込んだ。学校の制服があつかったので上着を脱ぐと、涼しい風が汗を冷やしてくれる。
「のどが渇いた」
でも、自動販売機なんてある訳がない。もし有ったとしても財布もないのでお金がない。スマホも持ってないから、電子マネーも使えない。
「ジュースが飲みたい」
冷え切った炭酸ジュースが飲みたい。しゅわしゅわって炭酸の弾ける感じを味わいたい。
「あぁ~! マジで飲みてぇ!」
ちくしょう。
飲めないって思うと、めちゃくちゃ飲みたくなってきた。
「そう言えば……」
と、俺は体を起こす。
「神さまがクリエイトがどうのって言ってたっけ?」
能力を与えるとかなんとか……?
「え~っと、思い願うんだっけ」
俺は目を閉じて、炭酸ジュースを思い出す。
こう、シュワっとして冷たくて、美味しいジュース。ペットボトルに入っていて、ふたを開けるとプシュっと空気が漏れる音がするんだ。
「クリエイト!」
なんちゃって……と、思ったんだけど。
「うお!?」
俺の手に現れたのは、ペットボトルに入った炭酸ジュースだった!
「ま、マジで?」
質感とか、そのまま。さすがにパッケージというかビニールみたいなのは付いてないし、ふたにも何も描いてないけど。
でも、まさしく炭酸ジュースだった。
ごくり、と自然とのどが鳴る。
飲みたいと思っていた炭酸ジュースが手の中に現れたのだ。そりゃ、もう、口の中が炭酸の味になってしまうのは仕方がない。
これで、ただの水だったら神さまに思いきり投げつけてやる。
そう思ってふたを開けると……
「おぉ!」
ぷしゅ、と炭酸ジュース特有の音がした。と、共にしゅわしゅわプチプチと音も聞こえる。
俺は慌ててふたを外すと、そのまま口につけた。
「ん、ん、ん……ぷはぁ! うまい!」
味も思った通りだ。しかも、歩き疲れたからか、めちゃくちゃ美味い。からっぽになった体にめちゃくちゃ染み渡る。
「炭酸がいけるんだったら……クリエイト・ハンバーガー!」
どうだ、と試してみたら手の中にハンバーガーが出現した。
しかも広告通りの分厚いやつ!
「ホントに出てきた……すげぇ」
俺は炭酸ジュースとハンバーガーを飲んで食べて、すっかりと疲れを癒す。
再び立ち上がった俺は、なんとか村っていう場所を目指して歩き始めた。
「何村なんだったっけ。覚えられないな」
それよりも、だ。
「クリエイトか。すごい能力をもらったものだ」
折角だから色々と試してみよう。
「まずは……クリエイト・スマホ!」
ふむふむ。よしよし。
俺が持っていたスマホが手の中に現れたぞ。
でも――
「電源がつかん……充電は……無理か」
まぁ、動いたところで電波もないし。暇つぶしのゲームもできないだろうから無意味か。
「だったら。え~っと、クリエイト・車!」
と、願ってみたけれど……
「出てこないな」
なんでもOKじゃないのか? 大きさとか重量制限? それともあれか、車を持ってなかったからかな~。
「じゃ、自転車はどうだ?」
車より軽いし、自転車は持っていた。ママチャリみたいなやつ。
「あ、出た」
クリエイトすると、思い描いたとおりの自転車が出てきた。物理法則とかどうなってるんだろうな? もしかして魔法とかがある世界なんだろうか?
「いろいろと試してみないとな」
俺は自転車に乗ると、そのまま道を走っていく。
相変わらず何も見えてこないが、それでも歩くよりよっぽど速い。遠くに見えていた山も段々と近づいていく。
「クリエイト・マンガ」
自転車に乗りながら色々と出してみる。しかし、やっぱり出てくる物と出てこない物があった。
「マンガは……読んだことあるのだな」
じゃぁこれはどうだ、とまったく新しいマンガをクリエイトしてみる。
「おお。俺の考えたマンガだ」
薄いけど俺が一瞬で考えたマンガが出てきた。前の世界では絶対に有りえない組み合わせなのに、絵は作者が描いたもの、という夢のマンガが完成したのだ。うすいけど。
「なるほど、願いの力が弱いのか」
自転車とか身近に触れていたので、簡単に想像できるけど。でも、車はまったく興味もなかったのでクリエイトできない、というわけか。
「想像が曖昧だもんな」
炭酸ジュースを飲み終わり、ゴミ箱もないので草原に捨てていく。他にも、いろいろと出したものがカゴにいっぱいになったで適当に捨てていった。
「あ、森かな……」
ようやく景色が変わる。
道が続く先に森みたいな木がいっぱい生えている場所が見えてきた。どうやら山へと続く手前まで来たみたいだ。
さっきの一本だけの木と違って、遠くに見える森は普通っぽい。
そこに、なんとかムラっていうのがあるのか?
「ん?」
誰かいる……?
道から少し外れた前方で、誰かいるっぽい。
「え?」
人がいるのなら、話が聞けるかもしれない。
そう思って近づいたんだけど……
「あ、あれって……モンスター?」
マジで!?
と、思って目をこらす。
そこにいたのは、ひとりの女の子と首から上が犬になっている人間。
犬面人?
いや、ゲームなんかで見たことがある。
え~っと。
「コボルト、だっけ?」
確かそんな名前のモンスター。犬の顔をした人間。
そいつが武器を持って、少女に襲い掛かっていた。
「え~……マジかよ、嘘だろ」
別の世界ってゲームみたいな世界ってことか?
てっきり外国かなんかだと思ってたけど。
え? マジで、あれ、生きてるの?
「くっ」
近づくにつれ、コボルトと女の子の様子がちゃんと分かってきた。
ふたりは戦っているようで、武器を持っている。
コボルトはナイフみたいな、ちょっと大きめの物を振り回していて。
「はっ!」
女の子は剣を持って、コボルトと戦っていた。
「んぐ。くっ」
でもコボルトが押している。女の子は防戦一方だ。
「あ。助けたほうがいいかな」
周囲には誰もいない。
俺は自転車を下りて女の子を助けるための武器をクリエイトした。