~気が付けば死んでいたらしい~
気が付いたら俺は変な場所にいた。
まったく見覚えがない所だ。
見上げたら雲がちょっとだけある青い空。地面というか、床みたいな場所は白い石みたいなものがずっと続いている。
空に太陽は無い。でも、明るい。
やっぱり変な空間だった。
「夢か?」
分からないけど、ほっぺたをつねってみたら、それなりに痛い。
「何も無い……」
振り返ってみたら、そこには何もない。永遠に同じ場所が続いてるみたいだった。
やっぱりここは夢の世界なんだろうか?
仕方がないので真っ直ぐ進んでいくけど……どこへ向かっているのかもわからない。
しばらく進んでいくと、真っ白な柱が等間隔で建っていた。
これ、大理石でいいんだっけ? なんか、海外の神殿みたいな場所だなぁ。
とにかく、良く分からないままに進んでいくと……
おじいさんがひとり居た。
なにやら一段高くなった場所で、大きな机に向かって仕事をしているっぽい。
紙になにかを書いているみたいだ。羽ペンっていうんだっけ。初めて見たなぁ。
オシャレっていうよりも、なんかこれみよがしに使っているぞ、という感覚になる。
あんなの本当に使ってる人、いるんだ。ボールペンのほうがよっぽど使いやすそうだ。
「ん? おぉおぉ、すまんかったね」
「え?」
こっちに気づいたおじいさんが声をかけてきた。
「はぁ……えっと、ここはどこですか?」
「お前さん、死んだんじゃ。ちょっとしたミスでな。体ごと消失してしもうた」
「は? え?」
死んだ?
俺が?
なるほど、やっぱり夢っぽい。
死んだっていうんだったら、いまの俺は何なのだ、っていう話だ。ちゃんと手も足もあるし、服だって着てる。なんで高校の制服を着てるのか分からないけど。
「通学途中だったからの」
「は、はぁ……」
「とにかく、死んだんじゃ。あきらめてくれ」
そう無感動に言われてしまうと、なんか良く分からないけど、そうなんだろう、と思った。
「いや、まぁ……分かった。分かったっていうのも、どうかと思うけど。いや、え、どうなってるの?」
「そのままじゃよ」
かかか、とおじいさんは笑った。
「だ、だとしたらあんたは、死神?」
「おしいのぅ。残念ながら死ではない。ただの神じゃ」
「あぁ……なるほど」
言われてみれば神様っぽい。
白くて長いヒゲに、なんかゆったりとしたローブっぽい服。でも、全知全能感は無い。ただのお爺さんだ。
神様っていっぱいいるって聞いたから、その中のひとりなのかもしれない。
「あ、あの……それで、俺はどうしたら……?」
このまま天国に行くか、地獄に行くか……選べるんだろうか? だったら目の前の神さまは、閻魔大王ってことになるけど。
「お前さん、消えたいか?」
「いえ、いやいや、それは嫌だ。まだまだ生きていたいに決まってる!」
たとえこれが夢だとしても、死にたくない。消えたくない。
「ふむ。しかし、元の世界には無理じゃ。お前さんの体は、もう消失しとるからの。ただの幽霊になってさまよわれても困るしのぅ。その管理をするのも手間がいるし、無駄に仕事は増やしたくないわぃ」
神さまは笑った。笑い事なんだ。
はぁ、と俺は納得するしかない。
「じゃ、じゃぁ……どうすれば?」
「別の世界でよければ、新しい体を与えてやれなくもない。ちょっとしたお詫びに、特別な能力をプレゼントしてやろう。それで許してくれ」
「許すもなにも……」
これって、夢じゃないの?
というか俺は本当に死んだのか?
通学中に? だから制服のまま神の元まで来たってこと?
「よく分からないんだけど」
「まぁ、そうじゃろうな。ま、後になれば分かる。ほれ、このまま消えるか、新しい世界で新しい人生を歩むか。どっちがいい?」
そんな二択なら決まっている。
「新しい世界で」
決まりじゃな、と神さまは笑った。
本当に神さまなんだろうか。ときどき、笑ってるんだけど。
「では、お前さん。え~っと名前は須磨歩夢だったか」
「あ、はい」
確かに俺の名前は須磨歩夢だ。すまあゆむ。うん。ちゃんとその名前で十六年生きてきた。
俺の名前を知ってるってことは、本当に神さまなのか?
「では、スマ・アユムよ。おぬしの新たな生に祝福を。そして、《クリエイト》の能力を授けよう」
「クリエイト?」
「うむ。思い願うがいい。さすれば、お主の思い描いた物を作り出すことができる」
「なんでも?」
「なんでもじゃ」
へ~。
と、感心した瞬間――
「うわっ!?」
俺の足元が消えた。まるで雲の上に立っていたみたいに体が落下し始めた。
スカイダイビングなんかしたことないけど、きっとこんな感じなんだろう。
ひゅっ、と体の中の内臓というか、下半身というか。
なんかそんな部分が冷たくなったまま、俺は雲の上から落ちていった。
最後に神さまの顔が見えたと思う。
もうすっかり俺に興味をなくしたように、ただ見下ろすだけの神さまに。
きっと、すでに仕事に戻っているのだろう。
「うわあああああああああああ」
そんな神さまを呪う暇もなく、俺は新しい世界へと落下するのだった。