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荷羊車は勇者を匿う  作者: シャイル
プロローグ
3/14

羊の導き

カルム視点で勇者を拾うお話です。

 夕暮れ時、赤毛の髪を更に紅く染めながら、荷羊車(にひつじぐるま)を走らせている若い男が一人。馬ではなく羊だ。

勿論、普通の羊では荷車を引くなんて無理がある、ので、通常の羊より一回り大きい魔物羊(メェフィ)が引いている。


 魔物を操るお世辞にも目つきがいいとは言えない男は、同い年の男よりも一回り小さく、その事で悩んでも居た。

しかし、彼の愛する羊を前にすればそんなことはどうでもいいとも思っている。


 そう、彼は所謂「羊オタク」「羊狂信者」もっと言えば「動物性愛者」に近い。



「ふん、ふん、ふーん」


 俺は荷台の上から、上機嫌で羊たちの揺れるふわもこな体を眺めつつ、荷車を走らせていた。

走らせるといっても大人の駆け足くらいの速度なので、馬や持久力のあるロバと比べてしまうと、移動距離は短めだ。


 そのぶん可愛い羊たちとのんびり過せるのだから、羊を愛する俺にはピッタリの荷車と言える。


 そんなわけで、本来はもっと早く出発する予定だったのだが、羊たちを川で洗っていたら少々夢中になってしまい、結果がこの夕暮れである。


「メリアラ、メルル、次の町まで頑張れそうか?」

「「メェー…」」


 羊たちに確認を取ってみたがきつそうだ、これはもう次の村に着くのは諦めて、野営の準備に切り替えるか。


「よし、次の広場で今日は休もう、無理をさせて悪かったな」


 もう少し先に荷馬車用の休憩所があったはずだ、そこで愛しの羊たちとのんびり食事でもしよう。

残っている材料で夕飯はどうするか考えていると、突然羊たちが立ち止まった。


「どうした?」


 声をかけると羊たちが街道に沿う様に存在する森の方をじっと見つめている。

この森は深く暗い。魔物が多いし、次の広場で休みたいのもこの森から離れたいという理由が大きいのだが、どうかしたのだろうか。


 羊たちに習って俺も森を見つめてみると、奥の方から何か音が聞こえる。遠吠え……ウルフか?

何か獲物を追っているんだろう、一体何を……目を凝らすと僅かにチカチカと光が見えた。


 おそらくは人の魔法だ。


 ウルフは狡猾な魔物だ。

よほど餓えていない限り、可食部の少ない人間を襲ったりはしないハズだ。


 正直面倒くさい予感しかしない……が、ここで見捨てると気分が悪い。

「どんな礼をしてもらおう」などと考えながら荷車を端に寄せ、売れ残っていた上級ポーションや傷薬を適当に掴んでポーチへ仕舞うと、火をつけたカンテラを片手に森へと分け入った。


 俺が着くまでにウルフを倒せてたらいいんだけどな。


 可愛い羊たちは勿論お留守番だ。

まぁ、俺より強いんだけどね。



 光を見た方へ、風下から慎重に近づいていく、流石にウルフの群れに囲まれるのはかなりヤバイ。

ちゃんとした戦闘職ならまだしも、俺はただの行商人だし。


 森の奥に進むに連れて、獣と血の臭いが風に乗ってくる、ウルフを撃退しているならいいのだが……金属が何かにぶつかる音がする、まだ戦闘中か。


 近づくほどウルフ達の唸り声が大きくなっていき、人の気配が弱くなる。あまり状況はよくなさそうだ。


 カンテラのふたを開け、炎から火の玉を作り出した。

火の魔法は苦手だが最低限は使える。


「頼むぜピクシー」


 火の玉が派手に燃え上がり、戦闘中らしいウルフの群れへと突っ込んでいった。


辺りが美しい紅色に染まった。


 ピクシーは俺の使役する精霊だ、幻を見せることを得意としている。

あの業火も本当は小さな火の玉だ。


 商人たるもの、ハッタリは大事なんだよ、うん。


 小さな火の玉はウルフが一番恐れるであろう姿に見えているはずだ。

凄まじい幻惑の炎にウルフ達は泡を食ったように退散していく。


 やはり、獣には視覚の支配が一番効果的だな。


「よし、もういいぞ。ありがとうピクシー」


 火をカンテラに戻し入れ、辺りを見回すと、事切れたウルフ数匹と、薄汚れた男が転がっていた。

とりあえず息はあるようだが、ボロボロの外套に、衣服も血と泥でひどい有様だ。


 それにしても、武器はただの短剣だけ……こいつ犯罪者じゃないだろうなと、嫌な予感がよぎる。

 街道を避けて森を通るなんて盗賊か犯罪者、もしくは何かの依頼を受けた冒険者くらいだ。


 いぶかしみながらも助けてしまったものは仕方ない、ポーチから上級ポーションを取り出し、男に飲ませるとみるみる傷が――治らなかった。


 回復力というのは対象者の生命力に比例して上がったり下がったりする。

どうもこの男は極度の衰弱状態にあるらしい、おまけに不衛生なので傷の治りがかなり遅い。

 

古いとはいえ、お高いポーションを使ってこの程度だ、改めてかなり面倒な拾い物ということに気づき、やっぱり捨てていこうかなぁと男を見つめる。



 すると、男の周りに小さな光がふわふわと集まりだした。


 光の精霊だ、物凄く珍しい。

是非ランタンに詰めて売りたい。


 欲望に駆られてじっと見つめていると、俺の使役するピクシーになにやら語りかけて……ピクシーが俺をキーキーと非難しだす。


「助けないともう力を貸さない? それは困るなぁ……」


 上級精霊である光の精霊に言われて、俺にこの面倒そうな男を助けろと脅してくる。

なんなんだコイツは。



 ふと、ひとつの可能性に気が付き、まさかと思った。


 光の精霊に愛された男。


 外套のフードを外すと、やつれ汚れてはいるが端正な顔立ち、この世界では珍しい金の髪。

町の掲示板で嫌というほど描かれた指名手配の似姿にそっくりな男がそこに居た。


「元・勇者、ランスロット……」


 羊に導かれて、とんでもない物を拾ってしまった。


カルムの方が主人公に向いている気もする。

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