閑話:勇者の整頓術
最初の村に着くまでのちょっとした小話。
カルムの仲間として迎え入れられた後の第一声が忘れられない。
「じゃ、とりあえずお前が乗る分のスペース確保してくれ」
「え?」
ニコニコしながら荷車の指差すカルムに連れられて中を覗いてみると、すごいゴチャゴチャしている。
というかこれは雑すぎるだろう。
床に散らばっている紐やら小さな箱を指してこれはゴミか?と聞けば「なんか使えそうだから置いてある」という駄目な回答が返ってきた。
無造作に木箱に突っ込まれた布やら薬液やら謎の草やら……ああもう、ちゃんとしていたのは羊用の干草くらいだろうか。
人間用の食材の方が保管方法が悪いっていうのはどうなんだろうか。
僕が呆然としていると「洗い物してくる」と皿や鍋を持って近くにある川に走っていった。
本当に落ち着きの無い人だな。
とりあえず床に散らばっているものを空いている木箱に詰めていく。
内容物が分からない液体の瓶は怖いので別に避けた。
詰まれたまま動かされた形跡のないこの木箱はなんだろうか、物凄く重たいんだけど……。
蓋を開けると中には石がぎっしりと詰まっていた。これ何……。
頭が痛くなるような状態だが、ざっくりと保管方法の異なるもので分けていく。
この石は変に動かすと荷車の重心が狂いそうだから位置は変えない。
カビた薬草類は火にくべて処分しておいた。なんだあれは。
もう一度言わせてくれ。なんだあれは!
これも商品を把握する上で必要なことだと言い聞かせ、若干イラつきつつ整理を進めていく。
カルムが扱う商品はとにかく日持ちがする物のようだ。
塩が特に多い。次点で傷薬。後は干した薬草や細々とした日用品が木箱に入っていた。
他には羊たちから採った羊毛か。
やはりと言うべきか、冷蔵庫の変わりになるような魔道具は無かった。
勇者として旅をしたときは完備だったから、これからは中々大変な旅になりそうだ。
整理を進めていくと結構要らなさそうなもの、いや、ゴミが出てきた。
これなら一人分といわず、二人でも乗り込めるだろう。
「おおー!片付いてる!」
洗い物から帰ってきたカルムが目をキラキラさせて車を覗き込んでいる。
「カルムさん、これなんですか」
「カルムでいいって、これは上級ポーション……だったものだ」
どんより濁った薬液を指してそんな事を言う。
「だったもの……」
「売れ残っちゃってさ、ちょっと効き目は落ちるけど、効果はあるんだぜ」
これ飲んだんだ、勇気あるなぁ。
そう思ってカルムを見るとサッと目をそらされた。
まさか飲んだのって――いや、止めよう、考えてはいけない。
胃の内容物がせり上がってきそうだ。
「そういえば、僕が前に着ていた服はどうしたんです?」
「直すより買ったほうが早そうだから捨てたぞ、森に」
「森に」
森で死んだことにしたいのだから丁度いいのかな……?
愛着があったわけでも無いが、不法投棄が少し気になった。
他の物もある程度確認してもらい、結果的に木箱が三つも空いた。
通常の馬車より一回り小さいとはいえ、ここまでゴミが詰まっていたとは。
最後に枝と布切れを裂いて作った簡易ハタキで埃を外へ追い出していく。
その間、カルムはせっせと羊たちの毛を梳かしていた。寝心地の良さに納得である。
うん、やって欲しいのはそっちじゃないんだけどね。
「あの、カルム、村まではどれくらいかかるんでしょうか」
「ここからなら半日って所だけど」
ということは、半日で商品の値段やレートを覚えなければいけないのか……。
授業には問題なくついていけたが、畑違いの内容を全て覚えきれるだろうか。
「さすがに商売のしの字も知らない状態で連れて行けないから、一日はここで勉強だな」
「よ、よかった」
ほっと胸をなでおろしていると「俺も適当にやってるけど」と聞こえてきてギョっとしてしまう。
冗談だよな? いや、この惨状を目の当たりにすると冗談ではない気がしてきた。
これからは僕がしっかりしなくてはならない――そんな予感がする。
クロードの予感は当たります。