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荷羊車は勇者を匿う  作者: シャイル
1章.初めての行商
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元勇者はこき使われる

「兄ちゃん早く~この日の為に薬草いっぱい集めたんだからさ~」


広場に着くと、既にカルムが子供たちに囲まれている。


「クロード遅いぞ! 俺じゃ、あの箱ごとは降ろせないんだよ」

「すみません、すぐ出しますね」


 カルムは物々交換を主とする行商人だ。こうやって子供にも交換に応じている。

というか、大きな町だと羊が悪目立ちして相手にしてもらえないので、子供でも大事なお客様なんだそうだ。


 この辺りなら子供でも安全に薬草が集められるし、使い道もたくさんある。

移動中に干したり、カルムが軟膏にしてと次の町で販売するのだ。


 荷車の中央に置かれた箱を持ち上げ、荷台から飛び降りる。


「ちょっと離れてろ、あの箱かなり重いから当たると怪我するぞ」

「えー、でも眼鏡の兄ちゃんは軽々と」


 ドスッ


「はい、お待たせしました」


「眼鏡の兄ちゃん、すごい音したけど」

「この箱には魔鉱石の欠片がたくさん入ってるから重いんだよ」

「魔鉱石!」


 子供達の目が輝く。僕の怪力については忘れてくれたようだ。

この世界の重力は軽い、多分、元の世界の三分の一くらいなんじゃないだろうか。


 なので、普通の筋力でも馬鹿力扱いだ。

この世界に着たばかりの頃はよく備品を壊してしまって大変だったな。



 子供たちが今、夢中になっている魔鉱石は、魔力の伝導率が良い鉱石だ。

本来拡散してしまう魔力を魔石や宝石内に高い伝導率で流し込めるので、精製して魔法使いの杖や、最近発達してきた機械の動力部分に使われている。


「これゴーレムに使える?」


 子供達の間では魔力で動かせるゴーレム遊びが主流だ。

土人形に触媒となる魔石や宝石の欠片を埋め込んで戦わせたり、ままごとに使ったりする。


 同時に魔力の操作も覚えられるので、この世界に昔からある知的玩具といっていいだろう。


 ちなみに前回は魔石や宝石のクズ石を交換対象にしていたらしい。

いったいどこで仕入れてくるやら。



「品質的に大型だと難しいだろうけど、いつも使うサイズなら動きがよくなると思うぜ」

「どれくらい? やって見せてくれないとな~一生懸命集めた薬草だからな~」


 生意気そうな少年がカルムに絡んでいる。彼が子供たちのリーダーなのだろうか。

この辺りなら薬草はたくさん生えていそうだから、子供なりの交渉術なのだろう。

客商売って大変だなぁ……。


そんな事を考えながら商品を準備していると、ぐるりとカルムが振り向いた。


「クロード、頼む」

「え、僕ですか?うーん……やってみます」


 魔力操作があまり得意でない店主から、手のひらサイズの羊の毛で編んだ可愛い人形を受け取る。

羊毛で作った羊人形だ。


学校の授業で習った回路のことを思い出しながら、適当に取った魔鉱石と魔石の欠片を組み合わせて人形に入れ、魔力を籠めてみる、と。


 手のひらから、ぴょんと魔鉱石の山の上に飛び降り、愛嬌よく子供達に手を振った。

人形操作は初めてだったけど、我ながら上手くできた方だと思う。

そのままクルリとターンからのお辞儀をさせてみると、子供達からわっと歓声が上がった。


「可愛い! お人形でも動かせるんだね」

「すげー、こんなに動きがよくなるんだ!」

「羊の兄ちゃん、はやく交換してよ!」

「よーし、レートは黒石三つで魔鉱石1つ、乾燥させてあるのは一つだ。好きなの選んでいいからな」


 天秤の片方に標準石と呼ばれる楕円の黒い石を置き、なぜか、カルムがドヤ顔をしている。

その前に、子供達が袋に入った薬草を抱きしめながら、列を作りはじめた。


「すごい、列を作るの慣れてるねぇ」

「毎回だからな、教えた。順番を守らない奴は交換してやらねー」

「はは、なるほど」


 子供の列をカルムに任せ、僕は日用品や乾物の入った箱を並べていく。

これらは大人用なので、物だけじゃなく、硬貨での取引も可能だ。


 銅貨一枚で硬パン三つくらいの価値らしいが、場所によってレートの変動があるので、毎回カルムに確認しなければならない。


 海の周りでは安い塩が、岩塩の無い地域の山だと高騰するのだ。殆どの商人はその差額で暮らしている。


「あら、今回はもう買えるのかしら」


 様子を伺っていたご婦人がバスケットを片手に聞いてくる。

今まではどうしていたのだろう、まさか、1日目は子供の相手だけで終わったりはしていないよね?


「お待たせして申し訳ありません、何かお探しですか」

「羊毛はあるかしら?前に買った羊毛でクッションを作ったらすごく良かったのよ」

「ありがとうございます、在庫がありますのでお買い求め頂けますよ」


 カルムが愛してやまない二頭の羊から採られた羊毛の入った箱を、後ろに積んだ木箱から運ぶ。


そうだ、うるさく言われたことがあったんだった。


「こちらはクッション用でしょうか?」

「今回は紡いでセーターにしようかと思っているの」

「でしたらこちらの羊毛がお勧めですよ。セーター用ですと、銅貨三枚分ですね」


 なんでも、羊によって毛質に差があるらしく、寝具用と衣服用にきっちり分けているらしい。

メリアラは寝具、メリルは毛糸……らしい。僕には違いが分からないが。


 ご婦人とのやりとりを見て、仕事を切り上げた村の人たちが集まってくる。


「あらぁ、お兄さんカッコいいわねぇ。オススメは何かしら」

「眼鏡の兄さん、干し肉とかあるかい」

「この塩のレートはどうなってるのか教えてくれ」

「私も羊毛が欲しいわぁ、いくらかしら」

「ねぇねぇ、さっきのお人形は売ってないの?」


 大人気過ぎる。確かに魔物は増えていたし、他の馬車とも一度も遭わなかった。

それだけ影響が大きいのだろう。


 外へ仕入れにいけない以上、行商人の存在はとてもありがたいはずだ。

カルムにも少々割高で売れと言われているので、僕らみたいな行商人には商売のチャンスとも言える。



 しかし! 商売初心者が捌ける数じゃないと思うんですが!


「しょ、少々お待ちください。カルム! 交換の方お願いしてもいいですか!」


 振り返ると、子供達に魔鉱石を選ばせながら、のんびりと薬草の検品を行っている様子が目に入る。


「それはただの花だからダメ」

「えー! こんなに良い香りなのに!」

「そういうのはあっちの眼鏡が詳しいから、ちょっと待ってろ」

「はぁい……」


 助けてくれるどころか仕事を増やしてくれている……だと。

援軍を期待してはいけないようだ。


 よし、一旦落ち着いてお客さんの要望を思い出してみよう。

一番多い質問は品物の値段についてだったな、それなら手はある。



 商品の入った木箱の蓋に、黒檀で黒く塗りつぶした円とただの黒い円を描いて、見えるように立てかけていく。


「こちらの黒丸が黒石の数です、白丸が黒石に応じた銅貨の数になります」


 識字率が低いので、こうやって抽象化した方が分かりやすいだろう。



 名づけて、スーパーマーケットの値札作戦だ!

令和最初の更新です~楽しい時代になりますように…(笑)

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