表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荷羊車は勇者を匿う  作者: シャイル
1章.初めての行商
12/14

暴走する羊使い

 正気に返ったボアたちは興奮しきり、いつ突進してきてもおかしくない状態だ。

特に、メリルとメリアラに対しての敵愾心が同じ獣のせいか強い気がする。


 心なしか馬鹿にしているような……。



 僕が気が付くくらいだ、カルムや、羊たちはその気配をより強く感じ取ったらしい。

カルムが荷台の上に立つと、カウベルをガラガラと振り回しながら叫ぶ。


「いいか! 豚より羊の方が高貴な生き物だってことを分からせてやれ!」

「「メェエエ!!」」


 彼はあんなキャラだっただろうか、変なスイッチが入っている。

それに、羊たちのあんなテンション初めて見た。


 魔力が減ってくると、段々理性が効かなくなってくるって聞いたことがあったけど、まさかその一環じゃないよね……。


 勢い良く2頭が飛び出すと、釣られた様にボアも突進を仕掛けてくる。

羊たちの方が若干体躯が大きい、しかし、牙と分厚い皮がある分ボアのほうが有利かもしれない。


 不安に駆られてカルムを見上げると、いつもよりも楽しそうに口元を歪めている。

両者が激突する寸前、羊たちの姿が霧のように霧散した。


 突進が空振りに終わり、動揺したボアの横から、メリアラの渾身の頭突きが炸裂する。

何かとてつもない重量感のあるもの同士がぶつかった様な鈍い音がし、ボアが小さく痙攣した後、白目をむいて動かなくなった。


幻術を応用した作戦なんだろうけど、背筋がぞっとした。

 あれをやられたら人間ではひとたまりも無い。


「はーっはっは!」


 楽しそうなのはカルムだけだ。

やっぱりエルダーウィローも彼等が行けば解決していたんじゃないだろうか。


唖然としていると、姿を消していたメリルがもう一頭のボアへ突撃した。


 そして、倒れたボアの頭に前足を置いて不敵に笑った……ような気がする。

前言撤回、羊たちも楽しそうだ。護衛なしでも無事だった理由が解明されてしまった。


「大丈夫か!」


 そんなさなか、大降りの斧を片手に武器屋のおじさんが広場に駆け込んでくる。

ワイルドボアとメェフィの姿には流石に怯んでいたが、怪我人が居るのを見て、カルムの元へ向かった。


「なぁオヤジ、豚より羊のほうが気高くて美しいよな!」

「何を言ってるのかわからねぇが、守ってやるからお前は怪我人を頼むぞ!」

「任せとけ!」


 異様な雰囲気のカルム達に対し、ボアたちは随分と気圧されているようだ。

しかし、群れのボスが無事なのもあって撤退には至らない。


 やはりこいつと戦わなくてはならないだろう。

鋭く大きな牙は厄介だけど、突進で家屋やカルム達に被害を出す方が良くないはずだ。


 無理をして倒す必要は無い、怪我を負わせればいいだけなんだ。


 荷車の傍ではおじさんの放った火球がボアに直撃し、怯んだ所を斧で切り伏せている様子が視界の端に映る。

あちらは心配ないだろう。



 迎え撃ったワイルドボアは僕に対し踏みつけを行おうと、体躯の割りに短い前足を上げる。

それをかわし、胴体を斬りつける――が、硬い体毛によって阻まれてしまった。

 やはりこの剣では切り裂けないか。


 牙の間合いから離れ、隙を伺う。

 


 狙うなら目だ。



 僕の行動を見越したかのようにワイルドボアの首が僕とは反対側へ引かれる。

咄嗟に剣でガードしながら後ろへ飛んだ次の瞬間、強力な突き上げが僕を襲った。


 鋭い牙が剣に叩きつけられ、飛んだ以上に吹き飛ばされる。

軽い手の痺れを感じながら空中で体制を立て直そうとするが、それよりも早く、追撃の突進を仕掛けられた。


 防御呪文も防具も無い、が、受けるしかない……! 


「メリル!」


 カルムの叫びがしたと同時にワイルドボアの胴体にメリルの強烈な体当たりが決まる。

着地すると逆に体勢を崩した相手へ、叩きつけるように、渾身の力で剣を振り下ろす!


 剣先が相手の目に届いた瞬間、それを防ぐかのように暴れ、牙に弾かれてしまう。

小気良い音を立てて剣は中ほどで折れ、細かな鉄片が飛び散った。


「プギィイイイイイ!!」


 いっそう暴れだしたワイルドボアから離れて、折れてしまった剣を確認する。

恐らく最初の一撃で折れる寸前だったんだろうけど、いつからあるか分からない位の売れ残りじゃ、仕方ないか。


 癖で左手で懐にあったはずの短剣を探してしまう。

じわりと柄を持つ手に汗がにじんだ。


 立ち上がったワイルドボアが、僕を見て忌々しそうに鼻息を荒くしている。

次の突進に備え、折れた剣を構え直す。無いよりマシだ。


 ワイルドボアと僕は睨み合う。

ほんの僅かな時間だった筈だが、とてつもなく長い時間だったように感じた。



 左目を失ったワイルドボアはゆっくりと踵を返すと、生き残ったボアたちと共に、川向こうへと消えて行った。

撃退戦闘終了です。

ゲームでの何ターン凌げ!みたいなのが苦手です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ