~森の中でモンスター~
モンスターが現れた!
自動剣の攻撃!
コボルトは切り裂かれて、一撃で死んでしまった!
ぴろぴろろ~ん。
俺たちは戦闘に勝利した。経験値は分かんないけど、お金は手に入らなかった。
う~ん……弱い。
RPGでいうところの、序盤に出てくるザコモンスターそのものだな、コボルトって。
「これだったら、自動剣じゃなくても勝てるんじゃないか」
棒で叩くような感じで倒せそうだ。なにせ弱い。簡単に倒せるので、相当なザコに違いない。
「すばらしいですご主人様!」
「さすがアユム様! 素晴らしい腕前です」
「あ、どうも」
女の子ふたりに褒められるっていうのは悪くない気分だ。
日本にいるときも、こうやって誰かに褒めてもらいたかったけど。でも、残念ながら日本にコボルトなんていないから、倒す機会もなかっただろうな。
ま、俺の出番なんて無かっただろうから、この世界に来て良かったのかも?
「ふぅ」
剣を鞘に直してから俺は周囲をうかがう。
これで森の中でコボルトを倒したのは三匹目だ。
森に入ってすぐに二匹が同時に襲ってきた。これは自動盾が防いでくれ、一匹を倒してる間はルイルが相手してくれていた。
それを助ける形で二匹目のコボルトを倒す。
ルイルも強そうに見えるんだけど……コボルト相手に同格って感じだ。
もしかしたら、こっちの人間は弱いのかもしれないな。
栄養が足りてないから?
レイルゥは、まぁ奴隷だから分かるんだけど……ルイルも小さい。なんというか、時々だけど、まるで年上みたいなオーラが感じることがある。
頼りがい、みたいなものかな。
でも、こちらを向くと可愛い後輩そのもの、って感じかな~。
顔は可愛いんだけど、あんまり体は育ってないっぽい。胸とか……ね。
あんまり食料とか飲み物とか、豊富じゃないのかも。
日本に住んでたら、きっとモテモテだったに違いない。下手したらモデルとかアイドルになっていたかもしれないな。
この世界で出会って良かったぜ。
「ん?」
と、気づく。
森の中に、なにやら檻みたいな物があった。
木の陰に隠すように置いてあるが、ふた? 入り口? そこは開いていて入れるようになっている。そういえば、村の近くでも見たっけ?
「なんで檻がこんな所に?」
「あぁ、それは罠ですアユム様」
「わな!?」
いやいや。
これが罠だというのなら、動物すら入らないと思うんだけど?
「動物用ではなくモンスター用です。中にモンスターのにおいの付いた物を置いておくと、自然と入ったりすることがあるそうですよ。そこで振動によって檻がガシャーんって」
ルイルは両手を上から下へと落とした。
なんか、そういう仕組みになっているみたい。
「へ~。でも、なにもかかってないよね?」
「そうですね……」
まぁ、ダメ元ってヤツか。
やらないより、やったほうがマシ。ということなんだろう。
もしかしたら動物も引っかかるかもしれないし。
「そういや、動物って見かけないな」
「それはモンスターのせいですよ」
「逃げちゃうってこと?」
ルイルはうなづく。
村長から依頼されるのは、人間が危ないっていうのと森で狩りが出来なくなる理由のふたつというわけか。
そもそも動物がいなくなってしまっては狩りどころではない。
モンスターを追い払わないと、どっちにしろ生活できなくて危ないというわけか。
「しかし、どっちに行けばいいやら」
剣を掲げてみても、何の反応もなかった。
さすがに自動剣は遠くの敵には反応しないようだ。
レーダーみたいに使えたら便利だったのに。
闇雲に山の中を歩くわけにもいかないし、はやく巣か集団を見つけないと夜になってしまう。
「ルイルは、なにか分からないのか?」
「申し訳ないですアユム様。私にはアユム様を守ることしか」
くぅ、と拳を握り締めるルイル。
俺なんか守らなくていいから便利な能力でも持っていて欲しかった。
「レイルゥは?」
「この奴隷をオトリに使ってしまいましょう。裸で置いておけばモンスターが喰いにきますよ、きっと!」
「がう!」
そんなルイルの言葉に、レイルゥが文字通り噛み付いた。
「こら、レイルゥ。やめなさい」
「あう」
「あっはっは。奴隷が主人に怒られてるぅ!」
「がう!」
まったく。
また噛み付いてる。
「仲良しなのは分かったから。レイルゥはなにか分からない?」
「あ、すいませんご主人様。レイルゥは、においがとくいですよ?」
「におい?」
うんうん、とレイルゥはうなづくと、くんくんと鼻を動かす。
かわいい仕草だけど、本当ににおいなんて分かるんだろうか?
「あっちです、ご主人様。あっちがくさい」
くさいんだ……
いや、まぁ、モンスターはそれなりに臭いにおいがある。
俺の鼻にはまったく分からないけど、レイルゥには分かるみたい。
そういう能力でもあるのか?
「まぁ、他にあてもないし。行ってみよう」
「間違っていれば、罰としてレイルゥをオトリにしましょうアユム様」
「がう!」
わぁわぁぎゃぁぎゃぁと騒ぐルイルとレイルゥを連れて、においのする方角へと向かった。
まぁそんな騒ぎながら歩いていると、声に集まってくるよね。
コボルトが。
逆に言うと動物は逃げる一方かもしれない。
「三匹だ!」
草陰と木の上から突然襲ってくるコボルト。
その数は三匹で、俺の自動盾が瞬時に動いて木の上からの攻撃を防ぐ。そのまま後ろへ体を押されて俺はよろめいてしまうが、そのお陰で草陰から襲ってきたヤツの攻撃を避けることができた。
「あう!」
しかし、後ろにいたレイルゥとぶつかってしまう。
転んだ彼女に気を取られてしまった。その間に、最後の一匹の攻撃が俺、ではなく、転んだレイルゥに向かう。
「させません!」
レイルゥに振り下ろされる小さな斧。その攻撃を防いだのはルイルだった。
すばやく抜いた剣で斧の一撃を止めると、そのまま跳ね上げるように剣を振り上げる。
「おぉ」
やればできるじゃないか。
と、感心する俺。
その間にも自動剣は勝手に二匹を切り裂く。そして最後の一匹を難なく切り捨てた。
あっという間に三匹のコボルトを倒した。
これで合計六匹。
「ふぅ、危なかった」
さすがに今回は肝を冷やした。
間一髪、ってやつだな。
「あ、ありがとうございますご主人様」
「いや、さっきのはルイルのおかげだよ。だからお礼はルイルに言って」
「う……」
ちょっぴり嫌そうなレイルゥ。
ルイルは自慢げに腰に手をやって胸を張っていた。小さいな。鎧のせいか。ごめん。
「あ、ありがとう、ルイル」
「ふふ~ん。どうしたしまして」
「でも、とどめをさしたのはご主人様です。おもいあがるなよ、こむすめ」
「む。なんだとこの奴隷め」
あぁ~ぁ。
せっかく仲良くなるキッカケになるかなって思ったのに。
またケンカを始めた。
「仲良くしろよ」
「「ふぁ~い」」
おたがいのほっぺたを引っ張り合いつつ、ルイルとレイルゥは返事をするのだった。




