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荷羊車は勇者を匿う  作者: シャイル
1章.初めての行商
11/14

羊と猪

戦闘ターンです。

クロードの弱体化はLV50位だったものが30位まで下がったようなイメージで書いています。


――カンカン カンカン――



 緊急事態を知らせるために村に備えてある半鐘の音だ。


 秤を見つめていたカルムが素早く民家の屋根の辺りへ視線を走らせる。

僕も同じように確認したが、煙は見えてこない。


「何があったのかしら」

「火事ではなさそうですね、こんな昼間から盗賊ということも無いでしょうし」

「この鳴り方は戸締りをしろって意味なのよ、何があったのかしら」


 お客さんたちも不安そうにざわめいている。


「みんなー! 店じまいするぜ! 家に帰ったほうがいい!」


 カルムが声をかけると村人達は広場を離れ、男達は確認や伝令へ、他の人たちは家や近くの建物へと散っていく。


「僕達はどうしますか?」

「さっさと片付けて宿まで戻ろう、念のために回復薬はすぐ出せるようにしておいてくれ」

「わかりました、急ぎます」

「メリル、メリアラ、移動準備よろしく」


 カルムが木箱の蓋を閉め、その後を僕が箱を積み上げながら荷車に載せていく、全てを積み終わる頃には広場からは人気が失せていた。


 先ほどまでゴーレムで遊んでいた子供達も家に帰ったのだろう。


「どうした?」


 カルムの声に振り返ると、羊たちが動かない。じっと麦畑の方を見つめている。

異様な雰囲気を感じて、自然と剣を抜いて構える。


 地面が僅かに揺れた。


 それは段々大きくなり、地響きのような音と共に一人の男性が民家の裏から飛び出してきた。


 あっと思った次の瞬間には、一メートル程ある黒い塊が男性を弾き飛ばしていた。


 短い悲鳴と鮮血が空中に舞う。


 広場入り口に積んであった木箱を破壊する音が響き渡る中、黒い塊――ボアが血走った目でこちらを睨みつけた。


 男性は木箱に突っ込んだまま動かない。


 助けなければ――反射的に走り出すと、ボアも同じように僕へ突進をし始めた。

今の僕と、この古びた剣ではあの突進を受けきるのは難しいだろう。


 突進を反射的にかわし、相手の勢いを利用して、刺すように喉元を斬り上げる。

肉を切り裂く感触が手に伝わってくるのとほぼ同時に、後方でボアが倒れる気配がした。


 しかし、この一頭だけではないだろう。地響きはまだ止まないどころか酷くなっている。

血糊を振り払い、一旦剣を鞘に長納めると、急いで男性を担ぎ上げ荷車に向かって走り出す。


 荷台ではカルムがいつも腰に括り付けているカウベルの様な鐘を大きく鳴らしていた。


 ――ガラン ガラン ガラン――


 ピクシーたちの小さな笑い声と共に、メリルとメリアラの幻術が解け、本来のメェフィの姿へと戻る。

二メートル近いその姿は中々に凶悪だ。


「「メェエエエエエエ!!!」」


 二頭の鳴き声がビリビリと響くと、今度は僕を狙って麦畑から飛び出してきた三頭のボアが怯み、たたらを踏んだ。


どうして村のど真ん中に、こんなにボアが出るんだ!?


「カルム! 回復薬は一番手前の箱です!」

「わかった! 気をつけろ! 何かくるぞ!」


 男性は弾き飛ばされた衝撃からか、気を失っている。

太ももに牙を受けたようで酷い出血だ。早く手当てをしないと危ない。


 カルムが応急処置をしているのを背に、ボアを牽制しつつ麦畑を見つめる。

更に二頭ボアが黄金色の茂みから現れるが、それ以上に異様なものが目に入った。


 黄金色の畑から黒い小さな山が動き、近づいてきているのだ。


「マジかよ……」


 麦を食み倒しながら、地響きと共に広場へ現れたその巨体に、背筋がゾワりとした。

頼りない片手剣を構え直し、小さな山――ワイルドボアと相対する。


 土地によっては神様のように崇められているような魔物だ。

熟練のハンターだってよほどの事情が無ければ手を出したりはしない。


 そんな存在が、この小さな村を我が物顔で徘徊しているのだ。



 この旅を始めるとき、カルムと決めたことがいくつかある。


 戦闘に関わらず、光の精霊を使わないこと。

光の術はかなり派手だ、万が一見られてしまえば元勇者だとばれかねない。


 現に今も、窓からこちらの様子を伺う気配があるのだ。


 そして無理をしないこと。僕の体はかなり衰弱しているし、前の旅のように強力な武具も無い。

なので基本、戦闘は回避する。


 それが出来ない時は――



「クロード! 全力で追い返すぞ!」

「はい!」


 相手の体力を減らし、撃退する。いくら魔物でも命が尽きるまで戦い続ける事は稀だ。


 ガランガランと鐘の音が鳴ると、聴覚と視覚の一部を狂わされたボア達はうなり声を上げながら、まるでミサイルのように広場を走り回り始めた。


 そして、ワイルドボアへと突進を始める。

カルムの使役するピクシーの幻術で、自分達のボスが何か違うものに見えているのだろう。


 すかさずカルムが男性の応急処置に戻る。

万能な術のようだが、知能の高い相手には効き辛いし、カルムの魔力が元から少ないというのもあって、長期戦は難しい。



 僕達の戦い方は短期決戦しかない。


 突撃してくるボアたちを煩わしそうにしていたワイルドボアが、自身へと正面から飛んできたボアを鋭い牙で返り討ちにすると、大きく雄たけびをあげた。


「グウォオオオオオ!!!」


 村中に響き渡るようなその声に操られていたボアたちの足が止まり、正気に返ってしまったようだ。

それと同時に、家に立てこもっている村人達も何が起きているのか理解したことだろう。


 村を滅ぼしかねない厄災に見舞われているのだと。

GWも中盤ですね、インフルエンザが流行っているようなので、人ごみには気をつけてお過ごしください。

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