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悪役はファンタジーの世界で

この話は全体的に暗いです。次回からはそんな事ないのでご安心下さい。

いつまで経っても落下による衝撃が来ないことにゼロは不思議を抱き始めた。思い切って体を動かしてみると背中が地面と擦れる感覚があった。どう考えてもそれはおかしい。

あの高所から落下して生きていられる訳がない。だが、実際地面がある感覚は感じる事が出来る。

思い切って目を開いてみると空が高かった。それに、浮遊感もない。

やはり、地に足を付けていた。

だが、死んでいない以上に不思議な出来事が起こっていた。それは、中世の姿をした世界が見えたからだ。まるで、時間が巻き戻ったような感覚であるが、そうではないことが街の様子で分かる。

何の道具も使うことなく火をつけている人がいるからだ。他には井戸もなく水を出していたりする。科学だとしたら現世以上である。これを魔法以外形容しようがない。

立ち上がって周りをよく確認すると人通りが多く、スーツの格好をしているゼロに奇怪な視線を向けていた。だが、話している言語が分からず何の話をされているのかが分からない。マイナスであることは確かだろう。それを特に気にすることもなく、ゼロは一つの事に気付いた。二十代のままだと思ったが息苦しくなく、ヤニの匂いがしないことから自分がタバコを吸う前の十代である事に気付いた。鏡がなくいままで気にして来なかった。自分の体の時間が戻っている。

歩き回って街を見て回るとここが意外と広い所だと分かった。まっすぐに歩いているのに端に辿り着かない。

これが作り物でゼロを金持ちたちが道楽で見ている可能性もあるが、この作りこみ具合で見れば費用はマンハッタン計画を優に超える。それに、まだまだこのレベルの街はありそうだった。それに、魔法の様なもののと自分の体に説明が現実だと付かない。


ならば、流行りのVRだと推測するが、どう考えてもポリゴン数が多すぎる。この街全てをこのポリゴン数で形成しているのならば月位のサーバーが必要だろう。


ならば、何なのか。来世だと思っても生まれ変わっている訳ではない。答えがない袋小路に入れられた気分だった。


「カルヴァンの予定説を信じるなら、僕は相当変な賽子を振られたんだな」


無宗教であるゼロはもし神がいて、聞いていたらと思って嫌味っぽく言うが、変化は当然来ない。


ゼロはこの世界を一旦、異世界だと仮定してこれからどうするかを考えた。元の世界に戻りたくない訳ではないがまた死ぬのは御免だ。あれは完全に一本取られた。

だから、この世界を生き抜く方法をと考えるが。

悩みに悩んだ末。お腹が空いた。

頭を使ったこともあって糖分も欲しい。


「だけど、会話が・・・」


そもそも言語が違くコミニュケーション自体取れない。ジェスチャーだって共通な部分が沢山ある訳でもない。それに、この時代が中世だとしたら閉鎖的な超村社会でよそ者は受け付けない毛色がある。

コンタクトを取る場面から難しい。だが、動かないことには何の発展もない。目安を絞って話しかけようとした。


お金持ちの家だと怪しく見られ最悪、殺される。良くて投獄だが弁解が出来ない。どちらにしろ殺される。ここから出されるのは少し生活が豊かな庶民だ。

少し歩き回ってみると他の人達より明らかにきれいな服を着ている女性がいた。それに、服装自体は庶民の物と違いはなく貴族でもない。ゼロが探している人だ。


「あ、あの・・・」

「───?」


驚いている様子だけは伝わってきた。都心を歩いていると中国人が母国語で話しかけ何を伝えたいのかわからず戸惑う状態と似ている。


「ぱ、パンが欲しいです」


やはり伝わる気配がない。それに、周囲があの女性を助けた方が良いのではという空気になっている。これは退散しかなかった。


「どうしたものか・・・」


食料の調達は一先ず諦める事にしてゼロは水を優先させた。食料自体は取ってこれるが水はその限りではない。それに、川を見つければ水は確保できるので楽なのだ。

これだけ大きな街を運用しているのだ。どこかに川を引いているのは間違いない。問題はどこにあるかだが、ゼロからすれば見つけるのは造作もない事だった。


街というのは当然、川がある所から発展していく。そこから発展していけば最初に作られた小さな街がどんどんと大きくなる。という事は、人工的に無理やり作っていなければ川沿いが一番街で栄えるのだ。っして、栄えてる場所など人通りを見れば一発である。


疲れた足腰を立て再び歩き出す。

街並みが整備されていて中世だというのに環境が良かった。フランスならハイヒールが必要だ。

生活に余裕が出来てきたら詳しい年代も調べようと思った。それによって立ち振る舞いが変わってくる。

そんな事を考えていると川へ着いた。


そう、着いたのだが・・・


「ガンジス川かよ・・・」


見るに堪えないほど汚く臭った。ここから大体の事が分かった。

水が魔法というもので作れる以上、川からの水は田畑や移動でしか使わず飲料としては利用しない。だから、街のごみは排泄物も含め川に全て流しているのだ。その結果、街並みの衛生環境は中世の癖に奇麗なのだ。


「流石に、飲めないよな・・・」


泥水ならお腹を壊すかもしれないが飲むことは可能だ。だが、大量の排泄物が混ざったものを飲むとなれば食中毒は免れない。間違いなく死ぬだろう。


水の確保も出来なかった。それに、ここへ来る道の途中に井戸らしき物は見えなかった。灌漑しているところを見ると技術自体はあるが不必要だから使われていないと言ったところだろう。


だが、魔法を全員が使えるとは限らない。創作物では使える方が少数であることが多い。その可能性を駆けて街を歩き回るがそんな人間は見れなかった。

この世界における一般教養的な扱いなのかもしれない。確かに、考えてみれば当たり前である。魔法という存在が世界に馴染んでいるという事はかなり古くからあるということだ。ならば、簡単な少量の水を出すだけの基礎的な魔法ならば体系化されていてもおかしくはない。

いや、されているから全員が使えるのだろう。


最早、使えない人を探す方が大変だ。


「どうすれば・・・」


焦りは思考を搔き乱す。それはゼロ本人が一番分かっている。だから、冷静に考えを出すがどれも無意味であった。そして、歩き回った所為で体力的にも限界に近く脇に座り込んだ。


答えが出ないまま座っていると辺りは暗く夜になっていた。

更に不幸なことに酒臭い男たち四人組に目を付けられた。普段から力仕事をしているのか体格はかなり良い。そんな男たちはよそ者であるゼロに敵意を示し胸倉を掴んだ。すると、周りは止めるどころかギャラリーとなって面白おかしく囃し立てた。

警察的機能が働く様子は微塵もない。一つの娯楽として喧嘩はなりたっているのだろう。


筋肉自体は健康的レベルでしかゼロはついていないが素人四人程度には負ける気がしなかった。だが、手足に力が入ることはなかった。

掴まれた胸倉を離されると重たい拳が鳩尾へ綺麗に決まる。重い息を反射的に出し膝からゼロは崩れ落ちる。だが、男たちがそれで満足するわけなく蹴りやすい位置に頭が来たとしか思わなかった。


力任せで何も考えていない。普通なら当たる訳もない蹴りがゼロの側頭部へ当てられ視界が歪み意識が遠のいた。それでも、男たちはゼロを無理やり立たせた。この程度で人が死なないと分かっているからだ。

無理やり立たされると男は後ろに回り羽交い絞めにする。こうして、倒れる事が出来なくなったゼロは顔や鳩尾をサンドバッグの様にして何度も殴られた。


それでも抵抗がないゼロに飽きたのか夜風にあてられて酔いが醒めて来たのか男達は数分すると去って行った。

ゼロはその場に倒れこみ、体を動かそうとすると全身に痛みが走った。


「この感覚は懐かしいよ」


意識が遠のいて行く。体力的に限界が近いのだ。それに伴って走馬燈が駆け巡った。

一月の何日か。本人でも一月という事しか知らない。親は一月という事自体忘れているだろう。その日にゼロは生まれた。だが、出生届が出されることはなかった。

理由は親からのネグレクト。

とても単純だった。


ゼロが何故ゼロと呼ばれているかもこれが由来している。物心付いた時には名前で呼ばれていなかったからだ。だから、自分の名前なんて知らない。

そして、親の苗字を覚えるより前にゼロはその家から逃げ出した。

そこからが激動だった。幼い身が一人で生きていける程世界は甘くない。まだ小学校に上がる前だ。そんなときから人間の本能レベルで学習を欲した。


夜にはコンビニから食べ物を盗み出し図書館に不法侵入する毎日。


そして、他の子供たちが中学に上がる頃には生きていくために陽の目に当たる人生は出来ないと悟った。そして、ずっと自分の為に、生きて行くために生きて裏社会と戦争をした。


これ自身に後悔はない。

だが、出来る事なら次は。

微かな願いだから聞いて欲しい。


人の幸せの為に生きたい。


切にそう自分でも驚く考えが出てきた。だが、この願いに異論を出す自分は居なかった。

重たい瞼を閉じる。そうして、意識と感覚が全て遠のく。そして、死を覚悟すると。


唇辺りに何か感覚を覚えた。抵抗が出来ずなすが儘にされているとそこから口の中に何かが入ってきた。それは、水だった。

しかし、反射的にゼロは咽てしまう。喉から息を吐くと全身に痛みが回った。


「あっ・・・」

「─────!」


慌てる声が聞こえた。何を言ってるか分からないが、心地よかった。

次はゆっくりと水を口に運んでくれてゼロは何とか飲む事が出来た。飲み終えると千切られた固いパンが口の中に入れられ水分を奪って行く。


それをゆっくり咀嚼して呑み込む。

「あ、ありがとう」

伝わる訳がなかった。パンをくれたのはオッドアイの可愛らしいシスターだった。そんなシスターは頭の上にはてなを浮かべている。そこに何を思ったのかゼロは地面に落ちている石で全身の痛みに耐えながらありがとうと日本語で書いた。


書いて気付く。何故、伝わる訳がないのに日本語でこんな事を書いたのか。気が動転してお礼を伝えることを優先していたのだろう。自分らしくない。そう持っているとシスターは微笑みながら地面に文字を書いた。

日本語で。

いえいえ、困っている人たちがいたら助けるのは当たり前ですから。

日本語で帰ってきたことに驚き勢いよくシスターの顔を見上げた。

「何で日本語が?!」

それにシスターは文字で応えた。

私の眼には特殊な能力があってどんな言語でも解読出来て読む事と書くが出来るんです。初めて役に立ちました。

嬉しそうに石を走らせた。


これから止まる所はありますか?

いや、ないです。

では、私の教会へいらして下さい。人手が足りてないんですよ。報酬はあまりあげられませんが・・・

良いんですか? だとしたらありがとう

では、向かいましょう。

あ、名前を聞いてなかった。僕はゼロと言います。


通称として色々な人からゼロと呼ばれていたから特に気にしてはいなかったが自分で名乗るとなると恥ずかしかった。


私はグレジアです。それと、その堅苦しい口調は大丈夫ですよ。愛する隣人と他人口調だと宜しくないですから。

なら、そっちも。

いえ、私はこのままで。生まれつきなので


これが、ゼロとグレジアの初めての出会いだった。そして、ゼロがグレジアの為に生きると決意した瞬間だった。

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